パネルディスカッション「今後のLバンド干渉SAR」

まとめ: 大村 誠 (高知女子大学)

omura@cc.kochi-wu.ac.jp
この報告では,パネルディスカッションに参加されなかった方にも理解できるように補足しつつ,当日の記録をもとに大村がまとめたものです。さらに録音装置の不具合もあって,この報告は当日の発言内容とは異なり,しかも未確認の情報も多く含まれていることをご了承ください。なお,当日の記録にあたり,小澤 拓さん(国立極地研究所)のご協力をいただきました。お礼申し上げます。

パネルディスカッション「今後のLバンド干渉SAR」

   司会:大村 誠(高知女子大)
   パネリスト[五十音順]:大倉 博(防災科学技術研),木村 宏(岐阜大),児玉哲哉(SPACE2001),小林茂樹(九州東海大),島田政信(NASDA/EORC),徳田正幸(国際航業株式会社),飛田幹男(国土地理院)

司会:このパネルディスカッションのポイントをOHPでご紹介します。

「今後のLバンド干渉SAR」
    1)実績:なぜLバンドか?
    2)なぜInSARユーザーは広がらないのか?
    3)使えるInSARとは?

1)実績:なぜLバンドか?

司会:LバンドのJERS-1 SAR干渉処理の実績を振り返って,ご意見をお願いします。

○地殻変動(地震・火山)の観測では,干渉するデータが存在することが前提となるので,日本のような植生のあるところではLバンドが有用であり,JERS-1は結果的にLバンドを採用してよかった。

○偏波によってはCバンドも使える可能性がある。2000年鳥取県西部地震の地殻変動観測でのRADARSATの干渉成功は,偏波がHHであったからの可能性がある。また,植生のモニタリングではPバンドも良いかもしれないが,長波長では処理がやっかいになるので,Lバンドがちょうどよい。

○Lバンドはtemporal decorrelationが少なく,干渉可能な「データの賞味期限」が長い。これは,干渉SARのためのデータ取得時間間隔を長くできることを意味する。それぞれ異なる目的を持った多くのユーザの観測要求に一つの衛星SARで対応するときなどに,観測計画の時間的自由度が大きくなり,システムの運用上有利である。また,より短波長のSARに比べて,Lバンドは地殻変動に対する感度が低い代わりに,位相Unwrappingが簡単である。

○JERSの干渉性が良いのは偏波がHH(幹や地面から返る)であるための可能性がある。

○DEM作成について考えると,商業目的には衛星SAR(空間分解能:数十m)は分解能が低くて使えない。航空機SARのLバンドに期待している。植生の影響について調べたい。Xバンドではとくに植生が問題と思われる。

○台湾でPバンドSARのデータにノイズが多くて使えなかったとの話を聞いた。

○航空機SARのPバンドデータにノイズが多かったという話は他にもあるようだ。

○携帯電話と混信しているのでは?このことは,Lバンドより,Pバンドで深刻な問題である。日本の場合,Lバンドでもかなり多くの人為的ノイズが入ることがあり,Pバンドでは,さらに深刻であると思われる。

○特に熱帯地方では,回帰周期の長さに問題はあるが,Repeat-pass InSARではLバンドが有利。JERSの44日周期は熱帯では長すぎ,土地被覆変化をInSARで観測するには半日くらいの時間間隔がよいかもしれない。


2)なぜInSARユーザーは広がらないのか?

司会:JERS-1 SARデータ干渉処理の問題点を振り返りながら,ご意見をお願いします。

○光学センサのデータなら,データが届いて画像を見れば結果の良否がある程度予想でき,無駄な解析をしないですむ。しかし,InSARは処理を最後までやらないと,うまく結果がでるかどうか分からず,しかもJERSデータの解析には「職人芸」が必要である。苦労しても,うまく解析できないことも多く,解析意欲に影響する。この点で,InSARの「敷居」は高い。ALOS PALSARでは軌道制御,軌道精度が向上し,「敷居」が低くなるかもしれない。

○ほかにも「敷居」はたくさんある。たとえば,解析ソフトが高額で初期コストが高いこと,労力・ノウハウ(ワザ)・経験・処理時間がたくさん必要であることである。また,結果の均一性(再現性)がよくないことがあり,これは軌道精度の悪さや表面状態の変化に起因すると思われる。

○その他の「敷居」もある。以前はデータ配布が遅かったが,これはNASDAおよびRESTECの努力によって最近は改善されて早くなった。また,処理がうまくいくかどうかわからないということに対しては,たとえばデータペアの垂直基線長(Bperp)で見当がつく。EORCの島田さんが計算され,web上で公開されているJERS-1の軌道間距離データは大変役に立っている。(大村 補足:EORCホームページでJERS-1のフレームから辿るか,つぎのURLを参照してください。http://www.eorc.nasda.go.jp/JERS-1/Baseline/Manual_J.html ) さらに,GISの利用が広がるにつれて,干渉処理の結果を他の地理的データと重ね合わせて用いるユーザーが多くなると思われるが,干渉画像をGeocodeしなければ使ってもらえないし,日本測地系2000でgeocodeすべきである。


3)使えるInSARとは?

司会:それでは,ここまでの議論と,海外および近い将来の状況を考慮して,「使えるInSAR」を実現するために必要な条件などについてご意見をお願いします。

○ヨーロッパにおけるSARデータ配布の現状はどのようになっているか? ESAのソフトウェアはlevel 0から処理するようになっている。

○ヨーロッパでは,研究者がソフトやツールを開発し,ESAがそれらの配布・サポートをしているようである。

○オーストラリアではERSデータがSLCでも配布されていた。

○ヨーロッパでは,他の人(機関)に干渉処理をしてもらって,結果のみを使う人も多いのでは?日本でも,より高次の処理結果を配布してはどうか?

○処理結果の品質管理が問題で,たとえば大気影響が残る可能性がある。また,組織的な取り組みが必要である。

○配布するデータの品質を限定してはどうか?

○観測目的に合った,容易に干渉処理できるデータを公開する必要がある。あわせて,気象などの情報も提供されることが望ましい。

○入門用としては,基線情報をもとにユーザーが干渉ペアを検索するのではなく,典型的な解析目的に適した干渉ペアをテストデータとして公開してはどうか?

○InSARを応用しようとするユーザーにとって,特定の目的に適した期間・地域のデータが見つからないことが問題である。

○JERSはInSARを考慮に入れて設計されておらず,結果的にInSARもできたということである。ALOSではInSARで利用する条件は,より良くなるので,新規ユーザーが増えるのでは? ALOSを待つうちに,地震・火山国である日本列島でのLバンドInSARの有効性を強調して,要望・意見を出すべきである。
 また,わが国の宇宙関係の財政が苦しい中で,情報収集衛星(8衛星のうち4衛星はSARを搭載予定)関係の予算は,年度によっては他の衛星ミッション予算の合計額にも匹敵するとのことである。このような状況下で,将来のLバンドSARデータを確保するためには,他の衛星ミッションと競い合って予算を獲得するとか,各省庁から要望を出してもらうとか,情報収集衛星が取得したデータの利用・公開について要望するなどの方法を考えることが望まれる。

○ALOSの打ち上げがさらに延期されることがないようにしたい。

○宇宙開発計画に影響力をもつ関係機関・組織への意見・要望がさらに重要では?

○企業でのInSAR利用にあたっては,経済的なメリットがあるか見込まれることが重要である。安価で入手が容易な公開データが求められる。たとえば,JERS-1 SARデータは安価であるが新規データは取れない。一方,現在も運用中のRADARSATデータは高価で,安くならないと使えない。
企業が想定するInSARの用途としては,たとえば地滑りのモニタリングがある。GPSは点,InSARは面での観測ができるので,地滑りの範囲のモニタリングにはInSARを使うことが考えられる。SARの空間分解能があがれば,都市計画や海外の土地基本図などの作成にも使えそうである。

○地滑りや斜面崩壊のモニタリングには,現在の地理院DEM(50mメッシュ)や衛星画像から作成されたDEMでは分解能が不足している。

○あくまでも計画段階であるが,現在の地理院DEMより高分解能のDEMを,世界測地系を採用して作成することが検討はされてはいるが,実施時期は不明である。

○実際には,ALOSの軌道精度を目標の1mに納めるのは困難ではないか,ということをユーザーは認識すべきであろう。GPSのデータはIGSなどの精密歴を使用しているので高精度である。

○衛星計画には,政府の特殊法人改革への意向,文科省・NASDAなどの意向などが複雑に影響してくる。政府機関では,これまで,衛星打ち上げのような「目に見えやすいこと」には熱心であったが,打ち上げた衛星の利用推進については力が入っていないようにも見える。防災科学技術研究所などの動きが重要ではないか。InSARのユーザーを広げるには,各分野ごとの利用推進をはかるべきである。


司会:皆様ありがとうございました。これでパネルディスカッション「今後のLバンド干渉SAR」を終ります。この後も,発表が続き,明日の最後に総合討論を予定しています。今回のパネルディスカッションの内容が,さらに発展することを期待しています。