海底ケーブルの科学的利用に関する国際ワークショップ報告

笠原順三、金沢敏彦,歌田久司、
山野誠、佐藤利典、野口和子、
原山千谷、松嶋信代


1.はじめに

 地球表面の2/3をおおう海域は,長い間地球物理の分野における観測の空 白域とさ れてきた.これまではわずかに点在する海洋島や自己浮上型の機器 による海底におけ る観測が,かろうじてこの観測空白域を埋めるための手段 であった.一方,近年の地 球科学の急速な発展は,海域におけるリアルタイ ム観測ネットワークの構築を必要不 可欠のものとしている.このような観点 から地震研究所では全国の大学や官庁・関係 企業の研究者や技術者と協力し て,海底ケーブル方式による観測システムの開発や運 用停止となった国際通 信用海底ケーブルを科学目的で再利用して地球物理観測を実現 する努力を続 けてきた.
 こうして地震予知計画によって1993年に伊豆東方沖光ケーブル式海底地 震観測シ ステムや1996年に三陸沖光ケーブル式海底地震観測システムが、 続いて1997 年1月には伊豆小笠原海溝斜面ケーブル式海底地震観測シス テムが設置され、本格的 な観測が開始されることになった。
 また,わが国においては最近数年の間に海底ケーブルを利用した海底リアルタイ ム観測システムが次々と実用化されようとしている。一方,米国でも1998年に東 太平洋やハワイ沖に海底ケーブル式観測システムを設置するべく準備がすすめられて いる。ヨーロッパ諸国(アイスランド、ロシア連邦、イタリアなど)でも同様な計画 が進みつつある。このように,世界中の関連分野の研究者間の情報交換を行い、また 海底観測に関する技術を紹介しあい、今後のシステム開発に役立てるのに最適の時期 であると考えて,国内の海底ケーブル利用に関心のある研究者および米国の海底ケー ブル利用委員会を中心に本ワークショップを企画した。会議は平成9年2月25日〜 28日の4日間,沖縄県宜野湾市の沖縄コンベンションセンターで開催された。

2.会議の概要

 ワークショップには,国外は米国・ロシア・中国・韓国・台湾・英国・フラ ンス・イ タリア・ポルトガルの合計9カ国から41名,国内は約80名で, 合計約120名が 参加した。会議では口頭・ポスター・展示を含め、60論 文が発表された。形式は, 午前中に招待講演者による口頭発表があり,午後 の前半はポスターセッション,後半 にパネルディスカッションがあり,連日 活発な議論が行われた.
 通常の研究会同様に研究者による地球物理学や海洋物理学などの分野の研究 発表も行 われたが,同時に海底ケーブルを利用するための技術や観測システ ムの建設などに必 要な周辺技術に関する,多くの専門的技術者による発表が あったことがこのワークシ ョップのユニークな点である.また,研究者サイ ドと技術者サイドが共通の問題を議 論するという形式は,非常に有益であっ たと.
 日本国内からの参加者は多くの非常に現実的な研究内容の発表を行ったので, わが国 における海底ケーブルの利用の急速な進展の様子が諸外国の研究者に 大変強い印象を 与えた。各省庁のシステムも含めると,日本の海底ケーブル 利用による地震観測点は すでに25カ所に及び,さらに毎年増加する。また、 日本のGeO-TOC、グアム〜沖縄 地球物理観測ケーブル、JASCケーブル、米 国のHawaii-2など運用停止をした通信 用海底ケーブルの利用は諸外国に新た な観測方式の方向を示した.また,実際に GeO-TOCの地震計で観測されたデー タが示されたことによりこの様な観測方式の有効 性を強く印象づけられたと の発言を多く聞いた。いくつかの国で,運用停止後の海底 ケーブルの利用の 検討が始められる模様である。
 米国からはNSF(全米科学財団)の代表の参加があった。会議の中で米国 研究者か ら出された「このような研究には国際的な協力が不可欠であり,国 際共同研究組織の 設立が必要である」との発言を受けて、NSFからの参加 者は1つの具体的な方向を 示してくれた。これまでは必ずしも国際的な協力 体制は十分ではなかったが,今後は 日米を中心にして体制の整備が進むもの と期待される.
 最終日(2月28日)の午後には,全参加者による「沖縄-グアムケーブル 海底観測 施設」の見学ツアーを行った.近々,科学目的で再利用される運用 停止した海底ケー ブルシステムを紹介することができ,好評であった.
 なお、会議の論文は
「Proceedings of International Workshop on Scientific Use of Submarine Cables」Feb. 25-28,1997 Okinawa, Japan
として出版されている。

3. 沖縄県における普及講演会

 国際ワークショップに引き続いて3月1日の2時から4時まで琉球新報ホー ルをお借 りし、海底ケーブル国内委員会主催、地震研究所・海洋科学技術セ ンター・琉球新報 社共催による記念講演会を開催した。講師として海洋科学 技術センター顧問小林和男 氏と本研究所所長の深尾良夫教授の両名にお願い した。また司会は琉球大学木村政昭 教授にお願いした。主催者、共催者の一 つである琉球新報社の挨拶の後、以下の2つ の講演を行った。
「生きている海底」 小林和男氏
「地震は何故起こる?」 深尾良夫
 講演会には100名に及ぶ一般参加者および防災関係者の参加を経た。講演会終了 後熱心な質問が出された。

謝辞

 本ワークショップの開催は文部省COE国際シンポジウム開催経費、東大シ ンポジウ ム開催経費によった.国内海底ケーブル利用運営委員会、米国海底 ケーブル利用運営 委員会の主催により、IUGG海底ケーブル利用委員会、 IUGG−ION委員会、 IEEE海洋工学東京Chapter、IRIS、 海半球研究組織の後援を得て開催 した。
 海洋科学技術センター、沖縄県、NSFからの援助に対し御礼申し上げる。 開催にさ まざまな支援をいただいた、国際電信電話株式会社(KDD)、沖縄県 コンベンション ビューロー、深海技術協会,琉球新報の方々に感謝を申し上 げる。地震研究所事務部 および教授会の理解と援助に感謝をいたしたい。


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