インターフェログラム位相強調フィルタ
Interferogram enhancing filter

大倉博(防災科学技術研究所)
Hiroshi Ohkura (NIED)


Abstract: A powerful filter for enhancing SAR interferogram is developed from the Goldstein & Werner’s filter. Filtering of the same original interferogram is conducted gradually from the filter with the large size of a window to the one with the small size. After each filtering the portion in which the interferogram becomes clear replaces the corresponding portion of an output interferogram.

Keywords: interferometric SAR, filter, fringe enhancement

1.はじめに
 SARインターフェロメトリ(InSAR) は,広い範囲の地表変位を空間的に連続にセンチメートル単位で計測できる唯一の方法として,地震や火山活動による地殻変動の検出に利用されている(1).衛星搭載SARによるリピートパスInSARでは,JERS-1 SARに代表されるLバンドSARが,CバンドSARに比べ標高および変位の検出感度が劣るものの位相干渉性が高く,植生被覆の厚い我が国での観測に適している.2002年現在,運用中のLバンドSARを搭載した地球観測衛星はなく,2004年のALOSの打ち上げまでは,CバンドSARデータを用いて地殻変動の観測を行わざるを得ない.CバンドSARによるInSARの位相干渉性の低さを補う目的で,インターフェログラム位相強調フィルタを開発したので報告する.このフィルタはCバンドSARによるもののみならず,全てのインターフェログラムに対して有効である.

2.Goldstein & Wernerのフィルタ
 新開発のフィルタは,Goldstein & Wernerのフィルタ(2)(以下,GWフィルタという)を改良したものである.GWフィルタは,インターフェログラム上を走査・移動する窓内を逐次フィルタリングすることでインターフェログラム全体をフィルタリングする(Fig.1).窓内のフィルタリングは次の手順で行う(Fig.2).1)2次元FFTを用いて窓内全体を周波数領域に変換する.2)各ピクセルの値(複素数)の振幅をα( >1)乗する.3)2次元逆FFTを用いて窓全体をもとに戻す.なお,Fig.3に示すように、窓の走査は,窓が75%オーバーラップするように移動する.また、各々の窓に対するフィルタリングの結果は、窓を底面とする高さ0.25の4角錐と等価な重み関数を乗じた後、出力インターフェログラムに重ね合わせる。

3.Goldstein & Wernerのフィルタの改良
 Fig.2の上段の図 (a), (c), (e), (g) は,窓寸法が128ピクセル×128ピクセルの窓内のフィルタリング過程における振幅の変化を示し,図 (b), (d), (f), (h) は位相の変化を示す.(h) は,(b) の雑音が除去されて干渉縞が明瞭になっているが,右辺付近の干渉縞の間隔の狭い部分が再現されていない.(i) は,(b) を32ピクセル×32ピクセルの窓寸法でフィルタリングした結果を示す.右辺付近の干渉縞の間隔が狭い部分は再現されているが,上辺近傍において雑音が残存している.これらからGWフィルタは,窓寸法が大きくなるとローパスフィルタとして作用し,窓寸法が小さくなるとハイパスフィルタとして作用することが分かる.
  新開発のフィルタは,GWフィルタを用いてフィルタリングする手順と後処理とを工夫したものである.始めに窓寸法の十分に大きなGWフィルタを用いて,干渉縞の不明瞭な部分をその周りの干渉縞の低周波成分を用いて内挿すると同時に,オリジナルインターフェログラム全体の高周波雑音を除去した出力画像を作成する.次に,窓寸法を順次段階的に小さくしたGWフィルタを用いてオリジナルインターフェログラムをフィルタリングし,各段階でインターフェログラムが明瞭になった部分を出力インターフェログラムの対応する部分へ置き換える.明瞭になったかどうかの判断は,各段のフィルタリング済み全体画像上の「対象としているピクセルの振幅」と「このピクセルを中心とする小領域における振幅の標準偏差」との積が,閾値より小さいことによる.

4.既存フィルタとの比較
 富士山のRADARSAT画像(2001年09月05日と2001年10月29日)のインターフェログラムを用いて新開発フィルタと既存のフィルタの適用結果とを比較した.インターフェログラムの範囲は富士山頂と東斜面の一部である.Fig.4. (a)は,オリジナルインターフェログラムである.(b)は,商用InSAR解析プログラムInSAR Workstation (カナダ,Atlantis scientific社製)の移動平均を用いたフィルタの適用結果を示す.移動平均の窓の大きさは,コヒーレンスの値と反比例的な関係を持つ.(c)はGWフィルタの適用結果を示す.窓寸法は32ピクセル×32ピクセルである.(d)は新開発のフィルタの適用結果を示す.窓寸法は,512ピクセル×512ピクセルから,順次,各段において1/2に縮小し,32ピクセル×32ピクセルまで変化させた.これらの比較によって,新開発フィルタの位相強調の効果の高さが明白である.

参考文献
1) Ohkura, H.: Applications of SAR data to monitoring earth surface changes and displacements, Advances in Space Research, Vol.21, No.3, pp.485-492, 1998.
2)Goldstein, R. and Werner C.: Radar interferogram filtering for geophysical application. Geoph. Res. Letters, Vol. 25, No.21, pp. 4035-4038, 1998.


Fig.1

Fig. 1. Scanning all over the interferogram with a small moving window.


Fig.2

Fig. 2. Process of the Goldstein and Werner’s filter.


Fig.3

Fig. 3. The position of the moving window and quadrangle weighting functions for overlaying feltering outputs of each position.


Fig.4

Fig. 4. Comparision of filters.