InSARの火山観測応用に関するフランス・イタリアとの共同研究現状報告:Etna火山周辺の地殻変動観測
Status of cooperative study on InSAR application on deformation monitoring of volcanoes with French and Italian scientists: Crustal deformation monitoring around Mt. Etna

発表者  村上 亮  (国土地理院)
Makoto MURAKAMI (The Geographical Survey Institute)


Abstract: The crustal deformation laboratory of the Geographical Survey Institute has been exchanging ideas and experiences with scientists in Europe working on application of remote sensing technology for the understanding of dynamic system of volcanoes. The author had a chance to visit Mt. Etna just after the 2001 eruption and to exchange updated information about progress of research in both sides. In this article the author focuses on the new perspective of study of dynamic system of Mt. Etna when L-band InSAR is available for the monitoring of crustal deformation around the volcano.

1. はじめに
InSARの地震や火山観測への応用はヨーロッパ,米国、我が国で研究が活発であるが、利用する衛星が異なることから、それぞれ独自の技術的発展を遂げながら現在にいたっている。今後、InSARの火山への応用の一層の充実を図るためには、これらの関係者の交流が極めて有効であると考えられる。

 火山を対象とする場合に、特に問題となるInSARの技術的・科学的課題としては、
・ 画像内に起伏に富んだ標高差の大きい地域を含む可能性が高いため、大気遅延による誤差の確実な除去
・ 地表面の状況が変化にとむため、全領域にわたる可干渉性の向上
・ 時間分解能の向上
・ 視線方向のみから三次元変動への拡張
・ 数10mに達する場合もあるダイナミックレンジの広い変動への対応
・ 地震観測等他の観測との総合的解釈

等々がある。これらを解決するためには、これまでの経験やアイデアを交換して国際的な協力によって取り組むことが極めて有効であろう。

このため、フランスやイタリアの研究者と情報交換を行っているが、今回エトナ山を訪問する機会を持ち、ヨーロッパの研究者達が研究フィールドとしている地域を見学しながら、様々な情報交換をすることができた。

交流しているのは、パリ地球物理学研究所(IPGP)のP.Briole氏を中心とするグループで、彼等は地殻変動のみならず、地震や地質など総合的に観測体制が充実しているエトナ山について精力的に研究を行っている。

今回は、エトナ山においてこれまでなされてきたヨーロッパ側の研究成果を学ぶとともに、彼等が課題としている技術的問題について説明を受けたあと、既存のJERS-1および打ち上げ予定のALOSのL-band InSAR手法の適用が可能となった場合の研究の展望について意見交換した。


2. エトナ山を研究する意義と現状

 エトナ山は、イタリア南部シシリー(Sicily)島東部の標高3323mの火山であり、ヨーロッパでは標高がもっとも高い活火山である。紀元前693年以降約90回の噴火を繰り返しており、今回の調査直前の2001年7月から8月にかけても噴火し、溶岩を噴出している。テクトニクス的には、北方へ沈み込むアフリカプレートの運動がエネルギーの源となっていると考えられているが、沈み込むプレート側に位置しており、その成因については、さらに議論を深める必要があるようである。


Eruptions and lavas of Mt. Etna


Tectonic setting around Mt. Etna


(Map and diagram are after http://www.geo.mtu.edu/~boris/ETNA_maps.html and http://www.mala.bc.ca/%7Eearles/oct211999.htm and Gvirtzman, Z. and Nur, A., The formation of Mount Etna as the consequence of slab rollback, Nature, V. 401, p. 782-785.)


噴火に際しては、大きな地殻変動が観測される場合が多いことから、現地では、従来型の測量に加え、GPS、ERSを用いたリモートセンシング手法等により、精力的に地殻変動観測がなされている。それらに基づいた力学システムに関する研究も活発である。

エトナ山は、山体が、大きく動きもダイナミックであるうえ、現在も活発に活動しており、地殻変動が発生する確率が高い。一方、これまでの研究成果の蓄積も相当にあり、構造等が比較的よく解明されている。さらに、また、地震、地磁気、地質学的調査等、比較すべき他の観測も充実している。さらに、Lband InSARの適用に関して、相手側の関心も高く、協力に熱心である等、共同研究の推進に関して有利な条件がそろっている。現地の研究者は、これまでの、地質学的調査やGPSによる観測から、エトナ山の北部を東西に走る横ずれ性の断層がありそれがクリープしている可能性を考えているが、これは、エトナ山周辺のテクトニクスを考えたりや、長期的に山体の安定性を判断する場合の重要な基礎データとなることから、これをInSARによって確認することに強い期待を抱いている。


Location of fault system of interest.

これまで、ヨーロッパの研究者はC-bandであるERSのデータを用いてエトナ山の地殻変動を研究してきた。Massonet等は、最初、同心円状のフリンジを球対称力源の収縮として解釈したが、現在ではむしろ、大気中の伝播遅延の差による見かけのフリンジであると解されている ( Beauducel, et al. 2000)。

ただし、ERSでは、山体の一部しか干渉しないため、解釈も難しい面があるのと同時に、北東部に走っていると考えられているクリープ性の断層の部分は、干渉しておらず、詳細がわからない。


Interferogram of ERS InSAR and interpretations of the image.


Vegetation on the northeastern flank of Mt. Etna. A fault system runs in the area. A View from a summit ridge of Mt. Etna.

したがって、 L-bandである ALOS のInSARでエトナ山周辺の地殻変動場を明らかにすることが期待されている。また、JERSのデータについても、もし利用可能なものがあれば、そこから得られる情報は極めて貴重なものとなる。

 現在、P.Briole氏がPIとなってエトナを含むヨーロッパの火山の変動を検出し火山のダイナミックシステムを研究するテーマでALOSのARに採択された。Lband SARの利用によって火山の理解がさらに進むことが期待される。

4. まとめ

エトナ山の地殻変動場の把握にLband InSARを応用すべく、ヨーロッパの研究グループと情報交換を行っている。エトナ山周辺では、極めて活発な地殻活動が進行しており、Lband InSAR は、それらを理解するための貴重なデータを提供するであろうと期待されている。ALOSの打ち上げとそのデータ利用が熱い期待を集めている。

参考文献

Gvirtzman, Z. and Nur, A., The formation of Mount Etna as the consequence of slab rollback, Nature, V. 401, p. 782-785.
A web site at http://www.geo.mtu.edu/~boris/ETNA_maps.html
Nunnari G and Puglisi G (1994) Ground deformation studies during the 1991-1993 Etna eruption using GPS data. Acta Vulcanologica 4: 101-107.
Francois Beauducel, Pierre Briole, and Jean-Luc Froger, Volcano wide fringes in ERS SAR interferograms of Etna: Deformation or tropospheric effect? , Journal of Geophysical Research, Vol 105, No B7, Pages 16,391-16,402, July 2000.