2012年スマトラ地震によって日本で生じた地殻弾性擾乱の連鎖

Andrew A. Delorey(1), Kevin Chao(2), Kazushige Obara(3), Paul A. Johnson(1)

(1)ロスアラモス国立研究所 (2)マサチューセッツ工科大学 (3)東京大学地震研究所

Science Advances, 16 Oct 2015, Vol. 1, no. 9, e1500468, DOI: 10.1126/sciadv.1500468

2012年スマトラ地震によって日本で生じた地殻弾性擾乱の連鎖

 

地震は主としてプレート境界や地殻内で発生する断層破壊現象であり,周囲の状態と相互に影響し合っています.これらの相互作用を解明することができれば,地震発生に関する理解を深めることができます.我々は,東北日本太平洋沖から沿岸部にかけて生じた様々な現象の観測から,2012年4月に発生したスマトラ地震(マグニチュード8.6)によって誘発された地殻内の弾性擾乱が,広範囲にわたって連鎖的に諸現象を引き起こしたことを明らかにしました.

このスマトラ地震は,全世界的に中規模の地震を誘発したことが別の研究(Pollitz et al., 2012)から明らかにされています.そのうち,東北沖地震の余震域に発生したスマトラ地震による誘発地震は,若干の時間遅れと移動性を示します.気象庁のカタログに掲載されていない地震活動が存在する可能性があるため,防災科学技術研究所高感度地震観測網Hi-netの地震波形連続データを用いて解析を行った結果,福島県沖で北東から南西に1日約70㎞の速度で移動する地震活動が検出されました.これは,断層すべりフロントが移動し,その先端における応力変化によって地震活動が誘発されたものと考えられます.

また,これまで東北沖地震の地震時すべり及び余効すべりの影響で伸長ひずみが鈍化しながらも継続していたものが,その誘発地震活動域に最も近い沿岸部で体積ひずみが圧縮に転じました.その原因は,福島県沖で正断層型の誘発地震活動が活発化したたことで東西伸長のひずみが卓越し,その隣接域である沿岸部において地殻が圧縮されたものと考えられます.

さらにHi-net連続データに含まれる地震波雑微動を用いた解析により,地震波速度の変化の有無を検証したところ,沿岸部の広い範囲でスマトラ地震の4日後以降から速度増加が認められ,約10日後に速度増加が最大となり,3週間程度継続しました.このことは,福島県沖の誘発地震活動によって沿岸部で生じた地殻の圧縮により,それまで伸長の応力場の下で開いていたクラックが閉じ,空隙が少なくなって地震波速度が増加したものと考えられます.

これらの沖合における震源移動,ひずみ変化,地震波速度変化を含む,広範囲にわたってダイナミックに誘発された弾性擾乱の観測は,プレートテクトニクスや地震活動,地震ハザードの理解に必要な地球弾性システムの新たな理解として注目されます.

東北沖obaraFig1-2
図1.マップ
(A)2012年スマトラ地震と研究対象領域.
(B)研究対象領域の拡大図.
青三角と緑三角はいずれもHi-net観測点で地震波速度の計算に使用され,緑三角は地震波のコヒーレンス解析にも使用されている.赤い大きな丸は2011年の東北沖地震の本震位置で,そのほかの赤丸は本論文で解析に用いた地震である.黒三角はF-net観測点HROとひずみ観測点KTA.右下の挿入図に,本解析で使用した浅い地震の位置を赤丸で,地震波速度を計算した領域をハッチで示す.

 

東北沖obaraFig2-1
図2.観測結果
(A)福島沖の地震活動の時空間プロット(31.32N, 134.10Eを原点).赤三角はP1(上)とP2(下),青三角はP0,図の全体に伸びる鉛直線がスマトラ地震の発震時である.
(B)観測点間コヒーレンスのスタック値.
(C)P0とP2(黒星)の地震活動(挿入図)の積算地震個数.P0の本震と北部の余震(青点)はP2の本震や余震(赤点),及びP0の南部の余震(赤点)に先行する.鉛直の破線はP0(左側の青線)とP2(赤線),及びP0の南部の活動(右側の青線)の地震活動開始時を示す.
(D)観測点間の走時差における変化のスタック値と標準偏差.赤のシェードは,走時減少の開始が含まれる時間範囲.
(E)KTAにおける体積ひずみ変化.
東北沖obaraFig3
図3.解釈.
(A)東北地震後.プレート境界で余効すべりが継続し,応力がプレート境界から前弧浅部に転移する.
(B)スマトラ地震によって浅い正断層型メカニズムの地震が誘発され,地殻が伸長する.
(C)正断層型地震による伸長の動きが,内陸側に圧縮の応力を生じる.