地震予知研究協議会・企画部が正式に発足

地震予知研究推進センター企画部 平田 直


1 .新体制の経緯と目的

地震予知研究協議会は,「地震予知に関し大学間における連繋を緊密にし,もってその有効な推進を図ることを目的」として,昭和53年に東京大学地震研究所に設置されました.いわば国の地震予知事業計画を推進する上での大学側の推進母体として発足しました.

その後,特に阪神淡路大震災のあと,国の地震予知計画の大幅な見直しが進められる中,協議会においても問題点の整理や体制の見直しが行われてきました.その結果,「予知研究体制をより開かれたものとして広く学際的な分野からの英知を集めること,果敢で明快なリーダーシップを発揮すること,多くの研究者が参加できること」といった改革の基本方針が,協議会に設置された研究推進体制検討専門委員会によって提示されました(平成7年6月).

一方,平成10年8月に,測地学審議会から『地震予知のための新たな観測研究計画の推進について』が建議され,とくに大学における観測研究については,「全国共同利用研究所と各大学の地域センター等で構成されるネットワークの強化」と「関連研究者が広く参加すること」の重要性が指摘されました.このような背景の下に,現実的な改革案を検討してきた結果,平成11年9月22日付けで新しい「協議会規程」が制定され,平成12年4月1日に新体制が発足しました.

2 .企画部と計画推進部会の役目

新しい規程では,協議会は単なる「連絡会」ではなく,地震予知研究計画全般を審議する「意志決定機関」と位置づけられています.協議会は,各大学の地震予知関連施設の長,企画部の長,及び,学識経験者若干名から成ります.計画の立案と実行を機能的に行うために,協議会の下に企画部と計画推進部会を置きました.研究計画の進捗状況と結果の評価を行うためは,協議会とは独立の「外部評価委員会」を置きます(図参照).

新しい研究体制では,企画部は常置の組織となり,4人の専任教官と1人の客員教官が,地震予知研究の全体計画の取りまとめ,計画の進捗状況の把握に努めています.平成11年度は「準備会」として活動を開始し,平成12年4月11日より正式に発足しました.企画部の構成メンバーは以下のとおりです.

専任教官:平田直(部長),加藤照之,吉田真吾,飯尾能久,客員教官:松澤暢.

計画推進部会は,研究計画の実施にあたるとともに,研究課題ごとの実行計画を立て,企画部に提案する機能を持ちます.建議の事業内容に基づき以下の7つの部会が設けられました.[]内は計画推進部会長(敬称略)です.

(1)「定常的な広域地殻活動」計画推進部会[岩崎貴哉]
(2)「準備過程における地殻活動」計画推進部会[梅田康弘]
(3)「直前過程における地殻活動」計画推進部会[大久保修平]
(4)「震源過程と強震動」計画推進部会[菊地正幸]
(5)「地殻活動監視システム計画」推進部会[鷹野 澄]
(6)「地殻活動シミュレーション手法」計画推進部会[松浦充宏]
(7)「観測技術開発」計画推進部会[山岡耕春]

3 .これまでと今後の活動

開かれた体制を重視する観点から,企画部(準備会)は,平成12年3月13日,14日に,地震予知研究協議会「第6 回企画部準備会・拡大会議」(11年度の成果報告シンポジウム)を企画しました.このシンポジウムには,地震研究所内外から90余名が参加し,11年度の成果と今後の地震予知研究の方向性について議論しました.この議論の内容は,「11 年度年次報告」としてまとめ,印刷して配布します.

企画部は,現在,12年度の実施計画を調整しています.平成12年度全体計画の骨子をまとめ,全国の地震予知研究者は,これに基づいてそれぞれの研究計画を立て,実施します.すでに,観測研究を始めているグループもあり,迅速に計画を調整しなければなりません.12年度の全体計画については,企画部と計画推進部会の部会長からなる拡大企画部で議論をし,その内容を随時,地震研究所のホームページ等を通じて公開していきます(http ://www.eri.u-tokyo.ac.jp/YOTIKYO/index.htm ).さらに,計画の背景や具体的な実行方法,成果を談話会やその他のシンポジウムを通じて発表し,公開の場で議論を深めて行きたいと思っています.以下に,平成12年度の「地震予知研究全体計画骨子」を示します.

4 .平成12年度全体計画骨子

地震発生に至る地殻活動の全過程とその過程に伴って現れる種々の地殻現象の発生メカニズムを解明し,観測データに基づいて地殻活動を定量的に予測することを主な目的とし,新建議に従い,

(1) プレート運動に起因する広域かつ長期にわたる応力場とその形成メカニズムの解明,
(2) 地殻及び上部マントルの不均質構造によって地震発生領域に応力が集積していくメカニズム(地震発生準備過程)の解明,
(3) 地震発生準備の最終段階において活性化する物理・化学過程の解明,
(4) 地震発生に伴う地震動の解析による地震と震源近傍での不均質構造との関係の解明,
(5) 日本列島規模で地殻の状態と活動を常時把握し,各地域での地震発生準備段階の進行状況を評価する,「地殻活動モニタリングシステム」の高度化,
(6) 観測から得られる膨大なデータの総合的活用による,地殻活動の現状把握およびその推移予測のための,大規模シミュレーションの手法の開発,
(7) 地殻深部や海域での精度の高い情報を得るための新しい観測技術の開発,
を目指して,各局面での研究の進展を図ります.

現時点における解明すべき重要な問題は以下の通りです.

(1) 地殻・最上部マントルの変形特性による広域応力場とその形成メカニズム
(2) プレート境界におけるカップリングの時空間変化
(3) 内陸活断層周辺における不均質な応力・歪場とその成因
(4) 地震発生に対する地殻流体の役割
(5) 断層面上の強度と応力の時空間分布

これらの問題は,いずれも,地殻活動に関する新しいモデル構築につながる可能性のあるものであり,最適なフィールドにおいて,合目的的・集中的な観測研究とそれを説明するためのシミュレーションや実験的な研究が必要です.また,これらの研究のための新たな技術開発も重要です.


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2000/07/21