平成12年度研究成果
当部門では,地球内部の流動や破壊過程の理解を通じて,地震や火山の噴火現象を解明してきた.特に,地殻内の応力変化,地表地震断層や活断層の形態とその調査法,活断層系の地震評価,プレート衝突によるひずみ蓄積過程のモデル化,地震・火山現象の解析と活動予測,高分解能都市強震動シミュレータ,希ガストレーサー,固液二相系の物性と素過程について研究を進めた.以下にその概要を述べる.
1.
地殻内の応力変化
3.
活断層系の地震評価
5.
地震・火山現象の解析と活動予測
6.
高分解能都市強震動シミュレータ
7.
希ガストレーサー
8.
固液二相系の物性と素過程
日本のGPS観測網によって計測される列島の変位増分から,地域毎のひずみ増分を計算し,さらに逆解析によって対応する応力増分を推定する手法を発展させた.最小二乗法による平滑化を行わずに,GPS観測点のデータを直接利用できることが大きな改良点である.この結果,GPS観測点のネットワークにおいて観測点が作る三角形領域でのひずみ増分の平均値を計算することができるようになった.さらに,逆解析では,最初に変位増分から列島全体の広域的な応力増分を推定し,ついでひずみ増分から局所的な応力増分を推定するようになった.ひずみ増分と応力増分を計算するコードを開発中である.
大地震や火山活動等の急激な地殻変動により周辺の応力場が変化し,周辺域の地震活動が明らかに変化する.この応力変化の増減と地震活動度の増減に一定の関係が認められる.この関係を用いて応力変化・変動を考慮した地震確率評価手法を開発している.2000年6月-8月伊豆諸島群発地震と10月の鳥取県西部地震に適用し,本評価手法の高精度化のための検討を行った.伊豆諸島群発地震では,深部のダイク貫入・成長により大多数の地震活動が誘発された.地震活動度の増加率は地殻歪み(応力)速度の増加率に単純に比例することがわかった.具体的には,6月末〜8月末の2ヶ月間で歪み速度は平常時の数百〜数千倍となり,地震発生率もほぼ同様に数百〜数千倍となった.また,ダイク貫入に誘発されたM6地震により,さらに周辺の地震活動が一時的に高まる現象がみられた.これらのM6地震の余震は,時空間的な歪み速度の差に比例して減衰した.今後同様のイベントが発生した場合,歪み速度の変動を詳細にモニターすることにより,地震活動の予測が可能と思われる.
活断層から発生した過去の地震規模を知るためには,地震の際の変位量を検出する必要がある.このため,地層抜き取り装置と考古学的掘削手法を組みあわせることによって,地層に記録された過去の地震のずれの量を3次元的に復元する手法を開発している.そのケーススタディとして丹那断層(静岡県函南町田代地区)を調査し西暦841年および1930年北伊豆地震時の各横ずれ変位量を検出した.
1999年のトルコ・台湾地震以降,地震工学の分野では,地震がもたらす脅威として,強震動の他に,地表地震断層に大きな関心が寄せられている.これによる被害を軽減するには,断層の発生の可能性や,発生した場合に生じる地盤変形に関して合理的かつ信頼できる予測が必要である.この予測のため,地表地震断層の発生過程に生じる複雑な分岐現象を再現し,かつ,地表層の構造や材料特性の不確からしさを考慮できるよう,確率有限要素法の開発を行っている.断層の発生や形状に対して,期待値のみならず分散等も計算することで,ばらつきの大きい断層の挙動の予測を確率的に評価することができる.現在,横ずれ断層に伴う周期的なリーデル線の発生の再現に成功し,有限要素法のコードの改良とともに,解析手法の高精度化を行っている.
さらに,断層進展挙動の支配メカニズム解明を目指して,光弾性と逆解析を用いた三次元応力場計測手法を開発中である.非接触・非破壊で物質内部の応力場の履歴を計測することにより,物質内部で不安定かつ三次元的に成長する破壊過程を詳細に追跡することが出来る.現在までに実験装置の基本部分の開発を終え,計測データ(多方向からの光弾性パターン)から三次元応力場を得るための逆解析手法を開発中である.
糸魚川-静岡構造線活断層系など,複数の断層から構成される大規模な横ずれ断層系からは,M8級の内陸地震の発生が懸念されている.1999年に北アナトリア断層系の活動により発生したイズミット地震(M7.4),デュズジェ地震(M7.1)は,長大な区間が一度に活動せずに,時間をあけて連鎖的に活動した.大規模断層系による地震の繰り返し発生挙動を解明するために,過去と1999年の地震発生パターンとを比較する研究を行っている.イズミット・デュズジェ地震断層でトレンチ掘削調査を行った結果,1999年と同様の区間が150年〜250年前に活動した証拠を得た.今後さらに詳細について調査検討する予定である.
また,日本の陸域の活断層で起こる地震の震源規模を予測するため,歴史地震および活断層の調査結果にもとづいて既往のモデルを検討した.その結果,松田(1990)の起震断層も隈元(1998)の分割放出モデルも実際の震源規模を予測できないが,前者は震源規模の上限をほぼ予測できることがわかった.一つの地震で破壊する領域は,一つの活断層系全体の長さの1/4-1の範囲に分布する.分割放出モデルの各セグメントが独立して活動する可能性だけでなく,隣接セグメントが連動する可能性をも考慮した,連動セグメントモデルが最も良く観測データを説明する.
プレートの衝突境界での歪み蓄積過程を食い違い理論を使って,初めて定式化した.その結果は水平デタッチメント断層の一端での変形と等価であり,日本列島内部での歪み蓄積過程に適用できることがGPS観測結果を利用して示された.またGPS観測結果から,陸域のリソスフェアが比較的薄い(厚さ約30km)ことが明かとなった.沈み込み境界とトランスフォーム断層については既に定式化が確立しているが,発散境界は衝突境界の逆なので,これですべてのプレート境界での歪み蓄積が定式化されたことになる.
5.地震・火山現象の解析と活動予測
地震の発生や火山の噴火は力学的な破壊過程そのもの,あるいはそれと深く結びついた現象であり,両者の間にも密接な関係があると考えられる.力学的な視点や確率過程としての視点からそれらの活動経過を分析し,地震・火山現象をいっそうよく理解するとともに,実効的な予測手法を模索する研究を進めている.2000年三宅島,神津島,新島周辺の地震においては活発な活動の特徴をとらえ,4時間程度の時間幅でM5〜6の発生を事前に予測する試みなどを実施したが,良好な結果を得た.2000年鳥取県西部地震や1999年台湾集集地震などでは余震頻度の予測を試み,90%くらいの確度を保つにはどのくらいの幅をもたせて余震数を想定する必要があるか検討した.また,必要に応じて地殻変動の検出にも努め,新しい手法である時間差実体視法の有効性や効率的な解析法について検討しながら,岩手山や有珠山などにおける山体の変動を追跡した.これにより,2000年有珠山の噴火に際しては,広範囲に立ち入り規制された噴火直後の時期に,西側山麓で顕著な隆起が進行していることを遠方からの観測でいち早く明らかにすることができた.
6.高分解能都市強震動シミュレータ
都市の防災や危機管理には,強震動をより高い空間・時間分解能で予測することが必須である.このため,震源断層から都市各地点までの地震伝播の全過程を超大規模数値シミュレーションによって計算する高分解能強震動シミュレータの開発・改良を行っている.このシミュレータは,計算効率の向上のために階層型解析を行う.数値解析手法としては,ボクセル型の有限要素法を用いており,3次元波動伝播を高精度で計算できるよう種々の数値解析上の工夫を凝らしてある.開発中のコードを用いて横浜市で観測された実地震動をシミュレートしたところ,観測データの再現には良好な結果を得ている.また,このコードは地球シミュレーション計画のGeoFEMに参考となる予定である.
7.希ガストレーサー
マグマ活動の時空分布,地球内部からの脱ガス過程,地表における浸食率,惑星形成・進化史などの解明を目的に,揮発性元素のひとつである希ガスをトレーサーとした研究を行っている.希ガスは化学的プロセスの影響を受けにくいため物理的プロセスを探求するのに有用なトレーサーであり,また,核壊変で作られる核種として4He,40Ar, 129Xeといった同位体を持つ.希ガスのこのような特徴をもとに,マントル起源物質からもたらされる希ガス成分を調べて,マグマ活動における物質移動やタイムスケールを推定する研究,地表に存在する岩石中に含まれる,宇宙線照射により生成された希ガス同位体3Heなど)を定量することにより,その岩石が地表に滞在していた期間やその地域の浸食率を求める研究,小惑星や火星起源物質から,惑星形成初期の火成活動史や火成活動の熱源について制約を与える研究などを進めた.また,極微小領域希ガス分析のために,レーザー照射により試料を溶融する方法も試みている.
8.固液二相系の物性と素過程
流体の存在が弾性波速度に与える影響は,通常縦波よりも横波に対して顕著に現れる.このことから,Vp/Vs比の観測は,地球内部の流体を地震学的に検出するための重要な手段となっている.しかしVp/Vsの変化が,流体を含んでいるポアの形状に大きく依存することは,あまり知られていない.まず,これまでの理論モデルにおいて使用されてきた様々なポアの形状(界面張力平衡にある時の流体形状からクラックまで)を系統的に整理した.次に,流体の体積分率に依存しない量であるdlnVs/dlnVpを,ポアの形状と流体の圧縮率の関数として導き,Vp/Vs比の変化において,ポアの形状と流体の種類(ガス,水,メルト)とが果たす相対的な役割を明確にした.
変形・流動下にある部分溶融物質において,安定となる流体形状をエネルギーの側面から考察した.既に実験により,差応力下では系の界面エネルギーを最小にする平衡構造とは異なる異方的な構造が生じることを確認している.この構造は界面エネルギーのみ考えた場合には安定ではないが,差応力下で異方的構造が発達することにより,各固体粒子内部に蓄積されている歪みエネルギー(液圧と最小主応力の差により生じている)が解放される.この解放分が界面エネルギーの増分を補償するため,差応力下では異方的構造が安定になることが分かった.このモデルを用いると,異方的構造が発達するために必要な差応力の大きさは,固体粒子の弾性定数,界面エネルギー,および粒径によりスケーリングされる.アナログ試料を用いた室内実験で観察された構造変化が,地球内部の部分溶融岩石で発生するために必要な差応力は,1-10 MPa程度と見積もられ,実際の地球内部でも異方的構造の発生が期待されることが分かった.