研究集会

「地震現象の解明と震災軽減のための史料地震学の役割」報告

静岡大学教育学部 小山真人

地質調査所地震地質部 佐竹健治

東京大学地震研究所 都司嘉宣


歴史時代の地震活動史を正確かつ精密に復元し, そこから何らかの規則性を読み取り,さらには綿密 かつ定量的な大地震の繰り返しモデルにまで発展さ せていくことは,地震現象の理解や長期的将来予 測・震災軽減のために不可欠です.地震活動史の復 元のためには,活断層の発掘調査や津波堆積物調査 などに代表される地形・地質学的調査や,遺跡の地 割れ・噴砂跡調査などに代表される考古学的調査の ほかに,古記録・古文書・古絵図などの文献史料中 に残る天変地異記録を収集・解析する作業も欠かせ ません.

文献史料にもとづく歴史地震・津波研究(史料地 震学)は,地震現象の解明や震災軽減研究の発展に 多大な貢献をもたらしてきましたが,同時に数多く の問題点や課題も明らかになってきています.学際 分野ゆえの深刻な後継者不足にも悩まされていま す.

1998 年7 月1 〜2 日の2 日間,東京大学地震研究 所で開催された表記研究集会(参加者70 名)では, 現時点における史料地震学上のさまざまな成果報告 や課題分析,ならびに周辺分野からの史料地震学へ の期待や提言などが語られた上で,今後何をすべき かの総合討論がなされました.

研究集会は,第1 部:歴史地震にかんする最近の 成果,第2 部:史料地震学に何を期待するか,第3 部:史料地震学の現状と課題,第4 部:総合討論, の4 部に分けて進められました.

第1 部「歴史地震にかんする最近の成果」では, 10 の話題提供がなされました.内容は,南海トラ フのプレート境界地震史,国府津・松田断層と富士 川河口断層帯の地震史と将来予測,西南日本の歴史 時代の地震活動度,遺跡にみられる噴砂・液状化痕, 歴史津波にともなう発光現象,韓国史料からみた日 本の歴史地震,日本史料からみた北米沖巨大地震津 波などであり,国際共同研究もふくんだ多岐にわた る最新の研究成果が勢ぞろいしました.

第2 部「史料地震学に何を期待するか」では,11 人の講演者(各人の専門分野は,活断層学,測地学, 強震動,津波工学,地震予知,火山学,災害社会学, 災害史学など)がそれぞれの史料地震学に対する熱 い思いを語りました.理学・工学から社会学・歴史 学にいたるまでの非常に幅広い分野の研究者が史料 地震学の成果に関心をもち,かつ研究進展に期待を 寄せていることがわかりました.

第3 部「史料地震学の現状と課題」では,史料地 震学研究の現状・問題点・展望について2 つの詳細 なレビュー講演がなされた後,地震・津波史料記述 の電子データベース化の現状と問題点について2 件 の報告がなされました.

第4 部「総合討論」は,本研究集会がもっとも盛 り上がった時間帯であり,参加者全員によって2 時 間におよぶ熱い討論がなされました.討論内容は, 史料地震学研究の方法論や戦略,史料記述のデータ ベース化の意義や実現法,地震予知計画および地震 調査研究推進本部の調査研究事業における史料地震 学研究の位置づけや意義など,多岐にわたるもので した.

本研究集会で発表・議論された内容の一部は,地 学雑誌(1999 年第4 号)に特集号「次世代の史料地 震学」としてまとめられる予定であり,現在編集作 業が進められています.また,総合討論の熱い雰囲 気をそのままに,さまざまな研究グループや機会に おいて,その後も史料地震学関係の議論が盛り上が りを見せています.その中から「歴史地震研究会」 と「メーリングリストmusha 」を以下に紹介しま す.

史料地震学に関心をもつ研究者の多くは,「歴史 地震研究会」というグループに属しています(現在 の事務局代表:東京大学地震研究所の都司嘉宣). 現在のところ,このグループは会費や会則のない緩 い集まりであり,年に1 度(多くは9 月)にグルー プ名と同名の研究集会(歴史地震研究会)を日本各 地で開催し,そこでの発表内容をまとめた年報「歴 史地震」を刊行するのが主な活動内容となっていま す.「歴史地震」は歴史地震研究者・大学図書館・ 研究機関などに送付されています.ちなみに第15 回歴史地震研究会は1998 年9 月9 〜11 日に静岡県の 浜名湖周辺で開催されました.第16 回は1999 年9 月24 〜26 日に三重県の伊賀上野で開催される予定 です.

史料地震・火山学に興味をもつ研究者のインター ネット上の電子メールネットワークとして「musha 」 があります(musha の名前は,戦前の日本史料地 震学の金字塔である『増訂大日本地震史料』の編者, 武者金吉にちなんで命名されました).musha では 小山が主催者(議長),早川由紀夫(群馬大学)が ネットワーク管理者となって,史料地震・火山学に かんする情報や議論のメールが毎月約40 通交換さ れています.musha の規約・内容・参加方法につ いては,http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/ public_html/musha/に公開されています. なお,上述した情報をふくむ,史料地震学に関係 したさまざまな情報やリソースについて,日本の史 料地震学・史料火山学ホームページ(http:// sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/Shiryou. html )で最新版が公開されています.興味をもたれ た方は,どうぞ参照なさってください.


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2000/10/17