共同利用研究集会

「衛星重力観測と地上重力観測」報告

地球計測部門 大久保修平

国立天文台 佐藤忠弘


平成13 年度共同利用による研究集会「衛星重力 観測と地上重力観測」(代表者 佐藤忠弘)が, 2001 年8 月6 日?8 日に,国立天文台水沢観測セン ターにおいて開催されました.この研究集会は,国 立天文台および地球科学技術推進機構とのジョイン トシンポジウムとしては,「衛星重力観測と衛星ア ルテイメトリーの新時代」として開催されています. 以下では,この会が開催された背景をまず説明し, 研究会の概要を紹介しましょう.

地球構造の最大の特徴は層構造を持っていること です.よく知られているように,表面から地殻,マ ントル,流体核,固体内核に大別されます.これに 加えて表層の大気・海洋が地球流体圏の一部を構成 しています.これらの各層は互いに無関係なままで いるわけではありません.たとえば,大気の揺らぎ によって固体地球が貧乏ゆすりをさせられるよう な,常時地球振動という現象が,これは地震研海半 球観測センターを中心とするグループによって 1990 年代後半に発見されています.このように地 球の各層は力,電磁気現象,熱等を介して相互に強 く影響を及ぼし合っているわけです.

一方,VLBI (超長基線電波干渉計),GPS (全球 位置計測システム)や超伝導重力計等,最近の地球 計測の精度や感度の向上には目覚しいものがありま す.このような最新の観測技術を駆使して,地球各 層の相互の結びつき・動きの相互の関係を研究す る,「地球システム科学」と呼ばれる分野が起こっ てきました.重力観測は,「質量移動」をキーワー ドとして,地球各層での物質移動を結びつけるデー タを与えてくれるので,地球システム科学を推し進 める上で非常に重要な役割を果たすことが期待され ます.

このような観点から,欧米各国では次々に重力観 測衛星が打ち上げられています.たとえば2000 年 7 月には欧州宇宙機構が重力衛星CHAMP (CHAllenging Mini- Satellite Payload )の打ち上げに 成功し,2001 年の末にはアメリカとドイツの共同 開発したGRACE 衛星が,また,2004 年には重力偏 差計を搭載した衛星GOCE (Gravity field and Ocean Circulation Explorer )が打ち上げ予定になっ ています.上記の衛星ミッションにより,地球重力 場の時間変動が低次の球関数については1 μGal (= 1 ×10 −8 ms −2 ),また130 次程度の高次でも1 mGal 以上の精度で決定されようとしていることは大きな 驚きです.

これくらいの分解能と精度で重力の時間変化が分 かると,地球の内部変形,例えばマントル対流や氷 河の融解にともなう地球のゆっくりした変形(ポス ト・グレーシャル・リバウンド)の進行の様子を準 リアルタイムで捉えられる可能性がでてきます.つ まり,地上重力データと衛星重力データの活用は, 従来の地球物理に革命的な変化をもたらす可能性を 秘めているというわけで,本研究会が開催の運びと なりました(図1 ).以下ではその概要を述べるこ ととします.セッション1 では,衛星重力観測につ いて考えるきっかけとして,日本で既に行われてい る観測や,進行中の計画について紹介されました. 月探査計画「SELENE 」については松本晃治(国立 天文台)が,また,衛星レーザー測距について佐藤 まりこ(水路部)が解説しました.衛星観測におけ る一般相対論的効果については福島登志夫(国立天 文台),昭和基地での観測については青木茂(極地 研)が紹介しました.古屋正人(地震研)は GRACE の衛星観測データを地上データで検証する 上での問題点を議論し,福田洋一(京大・理)は地 上での重力場と衛星から見た重力場との違いを EGM96 モデルを使ってシュミレーションしました. セッション2 では地球科学への応用が議論されまし た.中田正夫(九大理)と奥野淳一(地震研)は, ポスト・グレーシャル・リバウンドとマントル対流 について,著者の計算結果を中心に計算上の問題点 をレビューしてくれました.仲江川俊之(気象研) は全球陸水変動量についてGRACE の観測能力との 比較で,特に平均時間のスケールによるシグナルの 大きさの変化について調査しました.市川香(九 大・応力研)は,衛星高度計データにGRACE 等の データが加わった場合,(1 )海面力学高度を変動場 を含め絶対値で記述できること,(2 )海洋の順圧成 分が分かることを示しました.その他,海洋大循環, 海洋中の渦,黒潮の流軸変動,亜熱帯反流などの海 洋現象について,議論されました.

セッション3 では,日本の衛星重力ミッションに ついて議論が進められました.岩田隆浩(宇宙開発 事業団)は,重力研究に関係する衛星ミッションで, 進行中か計画中の日本のミッションについて紹介し ました.新谷昌人(地震研)は,彼が開発中のレー ザ地震計を,加速度計として衛星内部に設置すれば, 衛星重力計測の精度向上が図れることを示しまし た.内藤勲(国立天文台)は衛星重力観測もターゲ ットに入れた衛星ミッション立上げのための基礎研 究プロジェクト「精密衛星測位による地球環境監視 技術の開発」について紹介しました. 本研究会での講演・議論を通じ,従来は別々の研究 分野でなされてきた重力観測・研究と地球表層流体 の運動の研究とが相互に強い関連を持っており,固 体地球と地球流体の研究者の緊密な連携が今後益々 必要になって来ていることが改めて認識されまし た.



図1 地球重力場変動を捉えるには,さまざまな手段を組み合わせて解析を進めることが必要である。


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2002/01/11