海洋リソスフェア・アセノスフェアのP波速度構造推定

竹内 希,川勝 均,塩原 肇,一瀬建日,杉岡裕子(神戸大学),伊藤亜妃(海洋研究開発機構),歌田久司

Inversion of Longer‐Period OBS Waveforms for P Structures in the Oceanic Lithosphere and Asthenosphere

Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 125, e2019JB018810. https://doi.org/10.1029/2019JB018810(本論文はエディターが選出したハイライト研究として,米国地球物理学会連合のニュースレターで紹介されました)

 海洋域には地震計が少ないため,詳細な海洋リソスフェア・アセノスフェアの構造を推定することは困難でした.これまで表面波の伝わりかた(分散曲線)などに基づくS波速度構造の推定は行われてきましたが,P波構造の推定は困難で,ほとんど情報がありませんでした.私たちは北西太平洋に広帯域海底地震計アレイを設置し,良質なデータを取得しました.取得された地震波形データを,理論的に計算された地震波形と比較することにより,詳細なP波速度構造を推定することに成功しました.

 P波速度構造とS波速度構造を比較すると,化学組成や物性に関する情報を得ることができます.今回推定されたP波速度構造と,同じ地震計アレイのデータの解析から以前推定されたS波速度構造(Takeo et al., 2018)を比較することにより,リソスフェア-アセノスフェア境界近傍で非弾性か部分溶融の影響がある可能性が分かりました.またリソスフェア内部の化学組成は均一でなく,成層構造をなしていることを示唆できました.これらはリソスフェアやアセノスフェアの成因や成長過程の理解を助ける重要な情報となります.

図:(a) 北西太平洋の2カ所(Area-A, B)に設置された広帯域海底地震計(★)と解析に使用した地震(●)の分布図.(b) 観測された波形(左)と計算から求めた波形(右)の比較.