2.10.2 2011年東北地方太平洋沖地震

(1) 地震発生のシミュレーション

東北地方太平洋沖地震の発生を理解するために地震発生サイクルの数値シミュレーションを行った.宮城県沖の海溝近くにプレート間固着が大きい領域を仮定することにより,次の観測事実が説明可能であることを示した.(1) 数百年間隔での巨大地震が繰り返し発生すること.(2) プレート境界浅部での大きなすべりを含む,測地,津波データから推定される巨大地震のすべり量分布.(3)M7 級地震が繰り返し発生していたプレート境界深部ですべり遅れが蓄積され,プレート間固着が大きかったこと.海溝近くで強度が大きい領域が存在する原因については,臨界圧での間隙の崩壊を含む透水率の封圧依存性の実験結果を利用して,有効法線応力の深さ分布で説明するモデルを提案した.シミュレーション結果によると,1978 年の宮城県沖地震などのM7 級地震を引き起こすアスペリティでは巨大地震の直後から固着が開始し,周囲で起こる余効すべりにより次のM7 級地震の発生が早まることが予測される.しかし,GPS データの解析によるとM7 級地震のアスペリティでは固着が回復していないという報告があり,また,M7級の宮城県沖地震はまだ発生していない.室内実験で示されている物理化学プロセスに固有のカットオフタイムを導入し,数値シミュレーションにより固着開始の遅れについて検討した.

(2) 余効変動

2011年東北地方太平洋沖地震後にGPSで観測された余効変動を用い,プレート境界面上における地震後の余効すべりの時空間発展を推定した.推定された余効すべりは地震時のすべり域の深部延長に集中しており,発生場所の顕著な時間変化はなかった(図1 (a, b)).推定された余効すべりとそれによるプレート境界面上における剪断応力の時間発展から,余効すべり域において,定常摩擦応力のすべり速度依存性を表すパラメータはすべり速度に依存し,高速で速度強化の程度が減少するような性質を持つことが分かった(図1( c)).

(3) 釜石沖繰り返し地震のシミュレーション

内田によると,釜石沖のプレート境界では,2011年東北地方太平洋沖地が発生する前はM4.9程度の地震が比較的規則的に発生していたが,東北沖地震後,発生間隔が短くなり,また,マグニチュードが一時的に大きくなってM6クラスとM5.5クラスの地震も発生した.このような推移を検討するために,数値シミュレーションを行った.Chen and Lapusta (2009)のモデルと同様に,東北沖地震前はa-b<0であるパッチの中央部だけで高速滑りが生ずるようにパラメータを設定し,Fukuda et al. (2013)がGPSデータから求めた余効滑りを与えた.その結果,マグニチュードの推移などをかなりよく再現できるモデルが得られた.