地震波輻射エネルギー総量の観点から見た西南日本における深部低周波微動の活動特性

案浦理(1,2)・小原一成(1)・前田拓人(1)

(1)東京大学地震研究所 (2)気象庁地震火山部

Geophysical Research Letters, 43, 2562–2567, doi:10.1002/2016GL067780.

地震波輻射エネルギー総量の観点から見た西南日本における深部低周波微動の活動特性

西南日本やCascadia等の沈み込み帯で発生する深部低周波微動は,短期的スロースリップイベント(SSE)と同期して活動するプレート境界におけるひずみの解放現象であることが知られています.これらの現象は,プレート境界固着域の深部隣接側の領域で発生することから,巨大地震発生と何らかの関係を有すると考えられており,その活動特性の解明は重要です.これまで,微動活動の全体像を把握するため,微動発生数の時空間分布に関する研究が盛んに行われてきました.しかし,微動の振幅が大きく活動度の高い時間帯には波形が複雑になるため,単純に震源決定精度により震源候補を選別してカタログを作った場合,活発な微動がカタログから漏れてしまう傾向があります.このような困難から,これまで地震波輻射エネルギー量を用いた定量的な観点からの微動活動特性の研究は,少数にとどまっていました.そこで本研究では,微動活動特性の定量的評価を行うため,微動活動が活発な時間帯における検出の取り逃がしを減らす新たな微動活動の解析手法を開発しました.各観測点で観測されるひとまとまりの微動活動を微動シーケンスとして始めに抽出した後に,震源決定・エネルギー輻射量を推定する新たな微動モニタリング手法です.この手法を用いて西南日本で11年間(2004年4月 ~ 2015年3月)に発生した微動を解析し,長期間にわたる微動活動を地震波輻射エネルギー量で評価することができました.

微動輻射エネルギー総量の空間分布から,西南日本の中では四国西部で非常に大きなエネルギーが輻射されていることが明らかになりました(図1).このことは,先行研究では取り逃がしていた部分も含め,活発な微動活動を適切に評価できたことを示しています.本研究ではさらに,tremor activity rate [J/km2/yr] (単位面積あたり,1年あたりの輻射エネルギー量)を用いて各領域の微動の活動度を評価しました.各領域での微動活動の時間変化は,それぞれほぼ一定の値を示していますが,豊後水道長期的SSE発生領域に近接する領域では2010年と2014年に定常時に比べて値が2~3倍程度に活発化していることが明らかになりました(図2).これら微動活動が活発化した時期は,豊後水道長期的SSEが発生している時期と対応し,微動活動が周辺の応力擾乱に影響を受けることを意味しています.

さらに,各領域で求められた定常時のtremor activity rateとプレートの沈み込み速度を比較しました(図3).沈み込むフィリピン海プレートの走向方向で見ると,いずれも紀伊水道を境とした西側の四国で高く,東側の紀伊・東海で低いといった対応関係を見出すことができました.一つの解釈としては,プレート沈み込み速度が速い地域ではプレート境界でより多くひずみが蓄積し,その結果微動活動も活発となっていることが考えられます.沈み込み速度,微動の活動度の境界となっている紀伊水道では,沈み込むプレートの走向方向が急激に変化しプレート形状が複雑になっていますが,このことが微動活動を含むひずみ解放プロセスに何らかの影響を与えていることが示唆されます.

図1. 11年間(2004年4月~2015年3月)に発生した微動による累積エネルギーの空間分布. (a) 本研究で得られた微動のエネルギーの空間分布. (b) 本研究(our result)と先行研究(Obara et al., 2010)の沈み込み帯の走向方向に対するエネルギー量のプロファイルの比較.
図1. 11年間(2004年4月~2015年3月)に発生した微動による累積エネルギーの空間分布.

(a) 本研究で得られた微動のエネルギーの空間分布.

(b) 本研究(our result)と先行研究(Obara et al., 2010)の沈み込み帯の走向方向に対するエネルギー量のプロファイルの比較.

図2. 各領域における微動のエネルギーのタイムヒストリー.各領域中の小領域(四国西部のA1–A4,四国東部のB1–B3,紀伊のC1–C3,東海のD1–D2)は下部の地図中に灰色の長方形で示されている.
図2. 各領域における微動のエネルギーのタイムヒストリー.各領域中の小領域(四国西部のA1–A4,四国東部のB1–B3,紀伊のC1–C3,東海のD1–D2)は下部の地図中に灰色の長方形で示されている.
図3. 沈み込み帯の走向方向に対する微動活動とプレート沈み込み速度 [Heki and Miyazaki, 2001] の比較.
図3. 沈み込み帯の走向方向に対する微動活動とプレート沈み込み速度 [Heki and Miyazaki, 2001] の比較.
参考文献

  • Heki, K., and S. Miyazaki (2001), Plate convergence and long-term crustal deformation in central Japan, Geophys. Res. Lett., 28, 2313–2316, doi:10.1029/2000GL012537.
  • Obara, K., S. Tanaka, T. MMaeda, and T. Matsuzawa (2010), Depth-dependent activity of non-volcanic tremor in southwest Japan, Geophys. Res. Lett., 37(13), L13306, doi:10.1029/2010GL043679.