所長挨拶

山下輝夫

 

 

本年4 月より,藤井前所長の後任として,地震研究所長の職をつとめることとなりました.地震研究所は昨年11 月に創立75 周年を迎え,また,今年度は新世紀の初年度でもあり新たな気持ちで地震・火山についての研究の推進に取り組んで行きたいと思っています.地震研究所は年齢は重ねてきましたが,引き続き新しい地震像・火山像の創生のために主導的役割を果たして行きたいと思っています.地震研究所で行われているこのような最先端の研究の躍動感を少しでも多くの人々に伝えたいとの思いから,昨年10 月には,創立75 周年を記念して「大地の躍動を見る(岩波ジュニア新書)」を刊行しました.若い人々の中から,この本を読んで地震や火山の研究を志す方がでてきたり,多くの方々が地震・火山についての最新の考え方を理解する際の手助けになればありがたいと思っております.

最近では,国内各地で地震や火山噴火が引き続いていますが,地震研究所の研究者は,全国の研究者と共同しながら,これらの現象の詳細な調査や観測に努め,現象の解明や災害軽減のための研究を推進しています.また,新しい観測機器の開発にも努め,観測現場に投入しています.昨年6 月の活動開始以来,大規模な地震や噴火活動は沈静化したように見えますが,三宅島では多量の火山ガスが噴出し続け,島民の方々は未だ避難生活を余儀なくされております.今回の三宅島の噴火は何千年に一度起こるかどうかという地学的にはきわめて珍しい活動であり,地震学,火山学,測地学,地球電磁気学,地質学など分野の異なる多くの所内研究者が共同し,精力的に調査・観測を続け,数多くの興味深い発見が報告されています.このような活動により,分野を横断する研究活動の重要性を改めて認識することができました.また,地震火山現象を短期的な視点で見ることの危うさを感じる一例でもありました.このような経験を生かして,今後とも全国の研究者との協力はもとより,所内の分野横断型の研究活動の一層の推進をはかり,新たな地震・火山像の創生へとつなげたいと思っています.

しかし,国立大学の法人化についての検討が急速に進みつつあり地震研究所だけではなく国立大学をとりまく情勢は必ずしも安閑としたものではありません.法人化の枠組みは,この夏にも固まろうとしています.国立大学の法人化の問題は,行政改革に端を発し,すでに行政機関だけではなく,多くの国立試験研究機関が独立行政法人に組織転換しています.独立行政法人の運営や制度の基本となる法律である「独立行政法人通則法」では業務運営の効率化が強調されており,すでに独立行政法人化された多くの国立の研究機関などの中期計画には,詳細にわたって数値目標があげられているようです.国立大学がどのような形で法人化されようとしているのかは今のところ必ずしも明確ではありませんが,すでに発足した独立行政法人がそのモデルの一つになるであろうことは十分に考えられることです.しかし,大学における教育や研究は国民の税金でまかなわれているとはいえ,効率化という考えや数値目標にもっともなじまないものです.無駄は省かなければならないのは当然ではありますが,大学での独創的な研究の推進にはある程度の余裕が必要なのも事実です.しかし,数次にわたる定員削減に加え施設の老朽化により国立大学の疲弊は甚だしいものがあり,今また,効率化の嵐にさらされるようであれば,教育・研究への打撃は致命的なものになるでしょう.また,地震研究所が使命として掲げている,地震および火山現象の解明とその予知に関する研究といった基礎的研究は数値に表される短期的な成果での評価がたいへん困難なものです.

さらに,それぞれの国立大学が仮に何らかの形で法人化された場合,地震研究所のような大学附置の共同利用研究所がどのように位置づけられるのかということも予断を許しません.このような研究所は,全国規模の共同研究推進の中核的機関の役割を果たしています.地震や火山などの研究には,全国規模または地球規模での現象の理解が欠かせず,国内外の多くの研究者の協力が不可欠です.しかし,各大学が個別に法人化され,他研究機関との間の緊密な協力関係が制度的・財政的保証がなされないようであれば,地震・火山研究だけではなく我が国における学術研究の推進に対する打撃は計り知れないものになります.仮に,国立大学が法人化されるとするならば,大学附置の共同利用研を全国的および国際的共同研究の基盤的組織とし,設置目的に応じた研究活動や共同利用に十分な基盤的経費を措置し,関連の他機関との間での予算の移換えを可能にしたり人事交流をさらに柔軟化するなど,共同研究がより柔軟に実施できる工夫を考える必要があるでしょう.

上に述べましたように事態がきわめて流動的かつ危機的ではありますが,地震研究所は研究科とも協力しながら,大学内での教育にも今後とも大きな力を注いでいきたいと思っています.本所では,多くの先端的野外観測や室内実験が行われており,教育の途上で,このような研究活動を身をもって体験することにより学生は地球の「息吹」というものを実感し,多面的かつ先端的な知識を身につけることができるでしょう.

大学における学術・研究全般にわたる制度の大転換期に所長職を勤めることについてはある種の強い緊張感を感じていますが,全国の関連分野の研究者とも共同し,微力ながら全力を尽くしたいと思います.皆様方も,これまで以上に地震研究所を励まし育てていただき,固体地球科学の推進にお力添え下さるよう心からお願いいたします.

 

 


 

地震予知研究推進センター長挨拶

加藤照之

 

 

地震予知研究推進センターはこの春大きく衣替えをしました.本年3 月をもって前センター長大中康譽先生と笹井洋一先生が定年退官され,また吉井敏剋先生が日本大学に転出されました.いずれの先生方もそれぞれの研究分野で大きな足跡を残されてきただけに,本センターばかりか地震研究所にとっても,大きな穴が空いてしまったような感慨にとらわれます.一方,新たに本年4 月よりGPS/地殻変動シミュレーションの分野に宮崎真一さんを助手として迎えました.また,この広報が刊行される頃には地殻活動シミュレーション分野と地殻構造マッピング分野に助教授が着任しています.

地震予知研究は最近大きな変革のうねりの中にあります.第7 次地震予知計画において実施された地震予知研究30 年のレビューにおいては,地震予知の実現を,現状では極めて困難であるとし,近い将来に実現をめざすのではなく,長期にわたる見通しのもとに実現可能な目標とそれに向けたサイエンスプランをつくり,着実に成果をあげることを我々に要請しました.また一方では,兵庫県南部地震を契機として発足した「地震調査研究推進本部」による地震研究の施策は,大学における研究体制にも大きな変革をもたらしました.その結果,地震予知研究協議会の組織改革が行われ,企画部と計画推進部会がその下につくられ,昨年4 月より本格的に活動を開始しました.この企画部は本センターにつくられ,部長の平田直教授のもと,飯尾能久助教授,吉田真吾助教授,客員教授の東北大学松沢暢助教授それに私の5 人がその任にあたっています.企画部は大学の地震予知研究の推進のための企画・立案を行い,研究の進捗状況を把握して地震予知研究の推進を図るのが目的です.本年度は平成11 年度からはじまった新しい地震予知研究計画の3 年目にあたり,これまでの進捗状況をレビューすることになっています.現在の計画を将来に引き継いで,さらなる発展を可能にできるかどうか,まさに地震予知研究が正念場をむかえていると言っても過言ではないでしょう.

地震発生過程の物理法則や断層の摩擦構成則が基礎的な研究によって明らかにされる一方,日本列島の地殻の構造や変形は大規模観測によって世界に類をみないほど詳しく明らかになってきました.しかし,これらのことを詳しく知ったからといって大地震の発生が予知できるとは限らない,という主張もされるようになりました.地震予知とは「発生の場所と大きさを特定し,発生時刻を正確に言い当てること」であるという考え方がとられてきましたが,この考え方は修正しなくてはならないように思われます.どのような観測も誤差を避けることはできませんし,将来を完全に記述する地震発生理論を追い求めることは当面は不可能と思われます.日本列島には大規模かつ稠密な地震・地殻変動の観測網が構築され,日々の地殻活動が準リアルタイムに監視できるようになっていますが,過去と現在の観測データを,手持ちの地震発生理論にとりこみ,複雑な構造を持つ地震発生の場にあてはめて将来予測をしようとすると,どうしてもある不確実性をもった確率予測的なアプローチが必要になります.確率予測を組み込んだ数値シミュレーションが必要になります.「物理モデルに基づいた確率予測の数値シミュレーション」が必要かつ可能な時代になっているように思われます.新しく赴任されてくる方々はこのような地殻活動予測の数値シミュレーションの実現に大きな力となってくれるに違いありません.

大幅な若返りを果たした本センターが,他の大学や研究機関と手を携えて,新しい地震発生予測のモデルを世の中に発信することを夢見ています.これを実現するためには,地震研究所が真に全国共同利用機関としての役割を果たさなくてはなりません.このために私も微力を尽くしたいと思っています.どうか,皆様のご支援をよろしくお願いいたします.

 

 


 

地震地殻変動観測センター長挨拶

金沢敏彦

 

センター長を併任して三期五年目にはいりました.観測センターは,文字どおりに観測研究を研究の中心に据えているところです.地震研究所で最も古い筑波地震観測所をはじめとして,和歌山,広島,堂平,信越の地震観測所,油壺,鋸山,弥彦,富士川,室戸の地殻変動観測所が所属しています.教授五名,助教授三名,助手六名が本所にいて,助手一名が和歌山地震観測所にいます.この四月から観測センターを離れて所内の技術部所属となった技術官は,十二名がひきつづき観測センターの観測研究支援を主として活動しています.八名は広島,信越,油壺,富士川の観測所に勤務しての活動です.海域地震観測研究分野を新たに立ち上げましたので,地震,地殻変動,強震動とあわせて四観測研究分野が相互に協力しながら総合的に観測研究をすすめています.

地震研究所の地震予知関係の定常観測はすべて観測センターでおこなっています.また衛星通信テレメタリングシステムを全国的に運用しています.全国大学の地震観測データはこのシステムにのってリアルタイムで関係機関に流通しています.観測センターの観測網について説明しておきますと,陸域では関東甲信越から伊豆諸島地域,紀伊半島,瀬戸内海西部地域の広域に約百点の衛星テレメータによる地震観測点を展開しています.伸縮・傾斜等の壕内観測のほか,ボアホール利用の三成分ひずみ観測等をすすめています.足柄・小田原・伊豆周辺等の強震動観測網のほか,強震動基準観測点を関東地域に展開しています.海域では,光ケーブルを利用する海底地震観測所を伊豆半島東方沖と三陸沖に設置しています.これらの定常観測網に加えて,陸域では可搬型DAT レコーダーと可搬型衛星通信局による地震観測,海域では自己浮上型海底地震計とブイテレメータによる観測を機動的におこなっています.また,陸域および海域における新たな物理量の計測と観測の高度化のため,先端的な計測・観測システムの開発をすすめています.

観測センターは,これらの観測網データと国による基盤観測網データ等を活用して,また先端的な観測・計測システムによる観測をおこなって,新しい地震予知研究計画がめざしている「地震発生にいたる全過程の解明」のための観測研究を,ターゲットをさだめて重点的にすすめていくことが重要です.センター長として観測研究分野を俯瞰しながら地震地殻変動観測センター丸の舵を大胆にきっていきたいと思います.

 

 


 

地震予知情報センター長挨拶

阿部勝征

 

本センターは,全国大学の地震予知情報ネットワークの全国センターとしての任を負い,全国規模で得られる観測データの収集,整理,提供を行うとともに,通信ネットワークやデータベースなどの情報流通基盤の整備などを推進しています.

スタッフの陣容は教官・技術官6 名,高度研究推進員,システムエンジニアからなっています.地震研で最小規模のセンターですが,その分,厳しさとともに暖かさがあると自負しております.教官・技術官は地震や津波の発生メカニズムの研究,国内外の地震データを用いたリアルタイム地震学の研究,インターネットを用いた地震情報提供システムの研究,首都圏の強震計データを利用した地震防災の研究,歴史地震計記録のデータベース化などを行っています.特徴は自然地震学から情報科学までの幅広い研究活動ならびに全国共同研究を行っていることです.また,大学院生4 名もここを基点に勉学研究に励んでいます.

本センターは,共同利用研究所の計算機センターとして全国共同利用計算機を運用し,地震や火山の研究推進のために全国の研究者に提供しています.1999 年3 月に,64 台のCPU (250 MHz )からなる並列計算機SGI Origin 2000 システム(シリコングラフィック社)を導入しました.記憶装置には560 GB のRAID 装置や8 TB の磁気テープライブラリ装置などが接続されています.記憶容量もメガからギガを超えてテラの時代です.テラの千倍であるペタの時代もそう遠くはないでしょう.大規模計算の処理件数は年々増加し,今日では稼働率が処理能力の限界にまで達しようとしています.今後の計算需要に応えるために計算能力の大幅な更新を計画しています.次の更新は2003 年3 月を予定しています.現状についてよろしくご理解のほどをお願いいたします.

阪神・淡路大震災の反省の一つとして,情報の収集と伝達が大幅に遅れたと指摘されています.政府の地震調査研究推進本部は「リアルタイムによる地震情報の伝達の推進」を課題にとりあげています.本センターとしても「地震についての詳細な情報を必要とする者に伝達する」ことを重要な研究課題の一つとして位置づけております.研究者の成果には難しい情報が含まれていることは少なくありません.それらを防災に活かすためには,情報を出す人,伝える人,受ける人のすべてが内容を等しく理解するよう努力せねばなりません.この視点で情報や情報システムのあり方を考えていきたいと思っております.

 

 


 

火山噴火予知研究推進センター長挨拶

渡辺秀文

 

本センターは,火山やその深部で進行する現象の素過程や基本原理を解き明かし,火山噴火予知の基礎を築くことを目標としています.そのために,各種の観測や調査,理論や数値シミュレーション,流体実験など多様な方法を用いて,火山の形成過程,噴火の発生機構,マグマの動態,マグマの移動や蓄積と関連した物理・化学現象などの諸研究を推進しています.センターに附属する常設的な施設として,浅間山,霧島山,伊豆大島に火山観測所があり,富士山,草津白根山,三宅島に常設観測網をもっています.これらの火山では,地震動,地殻変動,電磁気などのデータが常時得られています.常時観測に加えて,研究テーマや火山の活動度に応じて,臨時観測や火山噴出物などの調査を随時行っています.また,火山噴火予知計画の重要な基礎研究課題である火山体構造探査および特定火山での集中観測等の全国の関連研究者との共同研究を推進しています.また,活動期や休止期を含む火山の一生を理解し,噴火を長期的に予測する基礎を築くために,地質岩石学的な調査研究を行っています.さらに,マグマがどのような機構で噴出し,噴火を起こすかについて,各種の理論的な研究も行っています.さらに,噴火の前兆現象,噴火機構,火山体の構造,噴火活動史の解明などの研究の突破口を開くことをめざして,伊豆大島火山カルデラ内の総合観測井掘削,雲仙火山溶岩ドーム地下の火道に達するボーリングによって火道およびその周辺を直接観察する科学掘削国際共同研究などを推進しています.また,国内外の噴火情報や意見の交換を目的として,全国の火山研究者を対象にしたメーリングリスト「funka 」を運営し,火山センターのホームページの中では「日本の火山噴火の速報」を英文で掲載しています.このWeb サイトは米国スミソニアン自然史博物館が運営する世界的な噴火情報「GlobalVolcanism Network 」にとっても,日本の火山噴火に関する重要な情報源となっています.2000 年は,有珠山と三宅島の噴火活動,富士山の低周波地震活発化などが引き続いて起こりました.特に三宅島では,思いがけず大規模な陥没が起こり,2 千数百年ぶりにカルデラが形成されました.火山活動予測のレベルを一段と向上させるためには,火山活動のしくみや火山体地下の構造について,さらに理解を進める必要があると痛感しております.所内や全国の関連研究者とも共同し,火山活動と噴火予知の研究において先導的な役割を果たすよう努力したいと思っています.

 

 


 

海半球観測研究センター長挨拶

歌田久司

 

深尾前センター長の後任で,この4 月から2 年間海半球観測研究センター長をつとめることになりました.当センターは,「海半球計画」を推進するミッションをもって4 年前にできましたが,その海半球計画そのものが今年一杯で終了します.従いまして,私の在任期間である2 年間は,この分野のこれからの方向を定める,いわば「舵取り」の時期になります.といっても,これは海半球だけの問題ではなく,外を眺めれば,大学全体が法人化という変革期を向かえているわけです.こういう時期は,何か新しいことを始めるには最適ですが,残すべきものは難しくともきちんと残すことが必要であろうと考えます.特にこれからの時代には,附置研究所「目玉」あるいは「看板」になりうるような研究プロジェクトが必要になることも,忘れてはなりません.これらもろもろについてのこれからの方向性をこの2 年間で形作りたいと考えますので,よろしくお願いいたします.

 


 

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2001/09/12