地震研究所共同利用から

四国地方東部(四万十帯・秩父帯)の電気比抵抗構造に関する研究

塩崎一郎・西田良平・山口高広・下山浩二(鳥取大)
歌田久司(東京大),村上英記・網田和宏(高知大)
山口覚・藤田清士(神戸大)
後藤忠徳・大志万直人・住友則彦・森健彦(京都大) 




はじめに

 地球内部を構成する岩石の電気的性質を表す物理量として電気比抵抗(電気伝導度の逆数)があります・岩石の電気比抵抗は,(1)水の存在(2)伝導性鉱物の存在(3)温度(4)部分溶融層の存在,等により強く影響を受けます従って,地球内部の電気比抵抗分布を調ぺることにより,地球内部の温度や岩石の組成など,さらには,調査対象となる地域のテクトニクスに関する情報を得ることができます。
 全国の研究者で組織される地殻比抵抗研究グループは,これまで東北日本をはじめとして,日本列島各地域で比抵抗構造の研究を進めてきました.その結果,例えば,東北・中部日本では低比抵抗体が下部地殻内に存在することを明らかにするなど,各々の地域のテクトニクスに関連づけられる多くの成果をあげています。
 本研究の対象地域である四国地方については、1)下部地殻を構成する岩石が全般的に高比抵抗である可能性,2)四国地方中央部の外帯(三波川帯・四万十帯)では上部地殻内にl0km前後の厚さをもつ低比抵抗領域が共通して存在し,この領域が同地方下の無地震領域と一致する可能性,などが示されました.特に,代表的な付加体である四万十帯の低比抵抗領域に関しては,地震波速度解析より推定された空隙率を用い,その空隙中に水が存在するという仮定のもとに,アーチーの法則を適用すれば,その比抵抗値を説明できます。また,四万十帯の上部地殻内にみられる無地震領域は北側の秩父帯へかけて綬く北上がりに存在しており,この領域が秩父帯へかけてもつながることを示唆しています。
 従って,この四万十帯の低比抵抗領域が,(l)普遍的に存在するか否か,(2)もし存在するならその規模・形態はどうか,さらに(3) 秩父帯ではこのような低比抵抗領域が存在するか,などを明らかにすることができれば,東北日本弧などとの対比において、西南日本弧の特異性をはしめとして,陸海プレート境界における付加・脱水反応,地殻内地震のメカニズムなどを考察する上で、新しい知見を我々に与えてくれるものと期待できます。
 平成6年後期から平成7年度前期にかけて地震研究所共同研究(一般研究)を担う機会を得て,表題に総括される研究を進めることができました.本稿では四国束部地域で行った地殻電気比抵抗構造調査の紹介をさせて頂きます。



四万十帯・秩父帯の地殻比抵抗構造調査

 本研究では,四万十帯・秩父帯の地殻電気比抵抗構造の探査法としてマグネト・テルリック法(MT法:地磁気の変動成分とそれに対応する地電流の強さや位相差を測定することにより地下構造を推定する手法)を用いました.その探査深度は,入射する電磁波の周波数および大地の電気比抵抗によって制限されます。一般に,電磁波の周波数が低くなるほどあるいは,大地の比抵抗が高くなるほど,探査深度は深くなるという特徴があります。
 観測点の分布を図1に示します。観測は,四万十帯では高知県室戸市から北川村に至る測線(KWC,IWK,YMG,TKYの4地点)を設定し,秩父帯では徳島県那賀郡木頭村から那賀郡木沢村をへて美馬郡一宇村に至る測線(NKC,IWK,KWDの3地点)を設定して行いました.測定には,地震研究所の所有する広帯域MT観測装置(Phenix V5)を用い,広帯域(384-0.00055Hz)のMT調査を行いました.MTの信号処理に必要な地磁気の擾乱データを記録できるように,さらに人工ノイズの混入を避けるために,各観測点では3日間にわたり深夜から早朝にかけて観測を行いました.

 観測結果の概要を以下に述べます。はじめに観測データの一例として,観測点HTGならび観測点NKCで得られた見かけ比抵抗値と位相差をそれぞれ図2(a),(b)に示します。これらのデータから読みとることができる重要な特徴として,共通して見かけ比抵抗値が(ρaxyとρayx成分ともに),l0Hzから0.0lHzにかけて徐々に低くなることを挙げることができます。このことは,上部地殻内に共通して低比抵抗領域が存在することを示唆しています。また,観測点HTGのデータは0.01Hzから低周波側では,ρaxyとρayx成分が互いに離れていきますが,これは,観測点が室戸半島にあるために電流が半島を避けて流れる半島効果によるものと考えられます(このような3次元的な影響は,室戸半島の他の観測点でもみられ,地殻深部の情報を含んでいる低周波側のデータの質の間題とあわせて,地殻の深部椎造の議論をする場合,定量的な解釈に複雑さを与えます)。

 上部地殻内の低比抵抗領域に着目して,予察的に行ったインヴァリアント・インピーダンスを用いた1次元解析の結果を図3に示します。この柱状図から,数km以深,少なくとも10kmまでは,数100Wmの低比抵抗領域が,いずれの観測点でもみられることがわかります。



おわりに

 本研究を通して,四国地方東部の四万十帯・秩父帯においても,既に中央部でみられたように,上部地殻内の低比抵抗領域が存在すること(この低比抵抗領域と無地震領域の関連など,詳細な議論は次元をあげた解析結果を待たねばなりません)が明らかになりました.
 本研究を通して得られる比抵抗枯造は四国地方束部における一つの断面にすぎませんが,今後,この上部地殻内の低比抵抗領域を東部地域においてもさらに北側の三波川帯などに迫跡することにより,これまでの観測研究による経験法則:「四国地方では,内帯・外帯の地質構造区分にほぽ対応するように,外帯では上部地殻内に低比抵抗領域が一様に存在し無地震領域と対応する」の真偽が確かめられるものと思われます。また,本研究は,現在,第7次地震予知計画の一環として地殻比抵抗研究グループにより進められている「ネットワークMT法を用いた日本列島下の比抵抗構造調査」の基礎と位置づけられることは言うまでもありません。


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