総合討論

まとめ:大村 誠(高知女子大学)

参加者の主な発言概要は次の通りです。なお,本稿の筆者(大村)が,録音テープをもとに意見をまとめ,さらに討論に参加しなかった読者にも内容が理解できるよう,大村の判断で内容を補足しました。したがって,当日の発言概要そのものが記載されているのではないことを申し添えます。

1.干渉SAR処理の再現性

同一のSARシグナルデータ(レベル0データ)をもとにした位相解析(JERS-1:岩手山,ERS-1:関東地方)については,解析機関(解析ソフト・手法)によらず,それぞれほぼ同一の解析結果が得られた。このことは,干渉SAR処理が,地表変形を計測するためのツールとして有望であることを明瞭に印象づけた。
2.日本におけるLバンドSARの重要性
a.  日本のような温帯/湿潤帯では,植生や地表面状態の季節変化が著しいので,干渉性の高いLバンドSARは,特に干渉処理を行う上で重要である。
b.  しかしながら,JERS-1の運用停止により,衛星搭載LバンドSARは2002年夏打ち上げ予定のALOS(PALSAR)まで使用できない。新たなデータが提供されるまでに,蓄積されたJERS-1 SARデータを積極的に解析し,解析技術の修得と問題点の解決をすすめる必要がある。
c.  当面,JERS-1 SARデータの干渉処理に当たっての課題として,軌道推定と気象補正があげられる。
3.今後の衛星・センサの開発・運用についての要望
a.  今後は,ユーザーの要求・意見をさらに吸い上げ,それらを尊重して衛星・センサの開発・運用を行ってほしい。
b.  費用対効果について,さらに留意していただきたい。
c.  取得されたデータの公開,容易な検索手段の提供,安価なデータ配布をお願いしたい。
d.  ユーザーが,より容易に,複数衛星,複数センサの組み合わせでのデータ検索とデータ利用できるような,検索システムが欲しい。
4.ALOS(PALSAR)運用への要望
a.  総合討論前半でも指摘されたように,日本のような温帯/湿潤帯では,高い干渉性をもつLバンドSARによる干渉処理の有効性が明らかである。ALOS(PALSAR)の運用に当たり,日本列島上空通過時には,PRF(パルス繰り返し周波数)の自動切り替えを行わないなど,干渉処理に適したデータが取得できるよう,工夫をお願いしたい。
b.  JERS-1 SARは,SARのパラメータが固定されており,結果的に干渉処理に適したデータのペアが,ほぼ日本列島全域で見つかる。一方,ALOS(PALSAR)は,多様なビームモードを持ち,SARパラメータの自動切り替えも予定されている。そのため,モニタリング用の運用もさることながら,干渉処理が可能なデータの取得を念頭に置いた運用も,ぜひお願いしたい。
5.新分野への応用
SARの全天候性は土砂崩れ・地滑り,地盤沈下などの観測に有効と思われれる。また温帯において地盤変位計測を行うには,Lバンド SARが有効であろう。我が国における土砂災害スケールは、大規模な地すべりなど1km×1km程度の規模のものもあるが、大部分はそれより小規模であり,空間分解能がより高いSARが必要である。また,データ処理のスピードアップが求められる。
6.SAR干渉処理の普及のために
a.  蓄積されたJERS-1 SARデータについては,基線長データリストも整備されており,干渉可能性の高いペアを選択できる。
b.  JERS-1 SARレベル0データは安価で入手できる。しかし,干渉処理に使用する位相保存シングルルック複素数データ(SLC)を再生するためのSARプロセッサは高価であり,入手が難しい。安価なSARプロセッサがなければ,干渉処理の普及は普及しないであろう。また,企業による再生処理サービス等が考えられないであろうか。
7.ALOS(PALSAR)運用に対する干渉SARユーザーからの要望
LバンドSARの有効性を強調し,とくに日本列島陸上部での干渉処理用SARデータの取得をも念頭においたALOS(PALSAR)の運用を求める要望を,広い分野の干渉SARユーザーでとりまとめ,機会をとらえてNASDAに伝える必要がある。


以上