熱帯林変動モニタリングにおけるコヒーレンスの利用
Utilization of Coherence for Monitoring of Tropical Forest Change

竹内章司(広島工業大学)
Shoji Takeuchi (Hiroshima Institute of Technology)
e-mail: sh-take@cc.it-hiroshima.ac.jp

Abstract: The author preliminary studied the applicability of coherence information for monitoring the change of tropical forest conditions. First, the changing patterns of SAR backscattering intensity of JERS-1 SAR data in a tropical forest region in Sumatra Island were investigated and it was found that the backscatter changes are rather complicated than those estimated from conventional studies. Then the coherence images by several JERS-1 SAR interferometric pairs were presented and the relationship between coherence and backscatter changing patterns was discussed. The result suggested some usefulness of coherence for identifying deforested areas combined with the change of backscattering intensity.
 

 1. はじめに
  近年、SARデータによる土地被覆の分類およびその変動の抽出に、干渉SAR技術から得られるコヒーレンスを利用しようとする研究が盛んになってきている。著者も、これまで森林を対象として土地被覆状況の判別にSARの強度とコヒーレンスの併用を試みてきた1)、2) 。コヒーレンスは位相情報の変動に敏感であるため、対象物の表面の波長オーダーの微細な変動を検出でき、SARの強度では検出不可能な変動を検出できる可能性を持っている。反面、ベースライン長や観測時の気象条件などの影響を受けやすく、特徴量としてはかなり不安定である。また、基本的に可干渉ペアしか使用できないため、使用できるデータが限定されるという問題もある。本報告は、上記のような特徴を持つコヒーレンスが、SARデータで熱帯林の変動のモニタリングするためにどの程度利用可能かについて予備的な検討を行ったものである。

2.熱帯林のモニタリングにおけるSARの利用
 これまで、熱帯林におけるSARデータの利用に関しては、SAR後方散乱強度が森林のバイオマスと一定の相関関係があることが明らかにされており3)、4)、このことを利用すれば、熱帯林の伐採状況をSARでモニタリングすることは十分実現可能性がある。著者もインドネシアのスマトラ島を対象として、JERS-1 SARデータの後方散乱強度を用いて熱帯林の変化(プランテーション開発による森林伐採地域の検出)を試みてきた5)。しかし、その結果、森林伐採による後方散乱の強さは、必ずしもバイオマスの減少を表す方向に(すなわち後方散乱が低下する方向)に変化せず、少なくとも一時的にはむしろ上昇するという結果を得ている。このように、SAR後方散乱強度と熱帯林の伐採との関係も必ずしも単純ではなく、後方散乱強度だけで熱帯林の変動を抽出することにも問題がないわけではない。したがって、後方散乱強度と併用してコヒーレンスを利用することにより、熱帯林の変動をより確実に把握することが期待できる。

3.研究対象地域および使用データ
研究対象地域をFigure 1に示す。スマトラ島南部の中央部に位置する50Km四方の地域を対象とした(図の四角で囲まれた地域)。スマトラ島は全島的に泥炭地が広く分布し、その上に生育する湿地林も広く分布する。このような湿地林は人間の生活には適さないため、これまではほとんど手付かずの自然の状態で維持されてきた。しかし、近年、油やし等の商品作物の需要の増大に伴って、対象地域においてもプランテーション開発が進み、それに伴って湿地林もまた開発のターゲットになっている。その開発のテンポは最近になるほど加速されており、今回対象とした地域では、現在、湿地林はほとんど消滅状態にある。 Table 1に使用した衛星データの一覧を示す。対象地域の森林の変化状況を確認するため、3時期の光学センサ画像を併用した。

Fig.1  Study area


Fig.2  Multi-temporal JERS‐1 SAR images of the study area (from Sep.,1996 to Oct., 1997).

Table 1 List of satellite data used in the study.
 
 
 Sensor  Observation Date (yy/mm/dd) 
MOS-1 MESSR  90/5/23
SPOT  HRV  97/06/30 & 98/08/10
 JERS-1 SAR 92/10/24, 94/07/02, 96/09/01, 96/10/15,96/11/28, 97/02/24, 97/07/06, 97/10/02,97/11/15, 97/12/29, 98/02/11, 98/03/27, 
 98/09/19

4.SARデータによるモニタリング結果
4.1 SAR後方散乱強度による結果
   Figure 2およびFigure 3は、対象地域におけるJERS-1 SARデータの時系列画像を示す。 Figure 2は、1996年9月から1997年10月までの変化を表したもので、画像の中央左部分で新たに後方散乱が明るく変化した部分が現れ、最後にその部分が暗く変化していることがわかる。1990年のMESSRと1997年のSPOT画像により、この場所は元々湿地林であったところが伐採され、伐採後に倒木が燃やされていることが確認されている。
2.で指摘したように、SARの後方散乱は、伐採後低下せずにむしろ上昇し、その後になってから低下するという変化をしていることが明瞭であ

る。この理由としては、伐採後直ちに整地が行われずに、倒木をしばらく放置しておき、最後に焼却処理を行うためと考えられる。なお、アマゾンの熱帯雨林を対象とした既存の研究でも同様な結果が報告されている6)。この論文の中では、後方散乱が上昇する理由として伐採後に地面に放置された倒木による直接散乱が挙げられている。
   一方Figure 3は、1997年10月以降の半年間の変化を表している。この画像では、後方散乱のパタン自体がかなり複雑になるとともに、全体的にやや明るくなるような変化をしていることがわかる。しかし、Figure 2のような明瞭な輪郭を伴った変化パタンは現れていない。したがって、Figure 2に比べると伐採地の判別はやや困難なケースと言えるであろう。 実際には、1997年と1998年のSPOT画像の比較により、画像の中央部に残っていた湿地林がはほとんど完全に伐採されていることが確認されている。また、Figure 3でも、伐採された地域は、後方散乱が明るく変化している場所と一致していることが確認されている。
 


 Fig.3  Multi-temporal JERS‐1 SAR images of the study area (from Nov.,1997 to Mar., 1998).
 

 4.2  コヒーレンスによる結果
   Figure 4には、使用した時系列SARデータの中で、比較的良好な干渉を示したペアによるコヒーレンス画像を示す。そのうち、左上は、1996年の10月と11月のペア、右上は、1997年の10月と11月のペアによる結果である。両者の画像ともに、既存のプランテーション開発地ではコヒーレンスが高く、逆に中央の森林部分では低くなっている。この結果は、従来の研究による森林におけるコヒーレンスの傾向と一致している。さらに、左上の画像では、森林の中でも天然の湿地林でコヒーレンスがかなり低いことも注目される。また、右上の画像では、1997年になってから出現した森林伐採地がコヒーレンスが高い場所として非常に明瞭に現れていることがわかる。
 一方、左下の画像は、右上のペアからすぐ後の1997年12月と1998年2月のペアによる結果、右下は、その後の1998年2月と3月のデータによる結果を表している。この2つの画像の特徴的なことは、前者の2つの画像で暗く現れていた森林部分のコヒーレンスがやや上昇傾向を見せていることである。特に、1998年の2月と3月のペア
による画像ではこの傾向が顕著である。この結果は、1997年12月以降では、画像中央の森林部分の伐採がかなり進行していたことを示唆している。特に、1998年2月以降はほとんど伐採されてしまったものと考えられる。しかし、コヒーレンスの値自体は、1997年の伐採地程には高くなっていない。これは、前者の伐採地ほど伐採と整地が完全に行われていないためと推測される。このことはまた、1998年のSPOT画像のパタンからも推測することができた。

5.まとめ
 以上、熱帯林の伐採状況の把握におけるコヒーレンス情報の利用可能性について予備的な検討を行った。森林伐採地は、本来はSAR後方散乱強度の変化のみを用いてもある程度は把握することが可能な対象である。したがって、今回の事例におけるコヒーレンスの効用は、後方散乱強度


Fig.4 Coherence images from JERS-1 SAR interferometric data pairs.

 の変化を補うという限定されたものである。
 伐採地の把握以外の利用方法としては、4.2で湿地林のコヒーレンスが他の森林より低かったことから、後方散乱強度では困難な樹種の判別等への応用が考えられる。しかし、本事例では森林部分の干渉性が十分ではないため、明確な結果を得るまでには至らなかった。このように、熱帯林でのコヒーレンスの利用に際しては干渉性の問題が依然として残っている。しかし、少なくともLバンドSARは、Cバンドに比べれば熱帯林での干渉性をある程度は確保できることが本事例により示されたものと考えられる。したがって、今後のALOS PALSARデータの熱帯林への利用に際しても、干渉SARが1つの有力な手段になることが期待できるであろう。

謝辞
  本研究に用いたSAR画像処理システムは、文部省による私立大学のためのハイテクリサーチセンター助成金により設置されたものであり、ここに記して感謝する。

参考文献
1)竹内、米澤、インターフェロトリックSARにおけ るコヒーレンシーと土地被覆との関係、日本リモー トセンシング学会 第21回学術講演会論文集、1996・11
2)竹内、米澤他、INSARによる熱帯地域の地形 および土地被覆情報の抽出、日本写真測量学会   平成 9年度年次学術講演会論文集、1997・5
3)Luckman,A., J.Baker, T.M.Kuplich,C.C.F.Yanasse,and  A.C.Frery, A Study of the Relationship between  Radar Backscatter and Regenerating Tropical Forest Biomass for Spaceborne SAR Instruments, REMOTE SENS. ENVIRON, 60,1-13(1997).
4)Rosenqvist,A., Evaluation of JERS-1, ERS-1 and  Almaz SAR backscatter for rubber and oil palm stands in West Malaysia, INT. J. REMOTE SENSING, Vol.17, No.16, 3219-3231(1996).
5) 竹内、菅、小西、衛星リモートセンシングによるスマトラ島の熱帯雨林伐採のモニタリング、日本写真測量学会  平成11年度年次学術講演会論文集、1999・5
6)Rignot,E.,W.A.Salas, and D.L.Skole, Mapping Deforestation and Secondary Growth in Rondonia, Brazil, Using Imaging Radar and Thematic Mapper Data, REMOTE SENS. ENVIRON, 59,167-179(1997).