衛星通信地震観測テレメタリングシステム

平田直、卜部卓、鷹野澄




 第7次地震予知計画の一環として、平成7年度補正予算によって、全国の大学の高感 度地震観測データの収集、流通のシステムが更新され、新たに「衛星通信を用いた地 震観測テレメタリングシステム」が導入されました。
 このシステムの目的は、「全国地震観測データ流通の強化」と「機動的地震観測の高 度化」です。これまで、全国の9大学は、それぞれの地域で地震観測網を行い、隣接 の観測網の間で一部のデータ交換を行っていましたが、本システムの導入により、全 国のすべてのデータが、全国どこからでもリアルタイムで利用可能になり、観測網の 「継ぎ目」のない広域データ処理が可能になります。その結果として、全国の広範囲 の研究者が地震観測データを利用できるようになります。
 平成7年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)のような大地震後に発生する余震等 の活発な地殻活動や、伊豆半島での群発地震などでは、現地での高密度な観測体制を 迅速に展開する必要があります。こうした用途には、従来の地上回線を用いたデータ のテレメータ方式では限界があり、衛星通信を用いた本システムによってはじめて迅 速な高精度の観測が可能となります。
 東京大学地震研究所は、共同利用研究所として全国の研究者と共同で、全国規模の地 震テレメータシステムを開発しました。完成されたシステムは共同利用設備として運 用していきます。このシステムでは、全国225ヵ所の送信局から連続の地震波形デ ータを集め、全国24ヵ所の受信局にリアルタイムで送ります。直接衛星に打ち上げ る観測点と地上回線で集めたあと打ち上げる観測点を含め、全国の大学のすべての地 震波形データがこのシステムで集・配信されます。このために赤道上の静止衛星(JC SAT-3号、東経128度)を用い、Ku帯(上り12 GHz、下り14 GHz)の電波を使います 。サービスエリアは小笠原を含めた日本全国です。
 観測点では、地震波形データをGPS時計でタイムスタンプを付けたパケット形式に変 換します。データをパケット化して送る方式は地震研究所で開発した方式(win フォ ーマット)をもとにしています(図1)。新規に開発したデータ変換装置を用いて、 絶対時刻精度0.1 ミリ秒、サンプル長22ビットのデジタルデータが伝送されます。 サンプリング周波数は毎秒1データから毎秒200データの範囲で選ぶことができま す。この仕様は、地震データのテレメータとしては世界でも最先端です。つまり、こ のシステムでは、高感度の短周期地震計の記録だけでなく、高精度の広帯域地震計の 記録、地殻変動やGPSのデータの伝送にも利用できます。

 このシステムの特徴の一つは、2ホップ方式の通信です。観測点から電波を衛星に打 ち上げ、受信局で電波を受けるまでに、一度地上の中継局でデータを太い束にまとめ て増幅する方式です。送信局から衛星、衛星から中継局、中継局から衛星、衛星から 受信局と言う経路で2度衛星に電波を打ち上げるわけです(図2)。こうすると、最 初の送信局と最後の受信局のアンテナ設備を小さくすることができます。送信局には 、75 cmのアンテナ径の超小型地球局が設置されます(写真1)。

また、受信局には 、1.2 - 1.8 m 径のアンテナ設備を用います。そこで、重要になるのは、中継局です 。地震研究所に新しくできた「衛星テレメータ棟」には中継設備とデータの制御を行 う装置が設置されました。屋上には、3.6m径の大型パラボラ・アンテナが設置されて います(写真2)。

さらに、この建物には、得られるデータを用いた研究の拠点とし て、研究室・実験室を整備し、共同利用されます。じつは、地震研究所の「中継設備 」と同じ機能を持つ設備は群馬県にある(株)衛星ネットワークが運営する衛星通信 センターにも設置し、主局として運営しています(写真3)。衛星通信センターでは 、24時間体制で回線の状態をモニターし、障害に対応します。地震研究所の中継局 は副局で、主局の障害をバックアップする体制がとられています。中継局での集中豪 雨などによる回線の障害に備え、降雨量を監視して、群馬の衛星通信センターから東 京の地震研究所へ自動的に中継機能を切り替えるようになっています。これをサイト ・ダイバーシティー機能と呼んでいます。

 衛星テレメータシステムは、地上回線に依存しないので災害に強く、距離に制約され ないので離島や山間部での観測が容易になり、同報性により多数の研究拠点でデータ を受信できるのでデータをリアルタイムに全国共同利用できる、などの特徴がありま す。また、すべてのデータを全国で利用できるので、1観測センターの障害を他のセ ンターでバックアップすることもできるようになります。高度な臨時観測を迅速かつ 容易に展開できるため、重点地域の精査研究が促進されます。今年実施が計画されて いる、東北の奥羽脊梁山地での合同集中観測でも衛星テレメータシステムが活躍する 予定です。
 今後は、衛星通信システムを用いた地震観測テレメタリングシステムが円滑に運営さ れ、さまざまな利用の形態を工夫することによって地震予知研究および地震学研究が より一層進展するように努力していきたいと思っています。


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