JERS-1およびERS-1/2干渉SARによるTower炭坑(オーストラリアNSW州)での地盤沈下検出

Detection of Ground Subsidence due to Coal Mining in Tower Colliery, New South Wales, Australia, by Interferometric Processing of SAR Data Acquired by JERS-1 and ERS-1/2

大村 誠(高知女子大学),葛 林林・Chris Rizos(ニュー サウス ウェールズ大学),小林茂樹(九州東海大学)

Makoto OMURA(1), Linlin GE(2), Chris RIZOS(2) and Shigeki KOBAYASHI(3)
1) Kochi Women’s University, Kochi 780-8515, Japan E-mail: omura@cc.kochi-wu.ac.jp
2) School of Surveying & Spatial Information Systems, University of New South Wales, Sydney NSW 2052, Australia
3) School of Engineering, Kyushu Tokai University, Kumamoto 862-8652, Japan


Abstract:Interferometric processing of SAR data can detect ground subsidence with high ground resolution in an area. However, repeat-pass Interferometric SAR (InSAR) cannot provide data with high temporal resolution. So, integration of InSAR and continuous GPS is very effective to monitor the ground subsidence. We have started a project to monitor ground subsidence due to coal mining in Tower Colliery, New South Wales, Australia. The project is important for the safety of underground mining and engineering structures both on the surface and underground (highways, bridges, abandoned old underground mines, and so on). This paper shows preliminary results of InSAR for the area. Data were acquired by ERS-1/2 SAR (C-band) and JERS-1 SAR (L-band). Repeat-pass InSAR by using JERS-1 L-band SAR has provided both Digital Elevation Model (DEM) and differential interferogram. Furthermore, InSAR processing of ERS-1/2 SAR tandem data also generated DEM. Some characteristics in both L-band and C-band InSAR were also pointed out.

This study was carried out when M. OMURA visited the University of New South Wales (UNSW), Sydney, Australia as a Visiting Professor and he is grateful to UNSW.

1.はじめに
 オーストラリア各地で操業している炭坑の周辺ではしばしば地盤沈下が起こっており,安全かつ効率的な採掘作業および周辺構造物の被害防止のための基礎的な情報として,地盤沈下の状況を面的かつ時間的に密に監視する必要がある。通常行われる水準測量・光波測量・GPSなどの測量は,測点のある部分しかデータを取得できず,多数の測点での測定には多くの時間・労力・経費がかかる。一方,高い空間分解能で面的に地盤変動を観測する手段としては,干渉SAR(InSAR)が優れている。しかし,衛星搭載SARでは,観測に時間的な制約があり,連続的な観測ができない。そこで,地盤沈下を面的に観測できる干渉SARと時間分解能が高く3次元での変動を観測できるGPS連続観測とを組み合わせて炭坑地域での地盤沈下を観測する研究が行われている[1]。本研究では,衛星(JERS-1,ERS-1/2)搭載SARデータの干渉処理による,オーストラリア,ニュー サウス ウェールズ(NSW)州Tower炭坑(Fig. 1)での地盤沈下観測について,これまでの経過を述べる。また,LバンドのJERS-1 SARとCバンドのERS-1/2 SARによる結果の比較も行い,その特徴をまとめた。

Fig.1

Fig. 1. Location of Tower Colliery, New South Wales, Australia.

Fig.2

Fig. 2. ERS SAR Amplitude image.

2.Tower炭坑の概要
Tower炭坑は,シドニーの南西約60kmに位置する(Fig. 1 および 2)。ここでは,深度約450mの地下坑道で石炭の採掘が大規模に行われている。炭坑の上は緩やかな丘陵地で主に草原(放牧地)となっており,切り立つ岸をもつ幅60〜100mの谷(深さ70mに達する場所もある)が所々にある。炭坑の操業にともなって地盤沈下が起こり,人家に被害が出ており,さらに橋などの構造物や河川への影響も懸念され,この地域(30km×30km程度)での地盤沈下を面的かつ連続的に監視することが必要となっている。坑道の掘削に伴い約20〜30cmに達する地盤変動(水平・上下)が観測されたこともある[2]。この炭坑を経営するBHP社は,この地域に測量点を設置し,主として光波測量・GPS測量によって地盤変動を観測している。しかし,測点数が限られており,地盤沈下の全体像をとらえるには至っていない。この炭坑付近の地形は緩やかで,短い草に覆われている部分が多いため,LバンドSARはもとより,CバンドSARでも干渉性がよいことが期待される。また,InSAR処理の際の基準点として,この地域の6カ所(主に三角点の近傍)にアルミパネル製のコーナーリフレクタ(一辺の長さ約1.2m)を設置した[1](Fig. 3)。

Fig.3

Fig.3. Picture of the Appin radar reflector site. The grass covers the surface of moderate terrain.

3.データおよび干渉SAR処理
ERS-1/2 SARデータ(402-4293,173-4293ほか:タンデムデータを含む20シーン以上のSLC [Single Look Complex],期間:1997年以後)はACRES(Australian Centre for Remote Sensing)から,また,JERS-1 SARデータ(D16-358,13シーンのレベル0データ,期間:1993年〜1996年)はRESTECから一般配布されたものである。干渉処理はEV-InSAR/EarthView(Atlantis社)で行った。なお,JERS-1 SARレベル0データからのSLC作成には,APP(Atlantis社)を使用した。この地域ではSAR画像の分解能程度に詳細なDEMはないため,SARデータの干渉処理によりDEMを作成し,3パス法を適用した。

4.干渉SAR処理の結果

4.1.干渉SAR処理によるDEM
Tower炭坑地域の丘陵地は短い草に覆われている部分が多い(Fig. 3)ので,CバンドSARでも干渉性が良いと期待されたが,実際にはデータ取得時に風が強いと干渉が困難になることが分かった。これは,草や灌木の葉が風で揺れ動くためであると推測される。一方,条件がよいときには良好な干渉縞が得られた。とくに,ERS-1/2タンデムペア(960526-960527)からは,DEM(Fig. 4)が作成できた。しかし,DEMの南部では干渉性が悪い。一方,LバンドのJERS-1 SARの干渉性は基線長1km程度以下,時間間隔88日以内であれば,干渉性には,ほぼ問題がなかった。JERS-1 SARデータ(931109-931223)からもDEM(Fig. 5)が作成された。広い範囲でDEMを作成できたが,データのノイズのためにアンラッピング(unwrapping)できない部分が,かなり残っている。

Fig.4

Fig. 4. Interferometric DEM by ERS-1/2 tandem data (960526-960527).

Fig.5

Fig. 5. Interferometric DEM by JERS-1 SAR data (960526-960527).

4.2.差分干渉SAR(3−pass法)
 地盤変動を検出するには,干渉図に含まれている地形縞を取り除いて変動縞を残す,差分干渉SAR処理を行う必要がある。Tower地域では,地形情報(DEM)も干渉SAR処理で作成する,3−pass法[3]を適用した。CバンドのERS 差分干渉SAR処理は960526-960107のペア(140日:Fig. 6)で,また,LバンドのJERS-1差分干渉SAR処理は950308-950604のペア(88日:Fig. 7)で行った。CバンドおよびLバンドとも差分干渉図は作成できたが,Cバンド(Fig. 6)では,Tower地域の一部で干渉性が低かったため,対象地域全体の干渉図は得られなかった。一方,Lバンド(Fig. 7)では干渉性が高く,対象地域全体の干渉図が得られた。地盤変動に関係するのではないかと思われるパターンも見られるが,ノイズが多く,今後の詳しい議論のためには適切なフィルタ操作などによってノイズの低減を行う必要がある。

Fig.6

Fig. 6. ERS C-band 3-pass D-InSAR result (960526-960107: 140 days). The image is mirrored.

Fig.7

Fig. 7. JERS-1 L-band 3-pass D-InSAR result (950308-950604: 88 days). The image is mirrored.

5. Cバンド とLバンドのSAR画像
 Tower地域を含むERS-2とJERS-1のSAR強度画像(Fig. 8)を見ると,Cバンド(波長:5.7cm)では波立つ海面でも顕著な後方散乱が起こっており,Lバンド(波長:23.5cm)での海面が鏡面反射を起こして暗いことと大きく異なっている。内陸の湖の湖面では,どちらのバンドでも後方散乱が弱く,暗くなっている。今回のERS SARデータの処理にあたって,これらの内陸湖の湖面が強度画像で白く見える場合には,Tower地域でのデータが干渉しないことがわかった。湖面が波立つような強い風が吹くと,Cバンドの波長と同じ程度の大きさを持った草や樹木の葉が風で不規則に動くため,干渉性が失われると考えられる。なお,今回の研究において正常にSLCが作成できたLバンドSARの強度画像では,内陸湖の湖面が白く見えることはなかった。このように,CバンドSARは地表被覆の影響を受けやすく,面的に一様な干渉性が必要な用途ではLバンドSARのほうが優れているというえる。しかし,逆にいえば,地表被覆変化の抽出を目的とする場合には,Cバンドが有効である可能性がある。

Fig.8

Fig. 8. SAR amplitude images from SAR data acquired by ERS-2 (C-band) and JERS-1 (L-band).

 なお,今回の研究で,JERS-1 SARレベル0データ(シグナルデータ)から作成されたSLCのうち,1993年8月〜1995年6月の期間の9シーンは良好であった。その例(Fig. 9)を見ると,画像左部分の中央寄りにある白い部分は小さい街であり,その中を走る道路が黒い線として識別できる。また,画像右部分には河川のパターンがはっきりと認められる。一方,1995年7月〜1996年1月の期間の4シーンは良好とは言えず,その例(Fig. 10)では,画像がアジマス方向(上下方向)に伸びていて,街の道路も河川のパターンも不明瞭になっている。これらのSLCは干渉しなかった。今のところ原因は特定できていないが,SLC作成時のパラメータ設定が不適切であった可能性がある。良好なSLCを作成するためには,多くの配慮とノウハウが必要とされる。

Fig.9

Fig. 9. Amplitude image of good SLC from JERS-1 SAR signal data (930813).

Fig.10

Fig. 10. Amplitude image of bad SLC from JERS-1 SAR signal data (950718).

6.まとめ
オーストラリア,ニュー サウス ウェールズ州のTower炭坑において,干渉SARとGPS連続観測を組み合わせ,地盤沈下を面的かつ連続的に観測する研究が開始された[1]。本研究では,ERS-1/2およびJERS-1衛星搭載のSARで取得されたデータの干渉処理による面的な地盤変動観測を試みた。

その結果,CバンドのERS-1/2でもLバンドのJERS-1 SARデータからでも,DEMを作成したり,地盤変動を示すと思われる干渉パターンを抽出したりすることができ,研究の実施可能性が確かめられた。

一方,CバンドのERS-1/2 SARを用いると,地表被覆や風の影響が大きく,干渉しにくい場合のあることがわかった。Tower炭坑での長期にわたる地盤変動をSAR干渉処理で観測するのであれば,JERS-1 SARのようなLバンドSARが有効であることが確認できた。今後は,InSAR処理手法の改良を行うとともに,InSARの結果と地上測量で得られたデータとの比較を行いたい。

【謝辞】
本研究は,ニュー サウス ウェールズ大学(UNSW, Sydney, Australia)に大村がVisiting Professorとして滞在中に行われたもので,ニュー サウス ウェールズ大学に感謝いたします。

ERS-1 およびERS-2データの所有権はESA (European Space Agency)に,また,JERS-1データの所有権は経済産業省(METI)および宇宙開発事業団(NASDA)にあります。

【参考文献】
[1] Ge, L., C. Rizos, M. Omura and S. Kobayashi (2001): Integrated Space Geodetic Techniques for Monitoring Ground Subsidence Due to Underground Mining, Proc. The 5th International Symposium on Satellite Navigation Technology & Applications (SatNav 2001), 24-27 July 2001, Canberra, Australia, CD-ROM, Paper No.19 (p.12).

[2] Hebblewhite B., A. Waddington and J. Wood (2000): Regional Horizontal Surface Displacements Due to Mining Beneath Severe Surface Topography, Proc. The 19th Int. Conf. on Ground Control in Mining, 8-10 Aug. 2000, Morgantown WV, USA, pp.149-157.
[3] Zebker, H. A., P. A. Rosen, R. M. Goldstein, A. Gabriel and C. L. Werner (1994): On the derivation of coseismic displacement fields using differential radar interferometry: The Landers earthquake, J. Geophys. Res., 99, 19617-19634.