2.2.4 観測や室内実験と理論を結びつける研究

(1) 地球のグローバルな変形・重力変動の理論の高度化

球対称な粘弾性体地球モデルについて,地震時の変形および地震後の緩和過程についての理論的な定式化を行った.これまでの研究で用いられてきた圧縮性や自己重力の近似を用いずに,変位及び重力場を計算する手法を完成させた.この手法を用いて,例えば横ずれ断層の場合は,M8以上の大地震によって生じるジオイドと重力の変化を GRACE 衛星から検出できることを示した.球対称弾性地球における応力場の計算手法の開発も開始した.点震源を用いて横ずれ断層の場合で半無限モデルと球モデルを比較したところ, 垂直応力の差が震源角距離4度で約10%に及ぶことが分かった.

3次元的な粘性の不均質を取り入れた球体モデルを用いた,粘弾性緩和の計算手法の開発を進めている. この手法は,上の手法と同様に,圧縮性と自己重力の影響を自然に考慮することができる.2011年には表面荷重による変形を,2013年には地球内部のくいちがいによる長波長の変形の計算手法を完成させた.これまでマックスウェルのレオロジーモデルしか考慮できなかったものを,バーガースの場合に拡張した.開発した手法を2004年スマトラ島沖地震に適用し,GRACE重力データが,短期的には余効すべりと粘弾性緩和の重ね合わせで,長期的には主に粘弾性によって説明できることが明らかになった(図10).

過去に記録された日本海溝と南海トラフのM6以上の歴史地震の発生時期と潮汐の8.85年,18.61年周期との間にそれぞれ有意な相関があり,過去の地殻変動データの一部もその発生に同期して周期的に生じていることを発見した.

(2) 室内実験にみられる岩石摩擦の特徴から予測される地震発生の準備過程

摩擦に対する速度の直接効果と履歴効果を独立に評価する新たな手法を用いて,速度・状態依存摩擦則を改訂した.様々な種類の実験の結果を同一のパラメタ値をで説明でき,また,音波透過率でモニタした固着度の変化もよく予測した(図11).海洋研究開発機構と共同で,摩擦則の臨界滑り距離が階層的に分布するモデルでサイクルシミュレーションを行い,大地震が,大きな準静的核を経る場合と,小地震からの動的連鎖でおこる場合の割合が,階層間のスケールギャップで支配されることを示した(図12).