特定研究B

「短波長不均質構造とその波動論的作用」

秋田大学鉱山学部  松本 聡


平成9年度採択された上記テーマの研究成果報告会が平成10年1月13,14日に地震研究所第2会議室で行われた.その際,研究メンバーに加えて他からも講演をお願いし,のべ16件の発表が行われ,活発な議論がなされた.ここでは研究の概要と成果について紹介する.

地球内部にはいろいろな波長を持った「不均質」が存在していると考えられる.深部に行くに従って温度,P波やS波速度等が変化してゆき,「不均質」を示すことが知られている.本研究は,観測される地震波の波長数キロメートルに対して短波長の「不均質」を対象とする.これらは地球の様々な変動によって引き起こされ,地殻活動に大きな影響を与えている(図).特に1km以下の波長を持つ不均質は地震活動や火山活動に密接に関連している.たとえば地震の発生を制御しているは断層面の局所的な応力の不均質や破壊強度不均質,すなわち断層を滑らせる力と断層の壊れ易さの不均質であると考えられる.応力の不均質はクラック(亀裂)などの不均質が重要な役割を演じている.また,火山噴火に関連したマグマの貫入によるクラックの発生は,短波長の不均質として検出されるべきものである.このように短波長不均質構造は,広域の構造とは別に,直接的にこれらの地殻活動と関連しており,分布形態やその強度を検出することは極めて重要である.従来,盛んに行われてきた地震波速度トモグラフィは,その分解能がせいぜい数km程度である.これは地震波の伝播する時間データの解析が基本であり,これに主として寄与するのは相対的に長波長の不均質構造であることによる.短波長不均質構造は波形の乱れ,減衰等として現れる.本研究では以下のことを目標として研究を進めていった.

・ 不均質は観測される地震波にどう作用するか? 
・ 不均質をどうやって検出するか(検出法)?
・ 不均質はどこに存在するか(地域性)?
・ 不均質はどのような性質を持っているか(特性)?
・ 地震活動や火山活動にどのように関連するか?

研究会では,このような目的を踏まえて進められて来た研究成果を中心とした発表が行われた.地震波形は震源から直接到達する直達P波,S波のほかに地球内部の不均質で散乱された散乱波(コーダ波)によって形成されている.研究の対象として媒質による減衰そのもののメカニズムに対する研究,直達P,S波の減衰に関する研究,コーダ波の研究,地震波形全体のエンベロープの研究があげられる.

短波長不均質構造の観測地震波形への作用を調べるために,理論あるいは数値シミュレーションよりモデリングが行われた.地球内部に亀裂が存在した場合,その中に含有される液体の状態に地震波の減衰特性が依存することや,不均質の存在によって観測波形の最大振幅は大きく減衰することなどが明らかになった.また,観測される地震波形のエンベロープを数値的に合成する方法,深さ依存性を持つ構造に対する地震波形のエンベロープを理論的に求める方法が示され,より現実的な地球のモデルに対してシミュレーションを行う手がかりとなった.

観測された地震波形から不均質を推定するためのアプローチとして,コーダ部分は散乱された波の重ね合わせと考え,そのエンベロープの形状から散乱体の空間分布・強度を推定する方法,地震計を線あるいは面的に配置することによって散乱波を波動論的に取り扱い,100m程度のスケールでの不均質構造を検出する方法がある.本研究では従来の手法を改善して広域な散乱体分布を推定することができた.その結果,火山の直下深さ約100kmに非常に不均質な領域が存在すること,地震断層内部および周辺で強い散乱体が分布し地震波の輻射特性と相関があること,沈み込む海洋プレートと陸のプレートとの境界の強い不均質の存在などの地域性を持つことが明らかになった.また,散乱体分布と通常行われる地震探査法結果と比較し手法の議論を行った.そのほか,波形のエンベロープが地震波の周波数によって異なること,コーダ部分の外形が地殻活動に関連していることなどが示された.さらに,進んだ解析としてボーリング孔中での地震探査の結果や,新しい人工震源のシステムとしてアクロス(精密制御定常信号システム)の紹介もなされ,今後の不均質検出の足がかりとして興味が集まった.

以上のように,不均質構造の検出法の改良により新たな地域性が示された.また,地震波エンベロープ合成の理論も,より現実的なモデルへと発展しつつある.今後,この分野を継続・発展させてゆくことで,地震発生や火山活動の解明がより進むことが期待できる.なお,これらの研究成果の要旨は,http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/viewdoc/scat98.htmlに掲載されているのでぜひご覧いただきたい.


図.地殻内部不均質構造の模式図.地殻内部の不均質には反射面として検出できるものと散乱体として検出されるものがある.通常,後者は検出が難しい.これを検出,議論することが本研究の目的である.


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Last modified: Mon Jun 15 1998