紀伊半島沖南海トラフ地震発生断層の形状が,その断層面上に作用する応力とSlip Tendencyに及ぼす影響

Masataka Kinoshita, Kazuya Shiraishi, Evi Demetriou, Yoshitaka Hashimoto and Weiren Lin
Geometrical dependence on the stress and slip tendency acting on the subduction megathrust of the Nankai seismogenic zone off Kumano
Progress in Earth and Planetary Science, 6:7, 2019
https://doi.org/10.1186/s40645-018-0253-y

概要
海溝型巨大地震は,プレート境界断層面に働くせん断応力が,断層強度を超えるた時に発生する.すなわち地震が発生するかどうかは,「応力」と「強度」の両方を知ることが必要である.この両者を統一した,「Slip Tendency(Ts)」が断層の滑りやすさの尺度として利用されている.
本論文では,M8~M9の巨大地震を繰り返し起こしている南海トラフ地震発生帯の形状が3次元構造探査でよくわかっていること,また大深度掘削が進行中であることを利用して,断層の「形状」がその応力やTs分布にどの程度影響を与えるかどうか検討した.
断層形状として,今回はその傾斜角度と傾斜方位に注目した.構造探査の結果から,断層面の傾斜角度が10°程度から30°程度までばらつくことが分かった.それはTs値として2~3倍もの差となることが判明した.南海トラフ地震断層といっても,実際には断層形状により滑りやすさが大きく異なる可能性が示唆された.断層面上の摩擦強度が不明なので,実際に破壊発生条件は推定できないが,既往研究からの摩擦強度を適用すると,Ts値が低い場所であっても破壊発生条件に極めて近いことが示される.

紀伊半島沖南海トラフ地震発生帯周辺の地形図。★は1944年東南海地震および1946年南海地震の震源、コンターは1944年地震の破壊域。「ちきゅう」による掘削地点を○で示した。
上の図の黄色い四角の範囲内における,南海トラフ地震発生帯断層(図で「プレート境界」として示された面)上のSlip tendency(Ts,地震滑りを起こしやすいかどうかの尺度の一つ)の分布.背景の垂直断面は3次元地震探査で得られた速度構造.C0002は現在掘削中のIODP孔(星印がこれまでの掘削が終了した深度).図の左方向が北になる.