RADARSATデータの干渉処理によるインド西部地震の解析の試み
An approach to interferometric analysis of RADARSAT data for the western India earthquake on 26 January 2001.

冨山 信弘、米澤 千夏(RESTEC)
Nobuhiro Tomiyama, Chinatsu Yonezawa (RESTEC)


Abstract: The January 26, 2001, Ms=7.9 western India earthquake shook the state of Gujarat, western India. The earthquake caused severe building damage and killed more than twenty thousand people. Kutchh district near the epicenter was seriously damaged by this earthquake. More than 80% of houses were completely or seriously destroyed. We attempt to extract interferograms with RADARSAT data. The interferometric fringes of the pairs before and after the earthquake is too noisy to estimate the ground deformation. Decorrelation on Anjar city is found from the data pairs before and after the earthquake. However, the decorrelation degree is lower than that of urban damages in Japan and Taiwan. The result of this study shows necessity to discuss the construction of the building and the density of the city for application of urban damage detection using the interferometric decorrelation of SAR data.

1. はじめに
2001年1月26日に、インド北西部のグジャラート州(Gujarat)を震源とする地震が発生した。USGSによると、震源は23.36N、70.34E、深さ22km、地震の規模はMs7.9である。この地震による被害はグジャラート州全域に及び、人的被害は死者20,005人、負傷者166,000人、家屋被害は全壊家屋37万戸、半壊家屋92万戸(2001年3月20日現在、インド政府発表)という大災害であった1) 2)。震源地に近いカッチ(Kutchh)地方での被害は甚大で、死者数はバチャオ(Bachao)、アンジャー(Anjar)、ブジ(Bhuji)の3つの都市だけで全体の90%以上を占める。また、パッカやカッチャと呼ばれる伝統的な組積家屋が多いアンジャーでは、80%以上もの家屋が被害を受けている。

 ここでは、本地震による地表変動が確認されている断層を含む地域において、地震前同士および地震前後のデータ組み合わせから干渉縞抽出を試みた。また、震源に近く、家屋被害の多いアンジャーについて、コヒーレンス情報を用いることにより建造物被害域の抽出を試みた。

2. 使用データ
解析にはRADARSATのFINE Mode SARデータを使用した。これらのデータの観測範囲をFig.1に、強度画像の一例をFig.2に示す。画像の再生にはAtlantis Scientific Inc.製のEarthView APPを、干渉処理には同社製のEarth ViewおよびIn-SARを使用した。干渉処理の組み合わせはTable 1のとおりであり、以下ではそれぞれの組み合わせをペア1〜ペア5とする。

Fig.1

Fig.1. Observed area used in this analysis.

Fig.2

Fig.2. Amplitude image acquired on Nov. 19, 1999.


Table 1. SAR image pairs used in this analysis.
Pair No. Master Slave Interval[days] Baseline length (parp.)[m] Coherence
1
2
3
4
5
1999/11/19
1999/11/19
1999/11/19
1999/12/13
1999/12/13
1999/12/13
2001/03/13
2001/04/06
2001/03/13
2001/04/06
24
480
504
456
480
732
2295
431
828
260
0.2682
0.0893
0.1286
0.1174
0.1248

3. 解析結果

3.1 干渉縞の抽出
 地震前のペア1からは解析範囲全域にわたって干渉縞が得られた。解析対象地域のほとんどは平地で砂地や田畑が多く、北部には、乾季には干上がって塩湖となり、雨季には内陸湖を形成する湿地帯が広がる。干渉縞の抽出には不利な場所ではあったが、観測時期が乾季で、観測日間隔が24日と短かったため、干渉縞が抽出できたと考えられる。

地震前後のデータ組み合わせでは、ペア3と5より一部の領域で干渉縞が抽出された。干渉縞が抽出された領域は、地表に岩石が分布する山地・丘陵部や都市域のみであり、田畑や湿地帯ではほとんど干渉していない。ペア3とペア5については3パス法(ペア1より作成したDEMを使用)により地形縞を除去したところ、どちらのペアにおいてもKatchh Mainland断層付近に複雑な縞のパタンが見られた。ただし、干渉縞の連続性が悪く、縞のパタンに一連の傾向を見出せないことから、変動によるパタンであることを断定することは困難であった。

干渉処理によって変動を抽出するためには、干渉性の良い組み合わせのデータを選ぶことが重要である。この干渉性の判断基準となるのが、基線長と観測日間隔である。全体的に干渉したペア1と、一部のみしか干渉していないペア3およびペア5を比較すると、ペア1のほうが基線長は長いものの、観測日間隔は450日以上短い。このことから、砂地や田畑のような地表の季節変化が大きい土地被覆の場合、観測日間隔の短い組み合わせのデータを選ぶことが重要であるといえる。また、雨季と乾季の差が大きい地域であれば、雨季を挟まないデータの組み合わせが望ましいと考えられる。

3.2 アンジャーの建造物被害域の抽出
ペア1、3、5のアンジャー周辺のコヒーレンスマップをFig.3に示す。Fig.4は同範囲のLANDSAT ?7/ETM+のバンド8データを用いて、地震前後(2001/01/08と2001/02/09)の輝度値の差分を求めたものであり、地震後に輝度が高くなったところほど暗く表示されている3)。Fig.4の暗くなった部分を建造物被害地域とすると、Fig.3(b)、(c)の地震前後のペアでは同じ地域でのコヒーレンスの低下の程度が大きいことがわかる。

ERS/SARの干渉処理によって兵庫県南部地震や台湾(集集)地震を解析した場合、地震前後のペアで都市被害域のコヒーレンスが明らかに低下した4) 5) 。しかし、今回の解析では、地震前後のペアでは全体的にコヒーレンスが低く、建造物被害域のコヒーレンスの低下は、都市域以外の領域と比較してやや大きい程度であった。アンジャーの建造物はレンガや石を積み重ねた組積家屋がほとんどであり、日本や台湾の都市とは建造物の構造や密集度が大きく異なる。このため、日本や台湾の都市の場合よりも地震前後のペアにおけるコヒーレンスの低下の程度が小さかったと考えられる。さらに、RADARSATとERS/SARの分解能・入射角・偏波などの諸元の違いについても、今後検討が必要である。

Fig.3

Fig.3. Coherence map at Anjar city.

Fig.4

Fig.4. Difference of the intensities of LANDSAT-7/ETM+ band8 before and after the earthquake (Jan. 8, 2001 and Feb. 9, 2001).


4. まとめ
 インド西部地震を対象にRADARSATデータを用いて干渉処理を行った。地震前の1 ペアの全域および地震前後の2つのペアの一部から干渉縞が抽出されたものの、地震による変位の抽出には至っていない。アンジャーの被害域では地震前後のペアでコヒーレンスが低下する傾向がみられた。コヒーレンスによる建造物被害域抽出のためには、都市域の密度や建造物の構造についてさらに検討する必要があることが明らかになった。

5. 謝辞
 DEM作成にあたって使用したフィルタは、防災科学技術研究所の大倉博 博士の提供によるものである。

6. 参考文献
1) Details of Affected Districts http://www.gujaratinformatics.com/quake/
2) インド・グジャラート地震被害調査報告(応用地質)
  http://www.oyo.co.jp/service/taisyou/jisin/indo/index.html
3) 田中總太郎・杉村俊郎・冨山信弘:インド西部地震による建物倒壊個所と液状化現象のLANDSAT-7/ETM+画像解析による検出、(社)日本リモートセンシング学会第30回学術講演会論文集、pp215、2001.
4) YONEZAWA, C., TAKEUCHI, S.: Decorrelation of SAR data by urban damages caused by the 1995 Hyogoken-nanbu earthquake, INT. J. REMOTESENSING, 2001, Vol.22, No.8, pp1585-1600.
5) TAKEUCHI, S., SUGA, Y., OGURO, Y., CHEN, A.J. and YONEZAWA, C., 2002, Verification of InSAR capability for disaster monitoring: A case study on Chi-chi earthquake in Taiwan . Asian Journal of GEOINFOMATICS, to be published.