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地震研究所談話会 第842回 (2006年9月)

応力テンソル逆解析によって推定した千島弧・東北弧会合部付近の
太平洋スラブ内応力場:十勝スラブ断裂の可能性

平田直, Cenka Christva, 加藤愛太郎

北海道の下の太平洋プレート(スラブ)の傾斜角度は、北東側で約50度、南西側では約40度であり、スラブに段差(傾斜角の急変帯)のある可能性が指摘されている。さらに、北海道十勝地方・太平洋沿岸の下のスラブ内には、スラブを断ち切るような鉛直分布に近い集中した地震活動があり、「十勝沖スラブ断裂帯」の存在が提唱されている(Katsumata et al., 2003).このようなスラブ断裂帯が実際に存在するとすれば、スラブ内応力の空間分布に大きな変化があることが予想される。

本研究では、気象庁一元化データ(震源、発震機構解)と東北・北海道地域のデータ(Kosuga et al., 1996)を、応力テンソル逆解析法(Gephart and Forsyth, 1984) で解析して、スラブ内の応力テンソルの3つの主軸の方向を推定した。この解析法は、ある広がりをもつ領域内で応力が一様(広域応力一定)であると仮定し、その応力によって、色々な方向を持つ複数の面上で滑りが発生すると考えたとき、実際に観測される複数の発震機構解をもっともよく説明できる広域応力を求める方法である。

解析の結果、東北地方と、北海道の太平洋スラブ内のほとんどの領域で、やや深発地震面の上面では、スラブの傾斜方向に平行な圧縮場、下面では傾斜方向に張力場が卓越することが分かった。これは、従来の研究結果と調和的である。一方、北海道十勝地方の下では、北北東−南南西方向に張力軸を持つ応力が推定され、この応力場に対応する断層面は北傾斜の高角の正断層となった(図1)。この結果は、十勝地域太平洋スラブ断裂仮説を支持し、断裂は北海道の下のスラブ全体に広がっている可能性を示している(図2)。実際にプレートに断裂があると、沈み込帯のプレート境界での滑りと結合の状態に影響があり、地震アスペリティーの実体を考える上で重要である。

図1:十勝地方を含む領域の応力。下半球に投影した。スラブの上面を青の線、応力に対応するスラブ断裂面を黒の太線で示す。σ1(■)は最大圧縮の方向、σ3(●)は最少圧縮(張力)の方向、△は、スラブの面に垂直な方向を示す。

図2:北海道・東北地域を北東上空からみたやや深発地震面の形状と、推定された十勝スラブ断裂の位置。領域H9に、正断層に対応する応力が推定され、対応する断層面を黒の太線で示した。

ニュースレター2006年10月号

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