2.6.2 各火山における研究成果

(1) 浅間山

(1-1) 2009年噴火噴出物分析

2009 年2 月2 日の小規模噴火では,噴火直後に堆積物調査を行い,噴出物の分布,降灰量,火山灰の粒度と構成物の特徴を明らかにした(図1).これら地質学的な研究に加えて,人工衛星からの噴煙の観測結果も合わせて,噴火の推移や規模について評価し,浅間山における過去の代表的な噴火との比較も行った.また,ガラス質火山灰の形態や化学分析にもとづき,2009年噴火の際には,2004年噴火以前のマグマの他にそれらとは異なるデイサイト質のメルト組成をもつマグマが存在し,両マグマが関与して噴火が起きたことを明らかにした.

(1-2) 長周期パルス(VLP)と火山ガス噴出

浅間山の火山ガス観測は,2009年より東京大学大学院理学系研究科,産業技術総合研究所地質調査総合センターと共同で進めている.山頂部における稠密広帯域地震観測データに基づいて,2004年噴火以前から発生する長周期パルス(VLP)が,火口北側の浅部に位置する傾斜したクラックと管への急激なガス流入と緩慢な放出により発生していることを明らかにした.火山ガス観測データとVLP活動を比較することにより,地震活動と火山ガス放出に関する定量的な関係を求め,その関係を用いて2009年微噴火前後の脱ガス機構が変化した可能性を明らかにした.

(1-3) 各種観測による火道浅部構造の解明

2008年秋から浅間山東麓に,2009年秋からは北麓にリアルタイムの宇宙線ミューオン観測点を設置し観測を開始した結果,浅間山の火口底浅部の密度分布をとらえることに成功した.この密度分布から,VLPの震源付近から火口底直下までは低密度領域が拡がっていることが明らかになり,VLPの緩慢なガス放出が空隙率の大きいと推定される低密度領域の存在に起因していることが判明した.また,火口直下の震源分布は火口中心より北側にずれておりVLPの直下に分布している.これら各種観測データの解析結果より,現在の浅間山の活動的な火道は火口内の北側に位置していることが明らかになった.

(1-4) 空振観測による火口活動の把握

2008年8月より,火口東観測点において空振の定常観測を開始した.単独観測点の空振計と併設の地震計を用いて,空振を風ノイズと区別して検出する手法を開発し,2009年2月2日の微噴火と,それに続く微小な火口活動の検出・把握に役立てた(図2).2009年6月には,フィレンツェ大学との共同研究として,山腹に空振アレイを設置し,火口西にも空振計を追加して,計測を続けている.微弱な空振活動は,ガスの通過によって発生していると考えられている長周期パルス(1-2 参照)に付随して,現在も頻発している.

(1-5) 浅間山山頂部の電磁気探査

浅間山山頂域浅部および火道の構造調査を目的として,2012年9月に山頂域にて,AMT法・MT法比抵抗構造探査を実施した.各点数100m間隔で配置し,AMT法27点,MT法9点で測定をおこなった.見かけ比抵抗分布より,深さ数10mのごく浅部では,火口東側に低比抵抗の領域が広がっていることがわかり,このことは$\rm {CO_2}$フラックスの卓越した地域と調和的であることがわかった.また,深さ数100 m~1 km程度ではその低比抵抗領域が西側に移っており,このことは火道が西下方方向から火口に到達している様子を示唆している.

(1-6) マグマ供給系の解明

浅間山における地震活動と活動期における地殻変動観測から,活動期には山頂西側数 kmの海面下1 km付近にまで板状マグマ(ダイク)が貫入することが明らかになった.地下構造がそのマグマ輸送経路に与える影響を評価するために,人工地震および雑微動を用いた地下構造探査を行った.その結果,現在の活動にともなう西側へのダイク貫入は,過去にも繰り返し発生し地震波高速度領域を作ってきたこと,浅部では過去の活動にともない固化したマグマによって現在のマグマ輸送経路が規定されていること,山頂西側約8 kmの海面下5-10 km付近にマグマ溜りが存在することが明らかになった(図3).

(2) 伊豆大島

(2-1) 地震・地殻変動と広域応力場

水平方向の広域応力場が卓越する場にある伊豆大島のような火山では,山腹割れ目噴火やダイク貫入がしばしば発生する.1989年の噴火においても,大規模なダイク貫入が起こり,山腹割れ目噴火を引き起こした.山頂噴火と山腹割れ目噴火の噴火様式の差は何が作るのかの解明を目指して研究を進めるため,同様の地球物理学的環境にある三宅島,伊豆東部におけるダイク貫入の研究も進めている.地震と地殻変動の同時解析からこれらの地域でのダイク貫入現象について,多くの知見が得られた.

(2-2) 地震・地殻変動によるマグマ蓄積過程

伊豆大島では前回の噴火(1986年11月~1990年10月)以降,1990年代半ばまで山体が収縮していたが,1990年代後半から山体膨張に転じ,その後長期的には山体膨張が継続している.2003年から地震観測網の高度化及びGPS観測網の構築を行い,地震活動及び地殻変動の時間変化が詳細に観測できるようになった.その結果,以下のような特徴が明らかになった.1)長期的にはマグマ蓄積が進み,山体膨張が進んでいるが,その中に1~3年間隔で収縮と膨張を繰り返している.2)マグマ蓄積の圧力源は,常に同じ場所と見なせ,伊豆大島カルデラ北部地下約5kmの場所であると推定される.このような間欠的な山体膨張・収縮の原因,噴火へ至る過程の解明が課題である.

(2-3) 伊豆大島における比抵抗構造と電磁気観測

伊豆大島では,比抵抗ならびに全磁力等の電磁気連続観測を実施している.比抵抗連続観測は人工電流源を用いたCSEM法に基づくもので,火口の南および北東に2つの電流送信局と,火口周辺に5点の測定点を設置している.その結果,浅部から深部に向かって,高比抵抗-低比抵抗-極低比抵抗のおおむね三層構造からなることがわかった.また,連続観測により,帯水層上面の昇降によるものと考えられる年周変動が確認された.また,島内9点における全磁力連続観測からはここ数年,火口近傍の帯磁傾向の鈍化がみられる.なお,この他にも直流法比抵抗測定,地磁気3成分,ならびに,長基線電場の連続測定も引き続きおこなっている.

(2-4) マグマ供給系の解明

1999年と2009年に伊豆大島とその周辺海域で,人工地震による構造探査を行った.それにより,伊豆大島直下の深さ約10kmまでの地震波速度構造が明らかにした.伊豆大島では上部地殻を形成するP波速度5.5~6.0km/sの層と下部地殻の6.8km/sの境界が深さ約7kmにあり,伊豆大島から離れると深さ約9kmまで徐々に深くなる.また,山体膨張・収縮の圧力源の位置は上部地殻内にあり,沿岸部で発生する地震もこの層で発生することが明らかになった.伊豆大島の浅部マグマ溜りは,この上部地殻の層にあり,下部地殻またはそれより深い場所からのマグマ供給により膨張と収縮を繰り返していることが明らかになった.

(3) 富士山

(3-1) 地質・岩石学的データに基づく火山発達史

2001-2003 年度の深部掘削で得られた試料の岩石学的検討を進め,先小御岳火山,小御岳火山,富士火山はそれぞれ独自の化学組成上の特徴をもち,安山岩組成の小御岳から段階的に富士の玄武岩組成の火山へと変化してきたことを明らかにした.一方,古期後半のスコリア層のメルト包有物を主体とする解析から,富士山の浅部には安山岩質の小マグマ溜りが存在(深さ約4-6㎞と推定される)し,深部の主玄武岩質マグマ溜りから上昇したマグマとこの安山岩質マグマとが混合することによって,富士山の噴出物が生じているとするモデルを提案した(図4).さらに,新期のスコリア層の解析も進め,新期では安山岩質マグマ溜り内のマグマがやや分化し,よりSiO<sub>2</sub>に富む組成となっている可能性を指摘した.宝永の噴火で想定されているデイサイト質小マグマ溜りは,このような浅部マグマ溜り内のマグマがより分化し高いSiO<sub>2</sub>量となったものと解釈できる.また,最後の山頂噴火である湯船第二スコリアの噴出メカニズムを微斑晶の解析に基づいて行った.

(3-2) 富士山深部のマグマ供給系

富士山においては,過去に発生した低周波地震の震源分布や岩石学的な考察から地下15-20 km付近にマグマ溜りがあると考えられていたが,地震学的に確かな証拠が存在しなかった.そこで,我々はレシーバー関数解析を行い,富士山周辺の数10 kmまでの深さの地下構造を明らかにした.その結果,深さ16-25 kmおよび40-50 kmにマグマ溜りに相当すると考えられる低速度領域を見出した.低周波地震の発生領域は浅部マグマ領域の上端に位置するとかんがえられる.

(4) 霧島山

(4-1) 2011年噴火の噴出物分析とマグマ供給系

2011年1月の準プリニー式噴火に先立つ小規模噴火においてマグマ物質の出現を検知することに成功した.噴火発生後は,地質・岩石学データ,上空から観察した火口状況,地球物理データを融合することで,マグマ溜りから地表に至る広範な現象を説明する統合的モデルの構築を試みた.すなわち,噴出量,噴煙高度と噴出率を推定し(図5),ブルカノ式噴火の噴出条件を推定した.岩石学的研究では,斑晶メルト包有物の揮発性成分測定や相平衡実験を導入することで,浅部低温マグマの深度と,深部からの高温マグマ注入プロセスに関する描像を得た(図6).これらの研究は地殻変動をはじめとする地球物理観測データの解釈にも示唆を与えた.

(4-2) 電磁気構造探査による霧島山の比抵抗構造

新燃岳および霧島火山群下の広域比抵抗構造を探査する目的で,2010年7~8月および2011年3月~4月に,計28点においてMT法測定を実施した.3次元構造解析の結果, 霧島火山群の北東側,深さ10kmあるいはそれ以深に低比抵抗領域が検出された.この低比抵抗体は,2011年新燃岳噴火に伴い地殻変動観測その他から検出された膨張収縮源に相当すると考えられる.また,そこから東上向きに霧島火山群中心部に向かって低比抵抗領域が伸びており,ここから今回の噴火に関連する火道が伸びていると考えられる.

(4-3) 地殻変動観測とマグマ蓄積過程

2011年1月26日に爆発的噴火を行った霧島新燃岳の噴火前後の地殻変動を稠密なGPS観測網で捉え,噴火前の山体膨張時の圧力源,噴火時の減圧源,噴火後の再膨張時の圧力源の位置を,誤差も含めて推定した.この噴火に関与するマグマ溜りは新燃岳北西約8km,深さ約8kmで,2009年12月からほぼ同じ蓄積率でマグマが蓄積され,噴火時に蓄積量の約65%の$\rm {13\times 10^6m^3}$のマグマが噴出し,噴火後もほぼ同じ蓄積率で再蓄積し,噴火前の90%まで蓄積した時に再蓄積が終わった.このようなマグマ蓄積の履歴が観測より明らかになった.

(4-4) 火口近傍多項目観測による噴火過程の解明

霧島山新燃岳の火口近傍で観測された広帯域地震計,傾斜計により,2011年噴火活動初期の準プリニー式噴火,マグマ湧出期,ブルカノ式噴火という異なる火山活動に伴う火道浅部に起因する傾斜変動を捉え,これらの火山活動に関連する火道浅部のプロセスに関する知見を得た.ブルカノ式噴火では,噴火に先行する傾斜の時系列の特徴を明らかにする事を通じて,噴火に先行する火道浅部でのプロセスを推定した(図7).最初に発生した3つの準プリニー式噴火では,地震・空振の振幅を他の観測データと比較することにより,1番目と3番目の噴火は浅部での急激な減圧より,2番目の噴火は火道のより深部に起因するトリガー機構によって引き起こされたという知見が得られた.

(5) 三宅島

地震研究所では,2000年噴火時の地震観測データを再解析し,以下の結果を得た.(1)2000年8月13日から8月18日にかけて発生した,卓越周期が1-2秒の地震波を解析し,火道内脱ガスプロセスの一端を明らかにした.(2)山頂陥没直前の地震波形データに見られた鋭いパルスを伴う卓越周期5-10秒のVLPを解析し,火道上部に蓄積されたマグマ流出がきっかけとなり,さらに大規模なマグマ流出が起きたというモデルを提唱した.(3)山頂カルデラ形成前の周期20秒のVLP波形を解析した結果,カルデラ形成期の陥没現象と同様の火道内崩落が小さなスケールで進行していたことが示された.