2000 年鳥取県西部地震の強震動と数値シミュレーション

地震火山災害部門 古村孝志・纐纈一起


2000 年鳥取県西部地震と強震動

K-NET,KiK-net 強震観測網が日本列島全域にわた っておよそ20 〜25 km の高い密度で配置されたこ とにより,大地震時の波動伝播の様子を直接眺める ことが可能になった.たとえば2000 年鳥取県西部 地震(Mw6.6 )では,K-NET とKiK-net 合せて550 観測点以上で強震記録が得られており,西南日本に おける波動伝播の特性を考えるための貴重なデータ である.

震源から南西方向に向かって加速度波形記録を並 べて見ると,震央距離150 km 付近から短周期(周 波数0.5 〜数Hz )Lg 波が顕著に見られるようにな り,これが鳥取県西部地震の最大加速度や震度に大 きく寄与していることが明らかである(図1a ).西 南日本ではLg 波が水平・上下記録ともに良く認め られ,その伝播速度が3.6 km/s であることがこれ まで報告されており(島,1962 ;Furumura and Kennett,2001 ),ここで求められた群速度もこれに よく一致する.

次に加速度記録を時間積分して変位に直すと, Transverse 成分には8 〜10 s の卓越周期を持つLove 波が浮かび上がってくる(図1b ).Radial 成分や上 下動変位記録にはRg 波(Rayleigh 波の基本モード) も見られるが,最大地動振幅は大振幅のLove 波に よって規定されている.

近地・遠地波形記録から推定された八木・菊地 (2001 )の震源モデルを見ると,地表下3 km の位置 に断層すべり量が2.5 m を超える大きなアスペリテ ィが存在し(図3 左下),この浅い横ずれ断層から 放射された長い周期のSH 波が大振幅のLove 波を励 起したと考えられる.



図1 2000 年鳥取県西部地震のKiK- net 強震観測記録.
(a )Transverse 成分の地動加速度波形,
(b )変位波形.

表面波とマグニチュード

ところで浅発地震(H <60 km )の気象庁マグニ チュード(Mj )の推定には,記録された最大変位 振幅A に対して,震央距離(R )に対する地震波の 距離減衰を補正して求める「坪井式」(坪井1956 ) Mj =log A +1.73 log R −0.83 が利用されている.この式で用いられる距離減衰係 数(1.73 )は,日本付近で発生する浅い海溝型地震 や内陸地震の距離減衰特性を平均的に良く表してい る.しかし,内陸の浅発地震のように表面波が発達 する場合には距離減衰がずっと小さいために,距離 減衰の振幅補正を過剰に行ってしまう.この結果, R が大きくなるにつれマグニチュードが大きく求ま るという問題が生じる(図2 b ).

鳥取県西部地震のMj (=7.3 )とモーメントマグ ニチュード(Mw6.6 )に大きな違いが生じた原因の 一つには,Love 波の発達とその小さな距離減衰の 影響が考えられる.

ちなみに,K-NET とKiK-net 記録から固有周期6 秒の変位計記録を合成して最大地動変位の距離減衰 係数を求めたところ,1.0 の小さな値が得られた.



図2 (a )水平地動の最大変位の距離減衰.一般的な距離減衰係数(1.73 )
による距離減衰(坪井,1956 ,直線)と最小自乗法により求められた距離減衰
(距離減衰1.0 ;点線).(b )「坪井式」から推定されるマグニチュード.
距離減衰係数1.73 を用いた場合(黒丸,黒三角)と係数1.0 を用いた場合
(白丸,白三角).

Love 波の分散曲線とS 波速度構造

図1 b を見ると,震源付近で孤立波として見られ たLove 波は伝播とともに次第に形状を変え,さら に福岡から佐賀にかけての平野部を通過すると,分 散しながら次第に振幅が減少していくことがわか る.これは鳥取から佐賀にかけて,地殻・最上部マ ントルのS 波速度構造やQ 構造が水平的に大きく変 化していることを意味している.

そこで,Love 波がよく観測された4 地点(A-D ) を選び,各地点の周囲の5 観測点をライン・アレイ と見立ててLove 波の位相速度を求めた(図3). 観測点間隔は20 km 〜160 km の範囲にあり, 本解析から周期30 〜3 s のLove 波の位相速度が得ら れた.これをLove 波の基本モードと解釈し,イン バージョンから推定された各地点のS 波速度構造を 図3 に示す.波形分散が起きた佐賀(図3A 地点) では低速度(Vs =2.3 km/s )の表層が示されてお り,また四国山地下42 km 以深には,フイリッピン 海プレートと考えられる高速度(Vs =4.8 km/s ) が見える(図3D ).



図3 Love 波の分散曲線から推定された西南日本のS 波速度構造(A _D 地点).
2000 年鳥取県西部地震の震源断層すべりモデル(左下:八木・菊地,2001 ).

3次元強震動シミュレーション

求められたS 波速度構造とP 波速度モデル(たと えばZhao et al.,1992 )等を統合的に解釈して作成 した3 次元地下構造モデルと,鳥取県西部地震の震 源モデル(八木・菊地,2001 )を用いて強震動シミ ュレーションを実施した.

3次元西南日本モデルの820 km*410 km*128 km の領域を水平1.6 km ,鉛直0.8 km の格子間隔で離散 化し,「並列PSM/FDM ハイブリッド法」 (Furumura et al.,2002 )を用いて周波数0.5 Hz まで の波動伝播を評価した.この計算法は運動方程式の 水平(x,y )方向の微分演算をフーリエスペクトル 法(PSM )で,そして鉛直(z )微分を4 次精度の 差分法(FDM )を用いて行なうものである.二つ の計算法のハイブリッド化により,PSM の演算精 度とFDM の並列化効率の両方が期待できる.なお, 計算は地震予知情報センターのSGI Origin2000 並列 計算サーバを用いて行い,16CPU を用いた並列計 算には6 時間を要した.

求められた波動伝播のスナップショットを鳥瞰図 表示し,3 つの代表的なKiK-net 観測点(KYTH02, SMNH14,TKSH02 )での地動速度波形 (Transverse 成分)とともに図4に示す. 比較のために観測記録から合成した各時刻の波動場 のスナップショットと波形記録を図4 に並べて表示 する.観測された波動場のスナップショットは,エ リアジングを避けるために観測波形にカットオフ周 波数0.25 Hz のフィルタを施し,空間補完すること によって作成した.

地震発生から20 s 後にはSH 波の4 象現型の放射 が地表に見られ,西南日本を伝播するにつれ大振幅 のLove 波を生成する(60 s ).そして平野を通過し たLove 波は表層地盤での分散と散乱により波群が 長く伸びる(100 s ).また,平野では長時間にわた って揺れが続く様子も確認できる(100 s ).数値シ ミュレーションの結果はK-NET ,KiK-net の観測結 果をよく再現している.



図4 3次元強震動シミュレーションから求められた波動伝播のスナップショット
(水平地動速度)とK-NET ,KiK-net 強震観測記録から合成した波動伝播との比較.
図右に3 つのKiK-net(SMNH14,KYTH02,TKSH02)観測点での観測波形と計算波形を
比較する.

参考文献

Furumura,T.and B.L.N.Kennett,Variations in regional phase propagation in the area around Japan, Bull.Seism.Soc.Am.V91,667-682,2001.

Furumura,T.,K.Koketsu and K.- L.Wen,Parallel PSM/FDM hybrid simulation of ground motions from the 1999 Chi- Chi,Taiwan,earthquake,Pure. Appl.Geophys,2002,in press.

坪井忠二,地震動の最大振幅から地震の規模M を 定めることについて,地震2 ,7 ,185 _193 ,1954. 島 担,近地地震より観測されるLg 波の速度,験 震時報,27 ,1-6 ,1962.

八木勇治・菊地正幸,10 月6 日鳥取県西部地震 (Mjma7.3 )の遠地近地波形同時インバージョンに よる震源過程,2001 年地震学会秋季大会,T04, 2001.


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2002/01/11