三宅島・神津島近海の地震活動

地震地殼変動観測センター 酒井 慎一


はじめに

平成12年6月26日18時過ぎから三宅島雄山直下 約3km付近で,小さな地震が発生し始めた.すぐ に活発な状態(毎分数個程度)になり,雄山の噴火 が懸念されたが,翌日には地震活動が西方海域へと 移動していき,三宅島は静穏になった.しかし,海 域へ進んだ地震活動は活発な状態のまま徐々に北西 方向へ移動し,7月1日には神津島東方沖でM6.4の 地震が発生した(図1 ,図2 ).

静穏な状態であった三宅島も,7月4日頃から雄 山直下で地震が発生し始め,その震源が徐々に浅く なっていき,8日に噴煙を吹き上げ,山頂部分が大 きく陥没した(図3).その後,1日に1〜2回の傾 斜ステップと長周期振動を起こし,それに伴って雄 山直下の地震活動も消長を繰り返した.山頂の陥没 も,その口径をどんどん広げていった.

この間,三宅島・神津島の中間海域では,震源を 移動させながら震度6弱を含む活発な活動を続け, それと同時に利島・新島・式根島や御蔵島周辺でも 大きな地震が発生した(図2).三宅島では,8月18 日に噴煙が1万m上空にまで達する程のそれまでで 最大の噴火を起こした.このときから大量の降灰や 噴石があり,島内で泥流などによる被害が生じ始め た.8月29日には小規模な火砕流も観測され,三宅 島の全島民が避難することになった.

海域の地震活動は,8月24日以降活発なものがな く,現在(9月13日)は穏やかな状態が続いている が,三宅島雄山は相変わらず噴煙をあげている.



図1 手動ぬきとり震央分布図(青丸).過去5年間の震央分布(赤十字)と主な
地震のメカニズム解も併せて示した.三宅島と神津島の中間海域では過去に
ほとんど地震が起きていない.陸上のテレメータ観測点(緑三角)のうちの
何箇所かは,地震や火山噴火によって欠測もあった.示した海底地震計
(赤三角)の配置は7月1日から8月2日に設置されていたものである.



図2 地震活動の時系列(縦軸は緯度).星印は主な地震.三宅島から北西海域
に地震活動が移動し,その後北西海域での震源の移動と周辺部での活発化の
様子がわかる.



図3 三宅島雄山直下の地震活動.上図は6月26日の地震活動の開始から,最初の噴火と
山頂部の陥没が起きた後の7月17日まで.下図は最大の噴煙を上げた8月18日を挟
む,8月10日から30日まで.

地震観測

伊豆諸島の島々には,地震研究所だけでなく東京 都や気象庁が観測点を設置していて,それらが無線 電波や電話回線を通して地震研究所までリアルタイ ムで伝送されている.これらの陸上の観測点を使用 して,震源決定をおこなっているが,震源が海域に 存在するため,深さ方向の精度が良いとは言えない. そこで,自己浮上型の海底地震計とブイテレメータ 方式の海底地震計を設置した.

海底地震計の設置・回収は,地震活動の推移を見 ながら大きく分けて4回行なった.その中には,海 上保安庁水路部や海洋科学技術センターと共同で行 なった観測もあり,7点〜24点の海底地震計が設置 された.現在も7観測点で観測中である.海底地震 計の設置・回収には,水路部の観測船だけでなく, タグボートや地元の漁船,さらにはヘリコプターに よる投入も行なった.

これらの回収したデータは,再生して地震データ を切り出し,陸上の観測点とあわせて読み取りを行 ない,震源決定を行なった.その結果,震源の深さ 方向の精度が顕著に向上し,海底下で起こっている 地震活動の推移がよくわかるようになった(図4).



図4 海底地震計で決めた詳細な震源分布図.三宅島・神津島の中間海域に展
開した海底地震計のデータと周辺の陸上観測点のデータを併せて震源決
定した.このように,震源分布の走向(N52W)に回転した断面図を見
ると,深さによって震源分布に違いが見られる.約7km以深では幅約
2kmの薄い板状に分布するが,それより浅い部分では広範囲に広がっ
て地震が発生している.

震源分布

地震活動は三宅島雄山直下で始まり,その後北西 方向に移動し,三宅島・神津島間で何度も活発な状 態を繰り返している(図2).この活発な活動域は, 過去約5年間には地震活動がほとんど観測されなか った地域である(図1).今回はこの北西ー南東方 向の分布の周辺地域でも,地震活動が活性化してい る.利島・新島の西方海域では7月15日のM6.3を 最大とした活動がみられた.この海域では,過去に も何度か地震活動があったが,どれも数日で終るよ うな小規模なものであった.一方,三宅島・御蔵島 の西方海域でも,7月30日にM6.4の地震が発生す るなど,若干の地震活動があった.

これらの震源分布は島の近くでは浅くなり,海域 では深くなる傾向があった.これは,震源域直上で のデータがないための深さの精度の問題であるた め,海底地震計のデータを用いた震源分布では,海 域の地震も浅くなっている.震源分布図を52度西 に回転した断面図で見ると,震源は約7km以深で は,薄い板状の分布になっているが,浅い部分では 広範囲に広がっている(図4).これは,板状の溶 岩が貫入し,その周辺部の地震活動を誘発したこと を示唆する.

まだ得られたデータのほんの一部しか処理できて いないが,これらの詳細な震源分布は,今回の群発 地震のしくみや,地下で起きている現象を把握する ための基礎的な資料として役立てられる.

観測,準備,処理:地震地殼変動観測センターほか

協力:海上保安庁水路部,海洋科学技術センター


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2000/10/18