JERS-1の干渉SARで見た九重火山
−噴火前後の地殻変動の推移−
Crustal Deformation of Kuju Volcano Detected by JERS-1 SAR Interferometry
- before and after the 1995 eruption -

国土地理院 地理地殻活動研究センター ○矢来博司,飛田幹男,村上 亮,中川弘之
文部科学省 研究開発局         藤原 智
Geographical Survey Institute ○H. Yarai, M. Tobita, M. Murakami, H. Nakagawa
Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology S. Fujiwara


Abstract:Kuju volcano erupted on Oct.11, 1995. We detected crustal deformation of Kuju volcano before and after the eruption by JERS-1/SAR interferometry. The area near the eruption site had not deformed before the eruption. The deformation started at the eruption. After the eruption, deformation rate neat the eruption site decreased with time. The deformation around Hacchobaru may be land subsidence caused by a Geothermal plant. Another volcanoes around Kuju did not show deformation.

1.はじめに
 九重火山では,1995年10月11日の噴火以来,GPSや光波測距等の観測が行われており,噴火地点周辺域での地殻変動が捉えられている(京都大学防災研究所,1996,地質調査所,2000)。また,JERS-1/SARデータを用いた干渉SARにより,九重火山の噴火に伴う噴火地点近傍の変動が捉えられている(島田ほか,1997,冨山ほか,2000)。

 JERS-1は1992年から1998年にかけてデータを取得しており,噴火前から噴火後にかけてのデータが存在する。本研究では,噴火に伴う地殻変動だけでなく,九重火山の長期的な変動の推移を調べるために,主に長期間のペアについて干渉SAR解析を行い,地殻変動の検出を試みた。

2.解析
 1995年10月の噴火以前からの長期的な変動を調べるため,JERS-1が1992年から1998年にかけて取得したデータを用い,差分干渉処理を行った。解析には国土地理院で開発されたGSISARを使用し,フルシーンでの解析を行った。

 解析範囲には九重火山に加え,阿蘇山や鶴見岳などの火山も含まれることから,これらの火山についても変動があるかどうかを調べた。

3.結果と考察
 解析の結果,いくつかのペアで九重火山周辺において地殻変動による位相変化を検出した。Fig.1は1993年10月16日と1998年2月16日のペアの解析結果である.黒線で囲んだ中に,位相が大きく変化している箇所が見られる.他のペアについても,この範囲に注目して見ていくことにする.

Fig.1

Fig.1 SAR interferogram (1993/10/6-1998/2/16). Black box indicates the areas of Fig.2-6.

 九重火山周辺の地形をFig.2に示す.噴火地点は星生山の北東中腹の硫黄山付近である.なお,画像の範囲はFig.1の四角く囲まれた範囲であり,以降に示す干渉画像も同じ範囲を示している.

Fig.2

Fig.2 Topography around Kuju volcano.

 噴火を挟む長期間のペアにおいては,噴火地点及び噴火地点から西北西に約5km離れた八丁原付近の2地域で位相の変化が見られた(Fig.3(a),(b)).位相変化が地殻変動によるものとすると,衛星から遠ざかる向きに変動したことを示している.この変動は,これまでGPSや光波測距により捉えられている噴火地点周辺の変動と調和的である。

Fig.3

Fig.3 Enlarged SAR interferograms around Kuju volcano show long term deformation. (a): 1993/9/2-1997/1/16, (b): 1993/10/16-1998/2/16.

 噴火前については,噴火直前の短い期間のペアでは変動が見られない (Fig.4(a)) が,噴火前の比較的長い期間のペアでは,八丁原で衛星から遠ざかる向きの変動が検出された(Fig.4(b)).しかし,噴火地点では位相変化が見られず,噴火以前にはほとんど変動していなかったと考えられる.

Fig.4

Fig.4 Enlarged interferograms around Kuju volcano show pre-eruptive deformation. (a): 1995/6/24-1995/9/20, (b): 1993/10/16-1995/9/20.

 噴火を挟む比較的短い期間のペアでは,噴火地点及び八丁原で衛星から遠ざかる向きの変動が検出された(Fig.5).噴火地点での変動は,これまでのGPSや光波測距により捉えられている変動と調和的である.

Fig.5

Fig.5 Enlarged interferogram around Kuju volcano shows deformation in and right after the eruption. (1995/9/20-1996/3/14)

 噴火後の変動は,短期間のペアでは位相の変化は見られなかった(Fig.6(a))が,長期間のペアでは噴火地点と八丁原付近において衛星から遠ざかる向きの変動が検出された(Fig.6(b)).

Fig.6

Fig.6 Enlarged interferograms around Kuju volcano show post-eruptive deformation. (a): 1996/4/27-1996/7/24, (b): 1996/7/24-1998/2/16.

 噴火以前から噴火後にかけて,八丁原付近では継続的に衛星から遠ざかる向きの変動が見られる.継続的に変化していることから,この変動は九重火山の噴火と直接の関係はないと考えられる.この変動領域の中心付近に八丁原地熱発電所が存在することから,地熱発電所の操業による地盤沈下を示しているものと考えられる.

 また,噴火地点及び八丁原付近の変動は,変動の範囲が比較的狭いことから,変動の力源は浅いところにあると考えられる.

 今回の解析により得られた噴火地点と八丁原の変動について,Table1にまとめた.噴火地点では噴火以前に変動が見られなかったことから,噴火を挟む長期間のペアにおいては,噴火地点の変動が全て噴火以後に起こったものと仮定して変動速度を求めた.その他については,観測間に継続的に変動が起こっていたものとして変動速度を求めた.

Table 1 Deformation near the eruption site and Hacchobaru required from SAR interferograms.

Master Slave Deformation (cm) Deformation Rate (cm/y)
Eruption site Hacchobaru Eruption site Hacchobaru
Long term 1993/10/16 1998/2/24 18 11.8 7.6 2.7
1993/9/2 1997/1/16 15 6.2 11.8 1.8
Pre-eruptive 1993/10/16 1995/9/20
2.6 - 1.3
Co-eruptive 1995/9/20 1996/3/14 4.3
10.1 -
Post-eruptive 1996/7/24 1998/2/24 9 2 5.7 1.3


 Table1から,噴火地点での変動速度は噴火直後が最も大きく,時間が経過するにつれて減少していることがわかる.このことは,光波測量により観測された辺長変化と整合している.

 また,干渉SARにより得られた噴火地点での変動量は,光波測距の観測結果と比べるとかなり小さい値となった。これは,変動量の大きな領域が非常に小さいためと考えられる。干渉SARの解析においては,隣り合ういくつかのピクセルで平均化を行い,解析を進めるため,いくつかのピクセルの平均的な変動を示すことになる。そのため,局所的な変動は小さく見積もられることになる。

 噴火地点から西北西に約5km離れた八丁原付近の変動は,噴火地点と比べると変動速度がかなり小さいが,噴火前から噴火後にかけて継続的に変動している.噴火前と噴火後で変動速度の変化があったかどうかについては現在のデータだけでは判断が難しい.今後,他のペアについて解析を行う必要がある.

 本研究では,フルシーンで解析を行っていることから,解析範囲には,九重火山だけでなく周辺の他の火山も含まれている。そこで,阿蘇山や由布岳などの周辺の火山について,地殻変動に伴う位相変化があるかどうか確認したところ,これらの火山においては明瞭な位相変化は検出されなかった.したがって,少なくとも1993年9月から1998年2月の間には顕著な地殻変動は起こっていなかったと考えられる.

5.まとめ
 JERS-1の干渉SAR により,九重火山の火山活動に伴う地殻変動を捉えた.噴火以前には,噴火地点での変動は見られなかった.噴火地点の変動速度は,噴火直後が最も大きく,時間の経過と共に減少している.八丁原付近の変動は噴火前から継続しており,八丁原地熱発電所の稼動による地盤沈下を示しているものと考えられる.また,噴火地点及び八丁原付近の変動は,変動の範囲が比較的狭いことから,変動の力源は浅いと考えられる.阿蘇山や由布岳などの周辺の火山については,顕著な地殻変動は発生していなかったと考えられる.

Reference

京都大学防災研究所(1996), 九重火山の火山活動について(1995年10月〜1996年1月), 火山噴火予知連会報, 64, 29-42.
島田政信ほか(1997), 合成開口レーダ(SAR)干渉解析,平成7年九重山噴火に関する緊急研究 成果報告書, 41-72.
地質調査所(2000), 九重火山の山体変動観測(1999年10月から2000年1月), 火山噴火予知連会報, 76, 85-87.
冨山信弘ほか(2000), InSARによる水蒸気爆発に伴う地形変化抽出の試み:JERS-1データを用いた1995年10月星生山噴火の解析例, Workshop「InSARとその応用」論文集, d3.