ERS-1/SARデータを用いたインターフェロメトリィによる埼玉県東部 地域における地盤沈下抽出の試みと基線長推定の一方法
A practical method of baseline estimation for detecting land subsidence by ERS-1/SAR interferometry

○米澤千夏((財)リモート・センシング技術センター)・竹内章 司(広島工業大学)
Chinatsu YONEZAWA (Remote Sensing Technology Center of Japan) and Shoji TAKEUCHI (Hiroshima Institute of Technology)
e-mail: chinatsu@restec.or.jp

Abstract: Baseline distance of interferometric ERS-1/SAR data pair was estimated by orbital fringe pattern on the initial interferogram and digital elevation model without using ground control points and orbital information. The interferogram of eastern Saitama prefecture, in which orbital and topographic fringes were removed, indicated local phase difference change patterns. Most of them corresponded to fine leveling results. This study suggested that land subsidence detection on urban area is possible by C-band SAR interferometry.

1. はじめに
 DINSAR(Differential Interferometric SAR)によって地形変動を抽出するに は、変動以外の要因による干渉縞を除去する必要がある。そのためには2つの人工衛 星軌道の位置関係(基線)の推定が重要である。ここでは人工衛星の進行にともなう 基線長平行成分の変化によっても軌道縞が生じることに注目し、軌道情報と地上基準 点を用いることなく、より簡便に基線長を初期インターフェログラムから推定するこ とによって軌道縞の除去をおこなった。そして埼玉県東部地域をテストサイトとした 結果、地盤沈下に相当する干渉縞が抽出されたこと1)について報告する。

2. テストサイトおよび使用データ
 使用したデータは1993年4月16日と1995年11月5日に取得されたパス-ロウ:64- 241のレベル0データ(生データ)である。テストサイトとして選定した埼玉県東部 地域においては地下水の汲み上げ等を原因とした地盤沈下が報告されている。変動量 は毎年精密な水準測量によって観測されており、地域によっては年間最大3cmにおよ ぶ。また、本地域は地形的に平坦であり、変動抽出を目的としたインターフェロメト リィには有利である。また、ほとんどの地域が市街地・農地として使用されており、 干渉性が高いことが期待できる。

3. インターフェログラムの生成と基線長の推定
 目視によって得た対応点をもとに二次多項式によって1993年4月16日画像に199 5年11月5日画像を重ね合わせ、複素SARデータから位相差を抽出することによって初 期インターフェログラムを生成した(Figure 2)。初期インターフェログラムにおいてはコヒーレンスを利用することによって最 適対応画素の決め直しをおこなった。初期インターフェログラムでアジマス方向にあ らわれる軌道縞より、人工衛星の進行に伴う基線長平行成分の変化量を推定した。基 線長垂直成分についても人工衛星の進行に伴う変化を考慮して推定をおこない、先に 求めた基線長平行成分の変化量から軌道が完全には平行ではないことを考慮して基線 長を決め直し、基線長垂直成分による軌道縞パタンをシミュレーション計算した(Figure 4)。地形縞パタンは得られた基線長とDEMからシミュレーション計算して除去した。D EMには国土地理院発行の50メートルメッシュ数値地図を用いた。

Fig.1 Geometry for interferometric SAR1).
 

Fig.2  Initial interferogram1).
 

Fig.3  Interferogram removed orbital fringe by change of parallel baseline component1).
 

Fig.4  Simulated orbital fringe by perpendicular baseline component1).
 

4. 抽出された干渉縞
 Figure 5に軌道縞、地形縞除去後のインターフェログラム(埼玉県東部地域) を示す。干渉縞の連続性は一部の地域をのぞいて良好であった。ただし、荒川などの 河川流域や森林地域では干渉性に劣り、干渉縞の連続性は低下している。また、大利 根付近など住宅地・畑地でも干渉縞の連続性に劣る地域もみられ、その原因としては 住宅地に分布する緑地や二つのデータ間の農作物の生育状況の違いだけでなく、宅地 の造成等による土地被覆の変化も考えられる。得られたインターフェログラムには明 らかな位相差変化のパタンが数カ所みられる。基線長の推定には若干の誤差が含まれ ていることを考慮しても、抽出された位相差の変化パタンは軌道縞や地形縞によるパ タンとは明らかに異なっており、それ以外の要因によるものであるということができ る。Figure 5について評価するため、データ取得期間にほぼ相当する水準測量の結果2)3)4) を参照した(Figure 6)。ここで実際に抽出された変動パタンの信頼性については、マイクロ波の大気中 の水蒸気等の影響による遅延の影響をうけている可能性や水準測量ではとらえられな かった水平方向の変位を含んでいる可能性もあり、議論の余地が残されているが、少 なくとも市街地の中の局所的な変動パタンについては水準測量の結果とよく一致して いるということができる。
 

Fig.5  Interferogram removed orbital and topographic fringe (east of Saitama prefecture)1).
 

Fig.6  Land subsidence pattern from leveling results1).
 
 

5. おわりに
 ここで試みた基線長の推定方法は、まず基線長の平行成分の変化による干渉縞 から先に除去することを特徴としている。本手法は今後改善の余地はあるものの、少 なくとも比較的平坦な地域における変動抽出への適用は可能である。今回の検討より 、CバンドSARデータでもデータ組み合わせによっては良好な干渉縞が得られることが 期待できる。都市域における地盤沈下は社会的関心も高く、継続的な観測が望まれて おり、DINSARの応用が見込まれる。

謝辞
 本研究で用いたERS-1/SARデータは宇宙開発事業団から研究目的で提供された 。ここに記して謝意を表する。

参考文献
1) 米澤千夏・竹内章司:ERS-1/SARインターフェロメトリィにおける基線長推定 の一方法とその地盤沈下検出への応用, 写真測量とリモートセンシング, Vol. 38, No.4, pp.59-64, 1999.
2) 埼玉県:埼玉県地盤沈下調査報告書(平成6年観測成果), 埼玉県地盤沈下 等量線図, 1994.
3) 埼玉県:埼玉県地盤沈下調査報告書(平成7年観測成果), 埼玉県地盤沈下 等量線図, 1995.
4) 埼玉県:埼玉県地盤沈下調査報告書(平成8年観測成果), 埼玉県地盤沈下 等量線図, 1996.