スペクトルの評価による安定した応力降下量推定手法の開発

Yoshimitsu, N., Ellsworth, W. L., & Beroza, G. C. (2019). Robust stress drop estimates of potentially induced earthquakes in Oklahoma: Evaluation of empirical Green’s function.

Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 124. https://doi.org/10.1029/2019JB017483

地震の震源の特性を反映した応力降下量は地震発生の物理から強震動予測まで,様々な場面で重要になるパラメタです.これまで世界各地で発生した地震の応力降下量が推定されてきましたが,その値には大きなばらつきがありました.応力降下量の推定では理論モデルと観測波形から計算されたスペクトルを比較し,応力降下量の算出に必要な3つの地震パラメタを求めますが,この際に地震パラメタが含む誤差が応力降下量の値の誤差につながっていると考えられています.このような誤差は,様々な要因でスペクトルに余計な情報が混ざりそのままでは理論モデルと比較できない観測データに対しても無理に理論モデルを当てはめていることが原因で生じます.そこで本研究ではスペクトルの比較を行う前に,そのクオリティを判断するための3つの評価プロセスを導入してスペクトルの選別を実施し,選択した理論モデルで評価可能なスペクトルのみを解析できるようにしました.

解析にはアメリカ合衆国オクラホマ州で2013年から2016年にかけて発生したマグニチュード4.5以下の地震のS波後続部分を用い,震源が近接した地震同士でスペクトル比を計算しました.観測波形から得たスペクトルの形状を評価するための項目として,(1)地震パラメタ間のトレードオフの大きさ,(2)理論スペクトルと観測スペクトルの残差のばらつき,(3)残差の周波数軸方向へのなめらかさ,を取り入れこの3つ全てをクリアしたスペクトルのみを解析に使うことにしました.

ある特定の地震Aと様々な規模の小さい地震との間で複数のスペクトル比を計算した場合,本来は地震Aについては全てのスペクトル比から同じ応力降下量が推定されるはずですが,スペクトルの選別を行う前は大きくばらついていました.しかし,評価プロセスを経た後はばらつきが顕著に小さくなっており,導入した評価プロセスが有効に働いていることが示唆されました.より正確な応力降下量を推定することで,震源の物理の研究がさらに発展することが期待されます.

スペクトル比. (a) (b) 3つの評価条件を満たしたスペクトル比と (c) (d) 満たさなかったスペクトル比.灰色はスタックする前の各観測点で収録されたスペクトル比,黒色はスタックされたスペクトル比.赤色は最もよくフィットする理論スペクトル比.