2010年インドネシア・メンタワイ地震の津波波源 ―現地調査・津波波形モデリングによる―

Satake, K., Y. Nishimura, P.S. Putra, A.R. Gusman, H. Sunendar, Y. Fujii, Y. Tanioka, H. Latief and E. Yulianto (2012)

Pure and Applied Geophysics (Topical issue “Historical and Recent Catastrophic Tsunamis in the World Ocean”) DOI:10.1007/s00024-012-0536-y (全文)

 2010年インドネシア・メンタワイ地震の津波波源 ―現地調査・津波波形モデリングによる―

インドネシア・スマトラ島の西に位置するメンタワイ諸島で2010年10月25日に発生したメンタワイ地震(M 7.7)は死者約500人を含む大きな津波被害をもたらしました。地震波解析によれば、この地震はMに比べて異常に大きな津波を発生する「津波地震」であったとされています。「津波地震」は、地震のゆれは小さいにも関わらず、大きな津波を起こすことから、防災上はとても重要な地震ですが、例が少なく、その実態はよくわかっていません。日本では1896年に発生した明治三陸地震が「津波地震」であったとされています。 この論文では、現地調査によるメンタワイ津波の遡上高と浸水距離、沿岸や沖合の水位計に記録された津波波形の解析による断層面上のすべり分布の推定、そのモデルに基づく津波の浸水計算結果と現地調査結果との比較を報告しました。 南北パガイ島の西岸8か所で測定した津波の高さは最低2.5m、最高は9.3 mでしたが、多くは4~7 mの範囲でした。3か所の村落では、津波は海岸から300m以上も遡上しました。住民への聞き込みによると、地震のゆれは、近年発生したM 7.6, 7.7の地震に比べて弱く、地震動による被害は全く発生していませんでした。沿岸の検潮所、GPSブイ、DART式海底水圧計の計9か所で記録された津波波形を解析したところ、スンダ海溝付近の断層面の浅部で大きなすべり(最大6.1m)が発生したことがわかりました。これは、他の「津波地震」にも共通した特徴です。津波波形の解析からは、地震モーメントは1.0 x 1021 Nm (モーメントマグニチュード Mw 7.9)と推定されました。この断層モデルから、パガイ島沿岸の津波高を計算すると、測定された津波高さと大まかには一致しましたが、詳しい計算では、実測よりも小さい値となりました。この原因として、水深と標高データの精度に問題があるためと考えられます。現地調査に基づく地形データを用いた計算結果は、測定結果とほぼ一致しました。 測定した津波の高さ 津波波形から推定したすべり量分布