台湾地震の地学的意味

地球ダイナミクス部門 瀬野徹三


台湾の北端から北ではフィリピン海プレートがユ ーラシアプレートの下に沈み込んでいる.一方台湾 の南ではユーラシアプレート(南シナ海)がフィリ ピン海プレート(ルソン弧)の下に沈み込んでいる. 台湾では南の地学的構造が北へ延長され,ユーラシ アプレートがフィリピン海プレートの下に潜り込も うとしている.しかし南シナ海にあたる海がすでに 消滅し,ユーラシア大陸とルソン弧が衝突している (図1).この衝突のため,大陸棚─斜面堆積物がか き集められて瓦を積み重ねたような構造(図2)を つくり,中央山脈が逆断層で急速に隆起している.



図1 台湾付近のプレート境界と相対運動(瀬野,1985を改変)Xが今回の地震



図2 台湾の地学的構造の東西断面図(瀬野,1994を改変)Xが今回の地震

9月21日Ms7.7の地震は,中央山脈の麓で逆断層 運動が起きたのであるが,これはユーラシアプレー トが中央山脈の下に潜り込む運動が,急激な断層運 動となって現れたものである(図2).中央山脈の 西の断層群の西端は地学的にはマニラ海溝の延長に あたり,その東側から中央山脈にかけては沈み込み 帯での付加プリズムにあたる.一方フィリピン海プ レートとユーラシアプレートの物質境界は台東縦谷 で,ここも活動度は高いが,ここから中央山脈の西 の麓までの幅をもったゾーンがプレートの力学境界 をなしているとみるべきである.したがって今回の 地震は,兵庫県南部地震のようなプレートの中で起 きた地震とは異なっており,むしろプレート境界で おきた地震といえる.

文献

瀬野徹三,台湾付近のテクトニクス,地震,46, 461-477,1994.

瀬野徹三,台湾の地震の謎,科学,55,62-64, 1985.


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2000/10/18