は じ め に

研究集会申請代表者: 大村 誠 (高知女子大学)

omura@cc.kochi-wu.ac.jp


 このたびは,東京大学地震研究所 共同利用 研究集会「Lバンド干渉SARの重要性」にご参加いただき,大変ありがとうございます。とくに講演者・座長の皆様,大久保修平先生はじめ東大地震研究所の皆様には,充実した研究集会の実施にあたり,ひとかたならぬご協力・ご援助をいただきました。深くお礼申し上げます。また,本研究集会は,東京大学地震研究所共同研究プログラムの援助をうけました。

 ここでは,申請書類に添付した研究集会の目的を示します。皆様の積極的なご参加によって,この研究集会が干渉SAR技術のさらなる発展に寄与することを期待します。



 干渉SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダ)技術は,地震・火山分野のみならず,地滑り,地盤沈下,植生変化,土地利用変化,氷河・氷床変動などの研究での応用が進むリモートセンシング手法の一つである。とくに地震・火山分野では,これまで,人工衛星搭載SARにより取得されたデータを干渉処理することにより,地震時の断層運動や火山活動による地殻変動の面的分布が明らかにされている。

 さまざまな観測波長や観測条件を持つSARによる観測例が蓄積されるにつれて,植生に覆われた複雑な地形のなかで地震・火山活動が生じる日本列島などの観測には,Lバンド干渉SARがとくに有効であることがわかってきた。しかしながら,現在運用中の衛星搭載SARは,波長の短いCバンドを採用しており,日本列島周辺の地球科学的観測に必ずしも適しているとは言えない。一方,すでに1998年に運用を終了したとはいえ,日本の地球資源衛星1号(ふよう1号:JERS-1)に搭載されたLバンドSARは大量のデータを取得・蓄積した。そのSARデータの一部の解析によって多くの成果が得られているが,その貴重なデータの大部分は未だ解析されていない。

 今回申請した研究集会では,このような背景のもとに,広い分野からの研究者が参加して,主としてJERS-1のLバンドSARデータの干渉処理結果の比較検討を行い,技術的課題を協力して解決する。CバンドSARや航空機搭載SARなどのデータの解析結果との比較も含まれる。さらに,LバンドSARの重要性について多くの研究者の共通認識を深め,新たな衛星搭載LバンドSARが使えるときに備えて,将来に向けてのデータ解析手法の開発および日本列島の地形・地表面変化を観測するのに適したLバンドSARシステムの検討など,データ利用者の立場から総合的な検討を行う。この集会は,広い分野におけるLバンドSAR応用の成果を,過去から未来に向けてさらに発展させる契機を提供することを目的とする。



 なお,平成13(2001)年8月28日付けで,政府の地震調査研究推進本部から出された報告書「地震に関する基盤的調査観測計画の見直しと重点的な観測体制の整備について」では,「合成開口レーダーによる面的地殻変動観測」は他の4項目の調査観測とともに「基盤的調査観測の実施状況を踏まえつつ、調査観測の実施に努めるもの」に位置付けられました。報告書「地震に関する基盤的調査観測計画の見直しと重点的な観測体制の整備につい て」の6ページには,つぎのように書かれています[1]。

(9)合成開口レーダーによる面的地殻変動観測    (地震調査研究推進本部, 2001)
○ 国産衛星であるJERS-1 等のデータを利用した合成開口レーダーによる解析手法の開発により、陸域における面的な地殻変動検出の手法の有効性が確立されてきた。
○ これまで兵庫県南部地震や鳥取県西部地震等に伴う地殻変動を検出しており、今後、全国の主要な活断層付近及び海溝型地震の沿岸域など地殻変動の出現が予想される領域において、合成開口レーダーによる面的地殻変動観測を進める。なお、衛星に搭載したL バンド合成開口レーダーは、我が国のような深い植生で覆われた地域でも面的地殻変動観測を効果的に行うことが可能であることから、これを搭載した衛星の打ち上げ・運用、取得したデータの幅広い流通の早期実現が望まれる。

 これは,固体地球科学(地震)分野でもSARの有効性が認められたものであり,SAR研究関係者の努力の積み重ねの結果であると思います。一方,当然のことながら,現時点での干渉SAR技術には解決すべき課題も多く,この技術がより高度に応用されるためには,さらなる研究が必要です。今回の研究集会でも,皆さんの研究の状況・成果・課題をご報告いただき,干渉SAR応用の発展に寄与していただくことを期待しています。


【参考文献】
[1] 地震調査研究推進本部(2001):地震に関する基盤的調査観測計画の見直しと重点的な観測体制の整備について,地震調査研究推進本部,10 p.
( http://www.jishin.go.jp/main/suihon/honbu01b/h14m3b.pdf )