地震研究所共同利用から
火山体構造探査

火山噴火予知研究推進センター 鍵山 恒臣




 過去10数年間の火山研究の結果,十分な観測を行っていれば噴火の前兆はほぼ確実 に捉えられる事がわかってきました.しかし,事前に異常現象を捉えることができて も,それが本当に噴火につながるのか,つながるとすればいつ噴火するのか,どのく らいのどのような噴火となるのかといったより高度な問題に対しては,どう答えてよ いかわからないのが現状です.その理由はいろいろ考えられますが,最も根本的なも のは,捉えられた異常現象が地下のマグマのどのような動き,どのような状態の変化 に対応しているのかを我々が知らない事にあります.我々はまず「マグマはどこにあ って,どのように供給されてくるか」,「異常現象はなぜそこで起きているのか」, 「その場所はマグマにとってどのような場であるのか」を知る事が求められていると 言えます.
 そのための実験として,全国の火山研究者の共同研究として,平成6年度に霧島火 山群で,平成7年度には雲仙火山で火山体構造探査実験を行いました.実験は,13大 学1機関から90名以上の研究者が毎年参加する大規模なものです.霧島では,MT( マグネトテルリック)法による地下の電気比抵抗構造調査で図1に示すように,深さ 10km付近にマグマに関連すると思われる抵抗の低い領域が火山列の下に発見され,火 口付近では,それが2〜3kmの深さにまでせり上がっている事が明らかとなりました.
また,深さ1km以浅の浅部には帯水層に対応する低比抵抗層が広がっていることも明 らかになりました.霧島で発生する群発地震は,マグマの上昇域と見られる深部の低 比抵抗域の最上部から浅い方に向かって発生し,その後帯水層内での火山性微動,熱 消磁などの異常現象が引き続いて発生している事なども明らかとなり,噴火前に発生 する異常現象が,火山の構造と密接に関連して発生していることが分かってきました .こうした結果は,前兆現象発生のメカニズムを知る上で重要な糸口となるでしょう .これと対照的に,そのような異常領域を持たない火山(図1の御鉢など)が,ある 地域にかたまっていることも明らかとなり,それは,マグマが普段浅いところに滞在 しない性質を持つ火山であることも分かってきました.一方,地震波の探査では,自 然地震の解析から低比抵抗領域に対応した地震波速度の遅い領域や減衰の大きい領域 が発見されているほか,従来は困難とされてきた人工地震の解析でも,新しい反射法 解析法を開発した結果,図2に示すように,マグマと思われる低比抵抗域に対応する 地震波の反射域が特定されました.
これらの研究結果は,重力や火山ガス,地質・岩 石調査などの結果とも合わせて,霧島火山群全体の構造とマグマ供給系を総合的に明 らかにする研究に役立てられます.ここに示した研究成果は,地震研究所彙報70巻に 発表されているほか,日本火山学会の「火山」41巻に発表が予定されていますので, 詳細はそちらをご覧ください.
 雲仙火山の実験結果は,現在解析が進められている段階ですが,人工的な電磁気ノ イズの高い地域用に開発されたTDEM(時間領域電磁誘導)法探査を適用した結果 ,島原半島西部や普賢岳直下に電気抵抗の低い(つまり,高温,あるいは火山ガスな どが多く溶けている熱水などと考えられる)領域が存在する事が明らかとなりました .この地域は,溶岩噴出に伴う地盤沈下を測量した結果からマグマの一時的な蓄え場 所があると考えられていた所です.また,人工地震探査でも,基盤構造が明らかとな ってきている他,普賢岳近傍に高速度異常領域の存在が認められています.これらの 結果は,また機会を改めて紹介したいと思います.
 このように,観測点を適正に取り,解析法を工夫すれば,マグマに関連する異常領 域を把握することが可能である事が分かってきました.今後は,測定器をより高密度 に配置して異常領域をより精密に把握する事,異常領域の定量的な解釈が課題となり ます.そのためには,推定された構造を実際にボーリングで検証する事なども必要で す.また,これらの作業と並行して,異常領域の時間的変化を検出するための実験を 行うこと,前兆現象の高精度観測とあわせて前兆発生メカニズムの体系化を行う事も 有益と思われます.これらの研究開発によって,将来はマグマの供給率を推定する事 ,噴火の長期予測のプロジェクトの一環として,火山の地下構造探査によって噴火の 準備状況を検証したり,カルデラ噴火の可能性をチェックする事なども視野に入れた 調査が可能となるでしょう.
 こうした遠大な計画に向けての次の一歩として,今年度の火山体構造探査は,霧島 火山群を再度ターゲットにして,より詳細な構造とマグマ供給系を明らかにする事を 目標としています.本研究は,地震研究所の火山噴火予知研究推進センターを推進母 体とした全国の研究者との共同研究として実施されています.その意味で,地震研究 所の「特定共同研究(A)」と位置づけられていますが,研究経費のほとんど大部分 は,各大学の噴火予知研究の事業費と個人的な科研費に頼っているのが現状です.事 業費が手当されていない地方大学の研究者の参加を支援するための員等旅費などの共 同研究経費から補助は,研究者1〜2名分にすぎず,共同研究の推進役である私の一 番の悩みは,いかに研究成果を挙げるかではなく,いかにそうした研究者の旅費を工 面するかとなっています.共同利用委員会の委員の先生方には,我々がこれまでにあ げてきた研究実績や,全国から毎年参加している熱心な研究者の実情をぜひ理解して いただきたいと願っている事もあわせて記します.
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