InSARにおける地表面のテンポラルな位相変動につい て

Temporal phase variation of the earth surface in InSAR

木村 宏,木下浩 晃 (岐阜大学)
大石 哲,河合雅己,徳田正幸(国際航業梶j

Hiroshi Kimura*, Hiroaki Kinoshita*, Tetsu Ohishi**, Masaki Kawai**, Masayuki Tokuda**
Gifu University, ** Kokusai Kogyo Co., Ltd.

hkimura@cc.gifu-u.ac.jp

Abstract: Experiments using 2-m trihedral corner reflectors were conducted from May 1997 to September 1998. Interferometric analysis of acquired JERS-1 SAR data shows that intentional displacements given for a certain reflector produces reasonable phase changes. However, large phase changes beyond our expectations were observed for some reflectors that had no displacement. In measuring the phase change of the reflector, a background of it is assumed to be immovable. This result suggests that some phase changes may exist in the background. We investigated phase variations in a certain small and very flat area, and found many local phase changes over the area. It is not certain that these phase changes directly correspond to surface displacements, but this shows difficulty in detecting local changes using SAR interferometry.

1.はじめに

 19975 月から19989月にかけて,48器の2m三面CRを使用した実験をJERS-1 SARを対象に計11回実施した。CR設置の目的は,@衛星軌道や干渉基線推定のためのGCPとして使 用する。A一部のCRに作為的な変位を与え,DInSARによ る変位計測能力を検証する。B位相基準点として使用することにより,大気水蒸気の 影響等を解析する。である。ここでは,上記にAに関して現在までの結果を報告する 。

2.解析データ

 解析に使用した干渉データをTable 1に示す。

Table 1. Data used in this study
Name
Date of master scene
Date of slave scene
Altitude of ambiguity (m)
Displacement between two data for CR #7 (cm)
Comment
11-02
11/11/97
02/07/98
800
10.3
 
12-05
12/25/97
05/06/98
630
6.3
 
11-03
11/11/97
03/23/98
390
10.3
 
05-06
05/06/98
06/19/98
280
0.0
Rain on 06/19/98
02-03
02/07/98
03/23/98
260
0.0
 
12-06
12/25/97
06/19/98
190
6.3
Rain on 06/19/98

3.CR変位と干渉位相の関係

 CR変位と計測した干渉位 相の関係をFig.1に示す。CR設置場所における使用 上の都合のため,実験の度にCRを再設置するが必要あ った。設置位置の再現性は±1 cm以内であり,2つの干渉データ間での位 置誤差は±2 cm以内である。Fig.1には,±2 cmの設置誤差による位相範囲の上下限を破線で示した。なお,Fig.1の縦軸である位相差の計測では,CR周辺部の平均位 相を位相基準とした。Fig.1は,作為的に設定し た6.3 cm10.3 cmの変位に対して妥当な位相差が 検出されたことを示す一方,動かしていないCRの一部に予想を越える 位相差が検出されたことを示す。

Fig.1. Relationship between CR displacement and measure phase difference

4.局所的な位相変動の解析

 CRの設置位置については ,実験期間およびその前後で計4回にわたりGPS測量を実施し,CRの設置位置に有意な変位が生じていないことを確認した。従って,Fig.1に現れたいくつかの予想を越える位相差は,CR周辺部の位相変 化に起因する可能性を示唆する。そこで,平坦な1.5 km四方のある 小領域(Fig.2)について干渉位相の詳細を解析した。対象データはTable 1の上から5つで,いずれも位相変化 2pに対する標高変化(Altitude of ambiguity)が大きい。解析には,地形に起因する位相が残余して いるデータを使用したが,実際の地形が平坦であることと先の理由により,地形の影 響は無視できる。また,極めて小さな領域であるので,大気水蒸気等の不均一性の影 響も小さい。また,位相雑音を軽減するため,各ピクセルについて周囲27 ルック相当の平均位相を算出し,さらに領域全体の平均位相が0 になるように調整した。その結果,位相変動のないピクセルの位相差は0 およびその近傍に分布すると期待される。Table2には,位相差が± p /10および±p/5以内の地表面積の百分率を示す。Fig.2が示すように ,対象領域には水田,果樹園,宅地,大学キャンパス,グランド,河川および河川敷 等が存在する。水田や河川敷では1年を周期とする植生変化 がある。Fig.3は,上段が各干渉位相画像,下段が各コヒーレンス画像 ,中段がコヒーレンス0.6以上の部分のみの干渉位相画像である。

Fig.2. Map of the study area.

Table 2. Area percentages of small phase difference
  11-02 12-05 11-03 05-06 02-03
Df<|p/1 0| 49.9 49.3 37.7 41.9 56.5
Df<|p/5 | 73.8 69.4 57.7 61.9 79.5

 

Fig.3. Comparison of interferometric phase and coherence. Top row is phase of the whole area, middle row is phase of the area with coherence of more than 0.6 and bottom row is coherence.

 局所的位 相変動に関する現在までの解析結果をまとめると以下のとおりである。

(1)局所的位相変動の割合は大きく(20%以上),その大きさも−p から+p に分布する。

(2)局所的位相変動は,地表物の種類や干渉の組合 せによって広がりおよび量が変動する。ピクセル単位のランダムな変動や,数ピクセ ル規模のまとまりを有するオフセット的な変動がある。同じ干渉データ中の同種の地 表物でも,変動を生じたり生じなかったりする。この場合,変動パターンがピクセル 単位と細かいため,大気の影響とは考え難い。

(3)数百m四方程度の大きな領域で平滑化すれば, 局所的位相変動は消えると予想される。

5.おわりに

 InSAR位相の局所的な変動 が観測された。この変動が実際の地表変動に対応するかどうかは定かでないが,これ を変動とするならば,面的には小規模で変位量的には大きな変動となり,現実として は考え難い。従って,このような位相変動は,地表物の散乱に起因すると予想される が,さらに調査が必要である。また,このような位相変動により,InSARによる局所的変動の観測の困難さが予想される。