2.2.2 精密な重力観測に基づく研究

(1) マグマ・地下水等の流体移動を,重力変化から検知する観測研究

地殻内流体が地震・火山活動にどのように関わっているかを調査するため,重力チームでは絶対重力測定と相対測定を同時に行うハイブリッド測定を,三宅島火山で 2010 年に実施した.その結果を 2006 年の測定結果と比較すると,火口を中心として,数十マイクロガルに及ぶ同心円状の重力増加が認められた.この結果は,地下水が回復してきているというモデルで定量的に説明できた.この結果は,同火山からの$\rm {SO_2}$の放出量が時間と共に逓減していることと整合している.

また,2008 年から現在まで,桜島火山の噴火を監視するために,桜島昭和火口の南 2.2km の有村において,絶対重力連続観測を継続している (京都大学との共同研究).同地では,土壌水分観測も同時に実施し,地下水物理学モデルによって,降雨・地下水変動等の環境起源の重力変動を除去している.得られた重力変化から,マグマ頭位の変動を推定したところ,頭位低下期が爆発のない静穏期 (vice versa) に良く対応することが判明した.

2011年1月から2012年3月まで新燃岳の周辺でハイブリッド測定を実施し,24回中20回の噴火に対して,5-6時間前に開始する重力変化を検出した.また,長期的な重力変化及び地殻変動がマグマ溜まりの膨張でよく説明できることを示した(東北大学・北海道大学との共同研究).

(2) 超伝導重力計による精密重力観測

超伝導重力計は,きわめて高い感度と安定性を有する相対重力計である.この装置を用いて,日本国内3ヶ所において重力の時間変化の連続観測を行っている.

(2-1) 長野県松代および岐阜県神岡における観測

これら2つの観測点はトンネル内の安定した環境にあり,高品質データが生産されている.それを生かして,地震に伴う重力変化などの研究を行っている.

地下の観測点には特有の,地下水や積雪の影響があるが,それを調べることにより,測地学的手法による水文学への応用(hydrogeodesy)という新しい境界分野を開拓しようとしている.

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9.0)の後,重力のトレンドが明らかに変化している(図3).これらの観測点は震源から比較的遠いが,地震の余効変動がとらえられている可能性があり,慎重に解析をすすめている.

(2-2) 沖縄県石垣島における観測

2013年に,沖縄県石垣島に超伝導重力計を設置してあらたに重力観測を開始した(詳細は次節(3)を参照のこと).

(2-3) 超伝導重力計の寄生振動の研究

超伝導重力計には,周期 100 秒前後に特有の寄生振動が存在する.この寄生振動は装置が開発されたときから知られており,何十年にもわたって正確な原因がわからないままであった.松代の重力計のデータを詳細に調べることにより,この寄生振動が,浮上している球の水平面内の回転振動であるらしいことをつきとめた.

(3) 海洋プレートの沈み込みや巨大地震によって生じる重力変動の観測研究

プレート沈み込み帯における地震時・地震後・地震間の中長期的な重力の時空間変化を明らかにするため,絶対重力計と相対重力計を組み合わせたハイブリッド重力測定を,太平洋岸の6地域(北海道東部,えりも,三陸,東海,四国南部,日向灘)で年 約1 回の頻度で繰り返してきた(図4).

2003 年十勝沖地震 (M8.0)の際には, 震源域を取り囲む3箇所 (えりも, 帯広, 厚岸) で絶対重力観測を実施し,世界で初めて,絶対重力計による海溝沿い巨大地震に伴う重力変化をとらえた.GPS データに基づく断層モデルに大久保の重力変化理論を適用して重力変化を計算したところ,3 地点の観測値をほぼ再現する結果が得られた.

東北地方においては,福島北部〜北海道南部までの27点で精密相対重力測定を年1回の頻度で繰り返した.このネットワークにより2011年東北地方太平洋沖地震の地震時重力変化を検出した.重力変化は最大で約100マイクロガルで,震源域近傍の牡鹿半島〜仙台に局在していた.この変化はほぼ上下変動だけで説明できる.しかし,震源から離れた東北中央部では,観測された変化は,球体地球モデルに基づくディスロケーション理論から計算される地下の密度変化によって,ほとんど説明される.これは地下の膨張・圧縮の効果が地震時の重力変化を解釈する際に無視できないことを地上観測により実証した初めての例となった.地震後2年間の重力の余効変動も検出することができた.震源域近傍の牡鹿半島〜仙台では余効変動の振幅は,地震時変動の30〜40%と小さくなっているものの,北海道南西部〜東北地方にかけて見られるように,20マイクロガルを超える陸上変動領域は,地震時変動のそれよりも広がっている(図5).これは,長波長の変形が地震後の変動ではより卓越することを意味する.この変化の原因としては,アフタースリップや,粘弾性変形が考えられる.アフタースリップと粘弾性緩和効果の分離や,深部の粘性構造の推定を促進するため,2012年には震源域からの距離がなるべく遠い日本海側にも観測網を拡大した.

御前崎では, 国土地理院との共同研究として 1997 年以来毎年 3-4 回の観測を実施しており, 重力変化の長期トレンドが,同地域の長期的な沈降速度から期待される重力変化よりも,有意に小さい変動しか生じていない, という事実が明らかになっている.一方,2004年から2009年にかけての中期的な重力変化については,2000年に開始した東海地方のスロースリップイベント(SSE)に伴う地殻流体の移動により定量的に解釈できる可能性を示した.

SSEに伴う間隙流体の変動を明らかにするため,2011年度から沖縄八重山地方で,絶対重力計と超電動重力計を組み合わせた連続観測を開始した.その結果,SSE中の定常的な重力変化の傾向から,観測誤差(1マイクロガル程度)を超える異常な重力変化が生じることを見出した.西表島では観測開始後,2回のSSE(2012年5月及び12月末)が発生したが,二度の期間中とも4〜8マイクロガルの重力減少が見られる(図6).また,宮崎においても,豊後水道のSSE発生時(2009年7月−2010年10月)に,10マイクロガル程度の重力減少を検出した.SSEが終了すると,異常重力値は解消され,蓄積しないという特徴も認められる(図6).これらの重力変動は,Tanaka et al. (2010)が東海地方で見出した現象と同じであり,スロースリップ時に高圧間隙水の拡散がおきている可能性を示唆する結果である.