2015年6月16日浅間山の噴火活動

ウェブサイト立ち上げ:2015年6月18日

最終更新日:2015年6月26日

6月16日の午前、浅間山で小規模な噴火活動がありました。


(火山噴火予知研究センター:武尾 実)

浅間山火口内の様子

◎ 2015年5月23日と2015年6月24日の火口周辺

 2015年5月23日と6月24日の2回にわたり,群馬県の防災ヘリにより浅間山火口上空からの調査を行った.6月16日のごく小規模な噴火を挟んでの火口周辺の様子を,ほぼ同じ方角から撮影した写真で比較する.

2015年5月23日
2015年5月23日
2015年6月24日
2015年6月24日

火口内の広い領域から火山ガスや噴気が噴出している様子が判る.4月1日から6月22日までの火山ガスの噴出を示す地震(VLP)の数(左の軸:赤)及びその日別積算振幅(右の軸:青)を示したのが,図1であるが,この図からも火山ガスの噴出が6月10日頃から急増している様子が見て取れる.

fig3

浅間山の火口内部の中央には2009年2月の噴火以降,噴気孔が空いて,そこからVLPが起こった後に火山ガスが噴出する様子が観測されている.この噴気孔周辺を拡大した写真を次に示す.噴火前後のどちらの写真も,ほぼ同じ方角から同じ倍率で見たもので,赤い四角で囲んだ部分が火口西観測点である.噴気孔周辺の目立った噴石を赤丸で囲んで示しているが,これらの位置に変化はない.また,噴気孔周辺の黒く変色している部分は前日の降雨による変色の可能性もある.噴気孔周辺部を拡大してみると,火山灰と思わしきものが積もったとみられる場所もあるがごく少量で,6月16日の噴火では噴気孔周辺には大きな変化はなかったと言える.

2015年5月23日
2015年5月23日
次の写真は,この噴気孔から薄い有色噴煙が勢いよく出ている様子を捉えたもので,この様に噴気孔から断続的に火山ガスの噴出が継続している.
2015年6月24日

 

次の写真は,この噴気孔から薄い有色噴煙が勢いよく出ている様子を捉えたもので,この様に噴気孔から断続的に火山ガスの噴出が継続している.

2015年6月24日
2015年6月24日


 

(火山噴火予知研究センター・観測開発基盤センター・地震火山噴火予知研究推進センター)

 

浅間山2015年6月16日噴火に関する各種観測データの比較

東京大学地震研究所は浅間山で、各種地球物理観測を行っている。2015年6月16日噴火に関する様々な観測データのうち、火口近傍で得られたものを比較した。

 内容

 1.西側火口縁に設置した赤外カメラ観測による火口内の温度変化
 2.火口近傍に設置した、広帯域地震計の記録から見た地震活動
 3.画像、地震記録、空振記録の比較による、噴火開始時刻の推定
 4.広帯域地震記録と可視画像の比較による、地震動発生と噴煙放出の関係
 5.傾斜記録による、変動源の位置の推定と、噴火開始のタイミング

 

観測点の位置

図3
図1(a) 浅間山 山頂火口付近の観測点配置。火口東西の観測点には、可視カメラ・赤外カメラ・地震計・空振計・GPS等が設置されている。各観測点のデータは、無線LANや光ファイバーを通じてリアルタイムで東京に送られる。
図2
図1(b) 北東から撮影した浅間山山頂火口。

 

赤外カメラが捉えた火口内温度変化

図11
図2(a) 赤外カメラ画像。図の中央付近の白い枠で囲われた領域内の 最高温度、平均温度、最低温度が左上に数字で示されている。 右は温度スケール。画面をクリックすると、6月16日 1日分の変化が 動画で見られます。
図12
図2(b) 浅間山 火口西の赤外カメラによる温度変化。1分おきに得られる赤外画像(図2(a))から、噴気孔周辺の最高温度()・平均温度()・最低温度()を抽出したもの。  最低温度は、外気温度や東側の火口内壁の表面温度に対応しており、その変化は火山活動に対応しない。また、最高温度が下がっている時間帯は、火口内に雲がかかったために高温部が見えないだけであって、必ずしも温度が低下しているとは限らない。  噴火推定時刻(8:50)以降に温度が上昇し、14:30頃まで高温状態が続く。14:30~16:00頃の温度低下(薄青)は、雲によりマスクされているためと考えられるが、その時間帯に振幅の大きな長周期地震が起きていないことから実際に温度が下がっている可能性もある。17:00~17:30(薄緑)には長周期地震が発生しているので、この時間帯の温度低下は雲によるマスクと考えられる。

 

 

広帯域地震計が捉えた噴火前後の地震活動

図5

図3 火口西観測点に置ける、6/16 1日分の地震波形(上下動)。1トレースが10分間に相当する。噴気放出に前駆する地震動のうち、振幅や継続時間が比較的大きなものを赤矢印で示す。噴火開始推定時刻(8:50)以降14:30頃まで、比較的高周波の微動振幅が大きい状態が続く。その後しばらくの間、地震活動がやや低下するが、16:00頃から再び、噴気放出に伴う地震が活発に起きるようになる。

この地震活動の変化は、赤外カメラによる火口内の温度変化(図2)や空振の活動と対応している。

 

画像、地震記録、空振記録の比較による、噴火開始時刻の推定

図1

図4 地震波形と、画像・空振データの比較。

  •    上段:赤外カメラ画像 (8:48, 8:49, 8:50, 8:51)
  •    中断:火口西観測点の上下動地震波形。5秒から250秒のバンドパスを適用。
  •    4本の黒線は、上段の赤外画像の時刻に対応。
  •    2本の赤線は、下段の空振記録の始まりと終わりに対応。
  •    下段:火口東西の空振波形(青 火口西、赤 火口東) 1-7Hzのバンドパスを適用。

8:49までの赤外画像では目立った変化はないが、8:50の画像では高温部が広がり、8:51の画像で300℃を超える高温度域が現れる。この2つの画像間で噴火が起きたと考えられる。

8:50:47秒に火口東西で振幅数Paの空振が記録されている。火口底から観測点までの空振伝播時間は1秒程度であるから、ほぼこの時刻が噴火開始時刻と考えられる。

 

地震記録と可視画像の比較による、地震動発生と噴煙放出の関係

 図7

図5 火口西カメラによる、可視画像の1分間隔のスナップショット。有色噴煙がはっきり見える画像を赤枠で囲った。下段は、6/16 9:00~9:40の火口西地震計の上下動成分。赤線は、赤枠をつけた画像の時刻に対応する。赤破線は噴煙の色がやや有色の見えた時刻。

 パルス状の長周期地動(オレンジ)発生から3-4分遅れて火口底の噴気孔から有色噴煙が放出されることがわかる。各画面左寄りの白い噴煙は火口底北寄りのき裂から定常的に放出されている噴気で、地震動との対応は特にない。

 

傾斜記録による、変動源の位置の推定と噴火開始のタイミング

図6 火口東観測点の傾斜記録。上段:6/16 3:00-21:00まで18時間分の記録。下段:7:00~12:00を拡大したもの。赤い線は東西成分で上向きの動きは東上がりを示す。 緑の線は南北成分で下向きの動きは南上がりを示す。2成分の振幅比から傾きの方向は観測点から見て西北西であることがわかる。これは、火口内の北側付近が下がることに対応する。 パルス状の変化は、長周期地震の発生に対応しており、地震発生とともに火口内が急速に収縮しゆっくり戻る動きを繰り返していることが分かる。このような階段状の変化を繰り返しながら、火口方向への収縮が続いている。 拡大図を見ると、8:30分のパルス状の傾斜変化は8:50頃までにほぼ回復しているが、8:50に起きたパルス状変化の後は回復していない。このことから、8:30には山下がりの傾斜が始まっていたものの、動きが加速したのは8:50からであり、空振などから見た噴火開始時と調和的である。

図6 火口東観測点の傾斜記録。上段:6/16 3:00-21:00まで18時間分の記録。下段:7:00~12:00を拡大したもの。赤い線は東西成分で上向きの動きは東下がりを示す。 緑の線は南北成分で下向きの動きは南下がりを示す。2成分の振幅比から傾きの方向は観測点から見て東南東であることがわかる。これは、火口内の北側付近が上がることに対応する。

パルス状の変化は、長周期地震の発生に対応しており、地震発生とともに火口内が急速に収縮しゆっくり戻る動きを繰り返していることが分かる。このような階段状の変化を繰り返しながら、火口方向の膨張が続いている。

拡大図を見ると、8:30分のパルス状の傾斜変化は8:50頃までにほぼ回復しているが、8:50に起きたパルス状変化の後は回復していない。このことから、8:30には山上がりの傾斜が始まっていたものの、動きが加速したのは8:50からであり、空振などから見た噴火開始時と調和的である。

 


(火山噴火予知研究センター:市原 美恵)

浅間2015年6月16日微噴火に伴う空振活動

【空振波形】
浅間山頂火口の東西観測点で捉えた,空振波形の先頭部.火口に近い方のKAW 観測点における波の立ち上がりは,8時50分47秒.同じ場所に設置されている熱赤外カメラの1分間隔の画像データで,最初に噴出が見られたのは,8時 51分であったことから,これが噴火開始時の空振であると考えられる.空振波形の見やすい、1~7 Hz でバンドパスフィルターをかけている.
火口の縁で 3 Pa 程度というのは,噴火に伴う空振としては非常に弱い.例えば,現在,東京の南の西之島火山が活動を続けているが,この活動による空振が,130 km 離れた父島でも 1 Pa 以上の振幅で計測されることがある.

waveform

 

 

【噴火初期の微動と空振の振幅変化】
地震上下動(赤:火口西,緑:火口東)と空振(青:火口西,ピンク:火口東)の振幅変化.パルス状の強い波の影響を抑え,連続的な振動の振幅を見るた め,5秒の時間窓で平均二乗根を計算し,さらに30秒間の中央値を取った.周波数帯域は1-7Hz.8:10頃,噴火に先立ち,微動(地震)の振幅が増 加.噴火の発生した8:51頃より,空振の振幅が増加.地震,空振とも振幅は10分くらいの周期で変動するが,9:20頃から振幅の大きい状態が続いてい る..

Asama2015zoom

 

 

【微動・空振と熱赤外画像】
2015年6月16日の微動と空振の振幅変化と火口西観測点の熱赤外画像の対応を示す.熱赤外画像の温度範囲は0℃(紺)~300℃(白).画像の 黄色い枠の範囲で,水平各行ごとに温度最大のピクセルを選び,縦一列の温度データを作成する.それを,1分間隔の画像ファイルについて時間ごとに横に並べ 火口周辺の温度の時間変化を調べた.噴火開始前は,火口のみが高温で噴出のないため,熱赤外画像の下部のみが高温色になっている.噴火が始まると,図の上 部まで高温部が到達し,最高温度も高くなる.噴火が始まってから,火口部分にもまったく高温部が見えなくなる期間があるが,これは,噴煙に隠されて見えな くなったと考える方が妥当だろう.19時以降は図の上半分は低温の状態が続いている.この頃には,微動・空振の振幅も低下しており,噴出は弱まったようで ある.

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同様の解析を,2015年6月16日と17日の2日間について行った.微動・空振の振幅変化(a)と熱赤外画像(b)は,前の図と同様.また,振幅だけでは,微弱な波の有無が判別できないため,火口東西の空振計データの相互相関係数(c),および,火口東の地震上下動と空振データの相互相関係数(d)を調べた.火口から空振が伝播すると,火口東西の観測点の距離の違いから,(c)では、赤の帯が縦軸0.2s付近に見える.また,(d)では,空振に対する地面の応答の性質から,縦軸ゼロ付近の上が赤,下が青のパターンが見える.17日の夜には,火口西観測点の風のノイズが大きくなりかき消されがちであるが,空振は継続して発生していることが分かる.しかし,地震,空振,熱赤外画像のデータを総合すると,噴煙噴出を伴うような活動は,6月16日の8:51分から19時頃までであったと考えられる.

Asama2015

 

 

 


(東京大学地震研究所・早稲田大学教育総合科学)

 

浅間山2015 年6 月16 日噴火火山灰の観察結果【PDF411KB】

 

図1:浅間山6 月16 日噴火の火山灰粒子(径0.25-0.50mm;横幅約4.5mm)
図1:浅間山6 月16 日噴火の火山灰粒子(径0.25-0.50mm;横幅約4.5mm)