四国西部の微動パッチ強度の不均質性

加納将行1,2、加藤愛太郎1、安藤亮輔3、小原一成1

1東京大学地震研究所 2現、東北大学理学研究科 3東京大学理学系研究科

Scientific Reports, vol. 8, 3655 (2018), doi:10.1038/s41598-018-22048-8

世界各地の沈み込み帯において観測される深部低周波微動は、巨大地震発生帯の深部延長で発生することから、巨大地震の発生に影響を与えることが示唆されています。従って、微動の活動様式や微動発生場の物理的な特徴を理解することは,巨大地震発生を含む沈み込み帯の地震サイクルを考える上で重要です。本論文では、輻射エネルギーの観点から微動活動をより適切に評価したAnnoura et al. (2016) (http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/2016/05/12/total-energy-of-deep-low-frequency-tremor-in-the-nankai-subduction-zone-southwest-japan/)の微動カタログを用いて、特に微動活動が活発な四国西部における微動の活動様式を調べました。

まず2004年から2015年にかけて短期的スロースリップを伴って発生した微動活動について、輻射エネルギーの空間分布を求めたところ、豊後水道に隣接する西側では輻射エネルギーが大きく、また東側では輻射エネルギーが小さくなる傾向が見られました。次に、個々の微動活動の時空間変化を詳細に調べたところ、およそ半分の微動活動で、微動が豊後水道付近で開始し、東へと拡散的な移動を示すことが分かりました。

これらの解析を基に、微動の移動速度とその時に輻射されるエネルギーの関係を調べたところ、両者に正の相関がみられました(図1)。また、微動の移動速度が速い期間は、Hirose and Obara (2010)において傾斜計から推定される断層すべり速度が速い期間と対応していました。

本論文では、以上の観測事実が、空間的に不均質な強度を持つ微動パッチが応力拡散により連鎖的に破壊するモデル(Ando et al., 2012)で、定性的に説明可能であることを示しました。このモデルを観測事実に照らし合わせると、四国西部の西側では強度が比較的高い微動パッチが、東側では強度が弱いパッチが分布していると考えられます(図2)。この微動パッチ強度の空間分布は、微動の発生数や潮汐応答性(Ide, 2010)、微動発生域の上盤の流体分布(Nakajima and Hasegawa, 2016)と非常によい対応をもっていることから、微動パッチ強度が不均質であるというモデルは、四国西部の微動の発生様式を説明する一つのモデルと言えます。

今後、このような解析を西南日本全体に適用することで、微動の強度分布の包括的な理解が可能となります。得られた強度の不均質と、微動発生数や流体分布、さらに微動域周辺の地震波速度・減衰構造と比較するとともに、微動発生域の浅部に位置する巨大地震発生帯との対応関係を調べることで、微動の発生様式の更なる解明を目指します。

謝辞:本研究は文部科学省・日本科学技術振興会科学研究費助成事業 新学術領域研究「スロー地震学」(JP16H06473)の一環として行われました。

図1:微動の移動速度と輻射エネルギーの関係。丸印は二日間の微動活動の移動速度と輻射エネルギーの常用対数での平均を表し、また丸印の大きさはその微動活動に含まれる微動の個数を表す。また、それぞれの標準偏差を灰色線で示した。微動活動が顕著に拡散的に移動した場合を赤丸で示した。赤線はAndo et al. 2012を基に得られた理論曲線を表す。
図2:四国西部の微動発生域の概略図。