最近の異常地震活動とその評価

 全国各地域にみられる地震空白域やその周辺の地震活動をやや長期的にとらえると、ひずみの蓄積と解放のくりかえしに関係した規則性が浮かび上がっている。
 第1に、地震活動には活動期と静穏期を交互にくりかえすという性質がある。1993年以来北海道から三陸沖は活動期に入ったと考えられる。1923年関東地震(M7.9)から73年が経過した南関東地域や1944年東南海地震(M7.9)、1946年南海地震(M8.0)から約50年が経過した西日本も活動期にさしかかったと判断される。
 第2に、広域にわたり地下にひずみが蓄積され、プレートが相互に密接な力をおよぼし合うようになると、各地で地震が連動して発生する。この連動性が高まると、ある地域の地震が引き金となり、隣接する地域で短期間に次々と地震が発生するようになる。地震の活動期にはこの連動性が最もいちじるしくあらわれる。南関東では地震の連動が目立ちはじめている。
 第3に、ひずみの蓄積が増大し地震活動が活動期にさしかかると、それまでM2〜3の地震だけが発生していた地域で、M4〜5の地震が起き、ついにはM6やM7の地震が起きるということである。とくに南関東では、近年時間の経過とともに、より規模の大きい地震が発生する傾向が見出されている。
 南海トラフの東に隣接する銭洲海嶺付近でも最近になって地震活動が活発化している。1990年、1991年に東海はるか沖の銭洲海嶺付近でM6クラスの地震が3回発生し、その後現在に至るまで、新島から神津島付近の地震活動が活発化している。銭洲海嶺付近の地震活動は、1944年におきた巨大地震東南海地震(M7.9)前後の数年間にわたり、異常に活発化したという前歴がある。このときの異常な活動は、銭洲海嶺の地震活動が南海トラフ沿いのフィリピン海プレート内部のひずみの増加を示すパイロットランプ(先行指標)になり、巨大地震の発生と密接な関係があったことを物語っている。そのため銭洲海嶺付近で1990年以降現在に至るまで続いている活動が、北西に移動して駿河トラフに近づきながら、将来の発生が想定されている東海地震の発生につながる可能性がある。
 1年に数ミリの割合で長年つづいていた御前崎の沈降が1992年以降停滞し、駿河湾地域では1995年に入って微小地震の発生回数がうなぎ登りに増加している。近い将来、この沈降が急激な隆起に転じる可能性も示唆されている。今後は東海地震と次の東南海地震に結びつけた視点での観測や、データ分析を行う必要がある。

(溝上 惠 地震地殻変動観測センター)


[ホームページ(日本語)] [Home Page (English)]
このページに関するご意見・ご要望は、webmaster@eri.u-tokyo.ac.jpまでどうぞ。
Mar. 1996, Earthquake Research Institute, Univ. Tokyo.