干渉SARによる関東平野の地盤沈下
Land subsidence over the Kanto plain by InSAR

佐藤  功(地質調査所)
Isao SATO (Geological Survey of Japan)
E-mail:isao@gsj.go.jp

ABSTRACT―This paper shows the land deformations over the Kanto plain delineated by the differential interferometric SAR technique (called as D-InSAR), which seem to be coincident with the regional northern Kanto subsidence area and other relatively small subsidence areas mapped by the leveling survey. D-InSAR technique will be a potential tool to map subsidence areas and also to measure the rate of subsidence in future, after the completion of much validation efforts.

Keywords:ERRS-1, Interferogram, Kanto plain, Subsidence

1.はじめに
 干渉SARによって地震後の地表変動や火山活動に伴う地殻変動の検出などが数多く報告されるようになっている.その中で,石油採掘域などでの地盤沈下なども報告されている.我が国での地盤沈下は地下水の過剰汲み上げに原因があると認識されて以降,地盤沈下抑制のため各自治体などによる地下水利用の調整が行われ,近年ではその沈下率が抑制されてきている状況である.また,地盤沈下の監視については各自治体が継続的に取り組んでいて,毎年定期的に水準測量調査が行われて地盤沈下等量線図が作成され,地下水観測井による監視も行われている.ここでは,差分干渉SARによる地表変動の検出分解能が数cmオーダーと非常に高いことに着目して,関東平野を対象に地盤沈下の監視手法としての差分干渉SAR技術の評価を行うことを主眼に地盤沈下域の抽出を試みたので,その結果を報告する.

2.対象地域と使用したデータ
 関東平野では,水準測量による地盤沈下等量線図が関東地区地盤沈下調査測量協議会の編集によって毎年出版されている.これによれば,関東平野の北部に広域の地盤沈下域があること,またその南部にもいくつかの沈下域が存在することが示されている.今回の目的では,これらの地盤沈下域を差分干渉SARによる地表変動検出手法により適切に抽出できるかどうかを狙いとし,差分干渉SAR手法の評価を試みた.
 さて,差分干渉SARによる地表変動検出を行うには,少なくとも一対のSARデータが必須であるが,現在利用できる衛星SARデータについてはJERS-1/SARデータ(Lバンド),EERS-1&2/AIMデータ(Cバンド),そしてRADARSAT/SARデータ(Cバンド)が一般的である.ここでは,地盤沈下量が比較的小さいことが予想されることから,Lバンドに比べて検出分解能が高いCバンドのEERS-1/AIMデータを使用した.差分干渉SARのために使用したデータはTable1の通りである.地盤沈下量は年間当たりでは数cm以下と考えられるため,ペア画像の取得日は2年半以上と観測日が離れているものを使用している.このため,ペア画像のコヒーレンシーが悪くなることも予想される.

Table1 The AIM pairs used for this study.
 
Pair*)  Sensor name  Observation date  Path-Row Remarks
1M EERS-1/AIM 1993/04/16 64-241 NASDA/HEOC
1S EERS-1/AIM 1995/11/05 64-241 NASDA/HEOC
2M  EERS-1/AIM 1993/04/16 64-240 NASDA/HEOC
2S EERS-1/AIM 1995/11/05 64-240 NASDA/HEOC
*) Numerics is the Pair Number,Characters M and S mean the master and slave images respectively.

3.SLC処理および差分干渉SAR処理
 AIMレベル0データに対して位相保存のSingle Look Complex(SLC)処理を商用のSAR処理プロセッサ・ソフトウェアで実施した.この処理では,Zero Dopplerでのデフォルト処理を行った.次にSLC処理済みの各ペアを商用のINSAR処理ソフトウェアを用いて行った.なお,地形縞を除去するために国土地理院発行のディジタル標高データ(DEM:数値地図50mメッシュ(標高)日本II)を使用した.なお,実際の処理ではサンプリングを行って処理時間を短縮するようにした.また,DEMによるSlantレンジでのSARシミュレーション画像の生成後,それとMaster画像とのレジストレーションには,20以上のTie pointsを画像全体に均質に分布するよう選択した.生成されたインターフェログラムについては,Slave状態ベクトルの修正法のみによって残差位相を除去するようにした.すなわち,ベースライン垂直距離(Bperp)の微調整とSlave状態ベクトルのYaw角の微調整を行った.Slave状態ベクトルの修正法以外にも位相傾斜を用いて修正する方法も可能であるが,使用する領域の選択に注意を要するので,比較のために実施するに止めている.
 
4.インターフェログラムの検討
 Figure 1は差分干渉SARで得られたインターフェログラム(path-row:64-241)である.Slave状態ベクトルの修正後である.


Figure 1  Interferogram of the AIM pair No.1 (1993/04/16 and 1995/11/05) after slave state vector refinement. The large area over the lower part seems to be the well-known subsidence region, which located in the northern Kanto plain. The belt-shaped and elongated area corresponds to the area with low coherence.

 Figure 1については,南西から北東へ延びるほぼ帯状の領域が存在するが,これはFigure 2に示すようにコヒーレンスの悪い領域に対応している.その原因については現時点では不明である.しかし,この帯状地帯の南部には複数サイクルのフリンジが明瞭であり,これは埼玉県北部,栃木県南部,茨城県西部にまたがる関東平野北部地盤沈下地域との類似性が認められる.


Figure 2  Coherence image of the pair No.1.
 


Figure 3  Interferogram of the pair No.2 (observed on the same day of the pair No.1). This also shows the southern part of the wide subsidence region in the Figure 1.

 また,Figure 3は差分干渉SARで得られたインターフェログラム(path-row:64-240)である.Figure 3でも同様に画像の上端に広がるフリンジは,Figure 1で確認された関東平野北部地盤沈下地域の相当するフリンジの南側部分と良く対応していることが分かる.また,埼玉県の西部にも2つの沈下領域が判読できる.一方,東京湾の北岸にも沈下量は大きくないものの,やや広い沈下領域(東京都東部低地)が読み取れる.なお,観測日は1994年の関東平野全域において生じた異常渇水の時期を跨いでおり,この時期に生活用水,農業用水,そして工業用水の確保のために大きく沈下量が増えていることも明らかにされていることから,今後はこのような沈下量の増大期を含まない場合における検出能力を検討することが肝要である.

5.おわりに
 ここでは,約2年半以上も時間的な差があるCバンドSARデータを用いて差分干渉SAR処理を適用した結果,関東平野に存在することが認識されている地盤沈下領域をほぼ抽出できる可能性が示された.このように差分干渉SAR技術は我々の地盤環境の新たな監視手段となることが望まれよう.また,同一の観測日で,異なるシーンとして切り出されているデータを別々に処理したが,両者から類似性の極めて高い結果を得た.これは当然のごとく期待される結果であると言えるが,シーン単位での処理結果を繋ぎあわせることが可能であることを示しており,広域の地表変動の検出において必ずしもストリップ処理しなくても良いということを示唆する.しかし,隣接パスの領域については,観測日などの条件も違うことから,その適用性について更なる検討を要すると考えられる.

参考文献
佐藤 功・Mark Haynes (1998):ERS-1/AIMインタフェログラムと関東平野南部の地盤沈下,第14回地質調査所研究講演会資料,pp.83-88
高橋裕・河田恵昭編(1998):岩波講座 地球環境学「水循環と流域環境」,p.305,岩波書店
船田重則 (1997):埼玉県の利水と渇水調整,農業土木学会誌,65(6),599-604
建設省国土地理院 (1994):平成6年1月1日基準 関東地方地盤沈下調査測量に関する報告(関東地域 地盤沈下等量線図を含む),国土地理院技術資料 B.7-F-No 11
建設省国土地理院 (1995):平成7年1月1日基準 関東地方地盤沈下調査測量に関する報告(関東地域 地盤沈下等量線図を含む),国土地理院技術資料 B.7-F-No 12

謝辞
 今回使用したERS-1/AIMデータは宇宙開発事業団から研究者配布として購入したものである.記してここに謝意を表する.