余震発生モデルにおける修正された速度・状態摩擦則(修正RSF)の効果

Tectonophysics (2012), http://dx.doi.org/10.1016/j.tecto.2012.11.028

亀 伸樹・藤田 哲史・中谷正生・日下部哲也

余震発生モデルにおける修正された速度・状態摩擦則(修正RSF)の効果

 地震は断層の滑り現象であり岩石摩擦の性質からその多種多様な局面を説明できます。これまで、岩石実験により摩擦のすべり速度と摩擦状態への依存性が調べられ、速度・状態依存摩擦則(略称RSF)として方程式の形にまとめられました。 RSFを用いて余震発生をシミュレーションすると、本震発生による余震発生率の増加とその後に生じる大森則に従う時間減衰が説明できますが、岩石実験からの発生率の予測値は地震観測データより非常に低くなります。実は、従来の摩擦則は実験データを完全には再現できない欠点がありました。我々は、この欠点が予測値が合わない原因ではないかと考え、欠点が全て解決されたNagata et al. (2012)の修正された摩擦則を用いて余震発生モデルを見直しました。 本震が発生して応力が突然上昇した場合の、個々の余震断層における地震発生をバネブロックモデルを用いて調べました。従来の摩擦則では、地震発生時刻は全ての余震断層において早められ、これにより余震発生率が高まります。一方、修正された摩擦則では、私たちの感覚とは全く反対に、一部の余震断層で地震発生時刻が遅くなることがわかりました(図1)。これは、普段は地震を起こしていた断層が、応力の急上昇が有った場合に、ゆっくり滑りを起こしてしまうからです。 このゆっくり滑りが本当に起きるのか、本研究の理論的な予測の有効範囲を、実験で確かめる必要があります。もし、実際に起きるとすれば、ゆっくり滑りの発生により、修正された摩擦則では余震活動の時間減衰が従来のように一定でなく急に減った後に元に戻るがことが予測されます(図2)。これが実際の地震でも起きているのか地震観測データで確かめる必要があります。また、当初の研究の動機であった余震発生率が低く見積もられる問題点は、修正された摩擦則を用いても根源的には解決されないことがわかりました。 図1 応力の上昇に対して生じる2つの対照的なすべりの反応。本震が起きなかった場合(黒)を基準にとり、従来の摩擦則では地震発生が早まる場合(赤)しか起きませんでしたが、修正摩擦則では地震発生が遅れる場合(緑)も起きることみつかりました。

 

 

 

 

図2:5つの異なる本震による応力上昇値に対する余震発生率の時間変化のシミュレーション結果。(a) 従来の摩擦則の場合、(b) 修正摩擦則の場合。