海半球観測研究センターの紹介

深尾良夫


平成9年度より、地震研究所に新しく「海半球観測研究センター」が発足しました。 「海半球」とは海洋が大部分を占める太平洋側の地球半球を意味します。聞き慣れな い言葉だとは思いますが、私共の意図する所を結構的確に表わしています。即ち、私 共は、「海半球」こそがこれからの地球観測のターゲットだと考えているのです。海 洋域は地球表面の70%を占めながらこれまで船で出かけていって観測する対象であ り、陸域のように観測網を展開してじっくり観測することはできませんでした。これ までは,地球表面の30%に過ぎない陸域観測網を通して地球全体を見ていたのです 。ですから得られた地球のイメージはどうしても歪んだりぼやけたりせざるをえませ ん。私達の地球に対する理解はプレートテクトニクス誕生以後も随分と進歩していま すが、現状の地球イメージに基づく限り,今後の本質的な進展は望めません。人類の 地球に対する認識を再び刷新するには,広大な観測空白域である「海半球」に新しく 観測窓を開けそこから直接地球内部を覗き込むことが必要です。「海半球観測研究セ ンター」は、西太平洋を中心とした太平洋域に固体地球物理の観測網を展開し長期機 動観測と併せてグローバルな地球観測を実施し、得られたデータの解析と国際的なデ ータ交換とに基づいて、地球内部の構造や運動を明らかにし、地震・火山・地磁気な どの地学活動の根源を解明しようとするものです。

「海半球観測研究センター」は,平成8年度から5カ年計画としてスタートした科学 研究費補助金・新プログラム(創成的基礎研究)「海半球ネットワーク/地球内部を 覗く新しい目」を実施するにあたっての全国的な拠点の役割も果します。この計画で は,全国の主として大学の研究者が,海洋島観測班・海底観測班・装置開発班・デー タ処理解析班に別れて,西太平洋域に地震観測網・電磁気観測網・測地観測網を建設 することになっています。図1にこの3つの観測網の建設計画の概要を示しました。 この中で海底での長期観測はまだ確立されていない技術であり,これまでに科研費な どで個々に開発してきた技術を総合化・実用化することも本計画の重要な要素です。 図2に海底観測装置の実用化・総合化計画の概要を示しました。計画がスタートして 1年が立ちましたが,今のところ建設は順調に進んでいます。図3,図4は,1年余 をかけてほぼ完成にこぎつけた海洋島設置用の広帯域地震計データロガーと3成分フ ラックスゲート型磁力計の写真です。なお,本計画の進捗状況や成果についての詳し いことは,この6月に発行予定のニュースレターをご覧ください。

「海半球観測研究センター」は地震研究所としては5番目のセンターですが,設置に 到るまでに東大の理学研究科大学院地球惑星科学専攻および海洋研究所の強力な支援 を受けました。その経緯に鑑み,今後ともこれら2機関の研究者の協力を得てセンタ ーの運営にあたりたいと考えています。また,「海半球観測研究センター」には今後 大きな節目が2つ控えています。それは,4年後「海半球ネットワーク」計画が終了 した時,及び10年後センターの時限が来た時です。観測網の寿命が5年,10年の 筈はなく,当然,20年かけて始めて成果の得られるような地球深部現象も観測対象 です。けれども,センターの将来を考えるにあたって予め節目を設定し,新たな発展 を自らに課すことは決して悪いことではないと考えます。願わくば時限の来る頃には ,センターの帰趨が固体地球科学界全体を揺るがすくらいに、サイエンスでもって存 在感のある組織に育って欲しいと思います。 最後になりましたが,本センターの設置にあたっては,全国の研究者,文部省学術国 際局及び東大当局のひとかたならぬ御支援・御協力を頂きました。改めてお礼を申し 上げます。


図1.海半球ネットワーク完成予定図


図2.海底観測システム概念図


図3.開発された海洋島地震観測用データロガー


図4.開発された3成分フラックスゲート型磁力計


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Last modified: Tue Jul 1 23:54:28 JST 1997