共同研究 東北奥羽山地合同地震観測

地震地殻変動観測センター 平田 直


はじめに

  内陸の大地震の発生するしくみを調べるための大規模な観測が東北地方で、平成9年度と10年度に行われています。全国の大学から50人以上の研究者が参加し、東は岩手県沖の太平洋の海底から、奥羽山地,西側は秋田県沖の日本海の海底までの広い地域で実施されている大規模な実験・観測です(図1)。地震研究所は共同利用研究所として、この実験・観測の実施にあたっての取りまとめを行い、全国の研究者と共同で研究の成果をあげています。

研究の目的

 地震が地下のどこで、どのようにして起きるのかを知るためには、地下数10kmくらいまで地殻の性質を調べる必要があります。私たちが注目しているのは、地表で観察される活断層が、地下10kmでどのような3次元的な形なのかということです。地下の断層と小さな地震の分布の関係や、奥羽山地のような山脈ができるしくみを知ることも、内陸の大きな地震の発生を理解するためには大事なことです。東北日本は、これまで多くの研究の成果があり、世界中でもっともよく調べられている島弧です。私たちは、ここで、最新の観測技術を用いた研究を行って、島弧地殻の変形過程と地震の発生の理解を進めようと考えています。

合同集中観測

 平成9年の秋から始まった観測は、これまでいくつか国内で行われてきた地震観測に比べて、大規模かつ集中的な観測です。観測の基本となるのは、奥羽山脈の中央部、岩手県、秋田県を中心とし、宮城県と山形県にもかかる領域に、臨時地震観測点を約50ヶ所に設置した「広域テレメータ観測」です。この地域に既に設置してある気象庁や大学の観測点からのデータもリアルタイムで統合してデータベース化しています。観測点は全部で 80ヶ所程度になります。この臨時観測には、地震研究所が中心となって全国の9つの国立大学が共同で開発した衛星通信を利用した新型の地震波収集システムが用いられ、観測結果はリアルタイムで日本中のどこからでも参照することができます。この観測には、全国から多くの研究者が参加しているので観測の結果を日本中から容易に見ることのできる衛星テレメータシステムは研究を進めるために大変役立っています。地震だけでなく、GPSを用いた地殻の変形の観測もこの観測の一部として実施しています。臨時観測点での観測は、地震研究所では、地震地殻変動観測センターが中心となって実施しています。

 合同観測のもう一つの柱は、火薬や起震車などの制御震源を用いた地震探査実験です。1997年の10月に、陸上に10カ所と日本海の海上に2カ所の火薬の発破(薬量100〜500kg)を行い、東北日本弧を東西に横断する約150kmの線上に約300カ所に小型の地震計を設置して観測しました。観測点は道の途絶えた山奥にも設け、器材をリュックサックに詰めて沢を登って地震計を設置したところもありました(写真1)。岩手・秋田県境をはさんだ40kmの区間では、特に詳しい測定が行われました。ここでは、大型の起震車を用いた反射法探査を行い(写真2、3)、50m間隔に設置した約700カ所の地震計でデータを集め、地下の構造を調べました。この区間には、1896年陸羽地震(M7.2)で地表に現れた断層(千屋断層)があり、この活断層の地下への延長を調べることが調査の目的の一つでした。1998年の8月には、岩手県の北上市・花巻市を中心とした地域で 13ヶ所の火薬の発破と起震車での発振を行い、地殻下部の反射面の検出や、北上低地帯西縁断層系の深部構造の解明を目指しました。地震予知研究観測センター・地震地殻変動観測センターが中心となって実施しました。更に、岩手県花巻市と石鳥谷町では地震研究所の反射法地震探査システムを用いた探査が実施されています。

これまでの成果

 観測は現在でも継続中なので最終的な研究成果がまとまるにはもうしばらく時間がかかりますが、活断層の深部構造がだんだんに見えてきました。千屋断層の深部延長は深さ10km以深にまでおよび、深くなるほど低角度(水平に近づく)になることが分かってきました。断層の面は東ほど深くなり、地下深くでは、ほとんど水平になって、上部地殻と下部地殻を隔てる面(デタッチメント断層)になっていることが分かってきました。今年の実験の結果は、千屋断層の東の延長が花巻市の下あたりにも及んでいること示唆しています。この断層の深部構造と小さな地震の発生場所や地表の変形との関係が今後の研究の対象となります。さらに、もっと深いところ(下部地殻)には、地震の横波を能率的に反射する流体層の面があることも分かってきました。

まとめ

 大規模で総合的な地震観測が東北地方で実施されて、断層の深部構造が明らかになりつつあります。北上低地帯西縁断層系と千屋断層の深部構造の研究によって東北地方の背骨を形成している山地(奥羽脊梁(せきりょう)山地)が形成されたメカニズムと、陸羽地震タイプの内陸地震の発生機構が理解できるようになると考えています。


図1. 東北奥羽山地での実験の概念図


写真1. 山中での観測システム調整


写真2. バイブロサイスの車列


写真3. バイブロサイスで発震中


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Last modified: 1998/10/9