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地震研究所談話会2005年6月

熱多孔質弾性体中における動的破壊過程

鈴木岳人・山下輝夫

ここで用いる熱多孔質弾性体とは、空隙を伴った固相の力学的弾性体(歪みと応力がフックの法則で関係付けられる媒質)で、その空隙中に流体を含み、また熱による応力の変化も取り入れたものである。このような媒質を仮定すると、例えば温度の上昇に伴って(流体の流れ出易さにもよるが)流体圧が上昇し、応力に変化を与える、という問題が考えられる。

ここでは、この熱多孔質弾性体中を亀裂が一定速度で伝播すると仮定する。滑りが起こると摩擦熱が発生し、上で述べたように流体圧の上昇も起こる。重要なポイントとして、亀裂面に対する法線応力(面を垂直に押す力)が流体圧に依存し、その結果滑り摩擦力(=滑り摩擦係数×法線応力)も流体圧に依存するため、応力降下量(=外部剪断応力−滑り摩擦力)が時空間変化する、ということが挙げられる(外部剪断応力は一定とみなす)。これは応力降下量が一定という古典的なモデルとは大きく異なる。

ここで考える問題のもう一つの重要な仮定は、亀裂の成長をある長さで強制的に止める、ということである。その結果最終的には破壊過程は終わり、面上の各点で滑り時間や滑り量等が定まるが、それを面上で平均する。応力降下量が一定であればこれらの量と亀裂長とは比例するが、ここで考える問題ではそうではない。図1には亀裂長と平均滑り時間の関係を示す。小さい亀裂では流体圧の変化が小さく古典的なモデルに近い。一方、大きい亀裂では流体圧が至る所で取り得る最大の値に近付き、やはり応力降下量が一定のモデルに近付く。そして両者の間に線形な関係とは異なった領域が存在する。なお、ここでは流体の流出が無視できるほど小さい状態を考えているが、ここにその流出の効果が加わると更に多様な結果が得られる。

このような問題を考えることによって小さな地震と大きな地震の違いについて議論できる。

図1の説明

亀裂長と平均滑り時間の関係。(b)は(a)の原点付近(黒点線で囲った範囲)を拡大したもの。小さい亀裂及び大きい亀裂は古典的なモデル(細い直線)に近く、その間に最大で約2倍平均滑り時間が長くなる領域があるのが分かる。3本のグラフは仮定した熱源幅 の3つの値に相当する。