一般共同研究

地殻構造に関するふたつの研究集会

地震地殻変動観測センター 岩崎 貴哉

 

 

平成13 年2 月に,地殻構造関係の2 つのシンポジウムが開催された.その1 つは,2 月13 _14 日の“日本の地殻構造研究50 年”であり,もう1 つは,2月20 _21 日に開催された“衝突帯シンポジウム”である.ここでは,これらのシンポジウムの報告をしたい.

日本の地殻構造研究50 年シンポジウム

日本の地殻構造研究,特に屈折法による地殻構造研究は1950 年に始まった.その後,国内の屈折法地震探査は,全国の研究者グループ(爆破地震動研究グループ)によって,実施されてきた.本シンポジウムは,この50 年の歴史を振り返るとともに,これからの展望を探るものとして企画された.初日は,日本の地殻構造研究が始まったときからその発展に大きく貢献された浅田敏及び浅野周三東京大学名誉教授をお迎えし,日本の構造研究の黎明期のお話を伺った.両先生とも大変お元気で,お二人が東大在職時の講義を彷彿とさせるものであった.また,お二人の講演の内容は,観測地震学の原点に通じるものがあり,現在の大学院生や若手研究者には大いにインパクトがあったようである.その後,吉井敏尅氏および筆者によって,それぞれ地震予知計画の一環として行われるようになった1979 _1988 年までの地殻構造研究およびその後の構造研究に関するレビューがあった.

初日の後半から2 日目の午前中までは,特にこの数年間に行われた東北日本弧及び北海道・日高衝突帯における構造研究の成果,平野部(都市部)で行われているが紹介されるとともに,今後取り組むべき課題や研究体制についての講演が行われた.更に,2 日目の午後には,構造研究と他分野との関わりを視点にした幾つかの講演(たとえば地震学的構造と重力異常など)や海外における研究(南極における地震探査)の紹介があった.

日本の地殻構造研究は,この50 年の屈折法地震探査の蓄積を基礎として,1997 年から始まった多面的な探査(屈折法・反射法・稠密自然地震観測)により新たな展開を迎えつつある.しかし,その一方で,手法のマンネリ化,国際性に乏しい,若手研究者の不足など今後解決しなければならない幾つかの問題が鮮明な形で指摘された.また,精緻な構造研究の成果として島弧地殻の複雑さが鮮明になったが,逆にその中での一般性が見つけられていない現状に対しても,貴重なコメントを頂いた.現在,地殻構造研究に関するなプロジェクトが進行しつつある.そのような現状の中で,我々は上記の意見・コメントをもう一度深く考え直す必要があるであろう.

衝突帯シンポジウム

北海道の日高地域は,千島前弧と東北日本弧が衝突(島弧―島弧衝突)が進行している場所である.特に1994 年以来,北大・千葉大の研究者グループによって一連の反射法探査が行われ,千島前弧の地殻が衝突によって剥離している様子が明瞭な形でマッピングされた.以来,この地域では,地質学的調査や地震探査,稠密自然地震観測などが精力的に実施され,島弧―島弧衝突の実態に迫る成果が提出されつつある.本シンポジウムは,これまでの成果や新しいデータを持ち寄って,島弧―島弧衝突に伴う地殻の変形・改編過程の理解の進展をはかるために企画・実施したものである.このシンポジウムでは,話題を北海道に限定することなく,南部フォッサマグナにおける伊豆弧の衝突,台湾,ヒマラヤにまで広げて,衝突現象を様々な角度から議論することとした.

まず,北大在田一則氏,東大木村学氏から,北海道日高衝突帯の地質学的発達過程のレビュー,デラミネーションと大陸地殻成長過程に関する講演があった.その後,千葉大学伊藤谷生氏から日高地域における反射法地震探査のレビュー,東大地震研佐藤比呂志氏による最近の地震予知研究計画で実施された大規模地震探査の報告が行われた.更に,北大森谷武男氏が,自然地震と地殻構造のコンパイル結果に基づくテクトニクスに関する講演を行った.また,北大勝俣啓氏,村井芳夫氏から最新の自然地震データに基づくトモグラフィー結果が紹介された.初日の後半は,日高衝突帯前縁部の褶曲・衝上断層帯に焦点をあてた講演にあてられた.この地域では,千葉大グループの過去の探査データ,深層ボーリングデータの再解析,地震予知研究計画による探査から,新しい知見が得られつつある.即ち,同地域にはかなり大規模な低速度体が存在するらしい.千葉大グループによれば,この低速度層は蝦夷層群に対応する.この結果は,この地域の地殻短縮の見積もりに対して,更に,千島弧から日本海東縁までの地殻変形速度の見積もりに対して重大な変更を与えると思われる.

二日目は,南部フォッサマグナにおける伊豆弧の衝突ついて地質学的,岩石学的,地震学的側面から幾つかの興味深い講演が行われた.また,台湾についても,衝突テクトニクスとともに一昨年の集集地震の観測結果,同地域の高圧変成岩に関する話題も紹介され,巾の広い内容となった.更に,二日目の最後には,北大在田一則氏によるヒマラヤにおける大陸衝突研究の紹介とともに,千葉大伊藤谷生氏の総括,総合討論が行われた.

このシンポジウムは,地質学,岩石学,地震学の研究者が,それぞれの分野を越えて参加したことが大きな特徴である.そのため,筆者にとってその内容の全てを理解することは難しかったが,岩石学的研究の講演などは非常に新鮮で興味深いものであった.日本列島のような複雑な地質環境の場での構造研究は,手法の面でも結果の解釈の面でもより多面的・学際的でなければならないと思う.このような集会を通して,日本における新しい構造研究の方向性を模索していきたいと感じた次第である.


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2001/09/12