2.10.4 内陸地震

内陸地震の発生は,列島域を取り巻くプレート運動に伴って生ずる歪・応力の島弧地殻内への蓄積,特定断層への応力集中,破壊という一連のプロセスから成る. その物理メカニズムを理解するには,島弧内の不均質構造を解明するとともに,プレート境界から加わる歪・応力が,島弧内部のよりスケールの小さな不均質構造や内部変形によって局在化していく過程を明らかにしなければならない.本センターは,地震予知研究センターや観測開発基盤センターと共に,内陸地震発生域における不均質構造と応力の蓄積・集中過程解明のための観測研究を推進してきた.本センターが地震予知研究センターや観測開発基盤センターとともに実施してきた観測研究の多くは,共同利用・共同研究拠点としての地震研究所の特性を活かし,全国の大学・関係諸機関との共同研究として実施されたものである.

2004年から2008年は跡津川断層を中心とする領域で,2009年から2013年は濃尾地震断層周辺で総合的地球物理観測をおこなってきた.また,突発的に発生し被害をもたらす地震に関しても,その原因を解明すべく観測研究をおこなってきた.それらによって得られた成果は,地震予知研究センターの章で示し,ここではそれら観測の運営についての説明を行う.

(1) 跡津川断層域を中心とする合同自然地震観測研究

新潟から神戸にかけての歪速度の大きな領域である,新潟-神戸歪集中帯の中に位置する跡津川断層周辺において2004年から2008年まで地球物理的な大規模共同総合観測を行った.参加機関は北海道大学,弘前大学,東北大学,千葉大学,東京大学,名古屋大学,京都大学,金沢大学,福井工業高等専門学校,九州大学,鹿児島大学である.この地震観測では,跡津川断層を含む約100㎞四方の地域において73点の自然地震観測を実施した.また,電磁気観測やGPS観測もおこなった.本センターは, この合同観測に関して中心となり運営や取りまとめを行った.(成果に関しては,地震予知研究センターの章で述べる.)

(2) 濃尾地震断層域合同地震観測研究

東京大学地震研究所は,全国の大学・関係機関(北海道大学,弘前大学,東北大学,名古屋大学,京都大学防災研究所,九州大学,鹿児島大学等)と共同で,濃尾地震断層を取り囲む地域において,大規模な地球物理学的総合観測を実施した.この地域は,日本列島の中でも地殻歪みの蓄積速度が大きく,1891年に内陸地震として国内最大規模の濃尾地震が発生した地域でもある.地下構造と地震発生の関係について調べることを目的に,濃尾地震断層地域における観測を実施した(図2).本センターは,この合同観測に関して中心となり運営や取りまとめを行った.(成果に関しては,地震予知研究センターの章で述べる.)

(3) 内陸地震の高密度余震観測

2011 年3 月11 日にM9.0 の東北地方太平洋沖地震が発生し,岩手県から茨城県にかけての太平洋沖では非常に活発な余震活動が発生したとともに,内陸部の多くの地域で太平洋沖地震による影響と思われる地震活動が発生した.定常観測網を補完し余震状況把握の高精度化を目的として,他大学との連携により衛星テレメータやオフラインレコーダによる臨時観測点の展開をおこなった.これらのうち衛星テレメータのデータは気象庁及び防災科研にもリアルタイムで提供され,一元化地震処理等に活用された.本センターは,この合同観測に関して中心となり運営や取りまとめを行った.(観測の詳細は観測開発基盤センターの章で,成果については地震予知研究センターの章で述べる.)