2.11.3 活動的火山における多項目観測研究

本センターでは,火山噴火予知研究センターと密接に協力しながら,浅間山・伊豆大島・富士山・霧島山・三宅島の 5火山において,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目観測を行っている.また,その他の火山においても,他機関との協力により様々な観測を実施している.図1に、浅間山・伊豆大島・富士山・霧島山における観測点の配置を示す(図14).ここでは観測内容を報告することに重点を置き,観測の狙いや観測データの解析による成果については火山噴火予知研究センターからの報告に譲る.

(1) 浅間山

浅間山は本州中部に位置する活動的な火山であり,最近の噴火は2004年の中規模噴火,2008,2009年の微噴火である.広帯域地震,短周期地震, GPS,傾斜,全磁力,空振,熱映像,可視画像の定常/臨時観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.観測データは,山頂付近では無線 LANの中継あるいは光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,地震研まで光ファイバーを利用した高速回線を用いて伝送されている.山頂観測点は光ファイバーに直結している.また,観測点の通信状況などに応じて VSATやフレッツ回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.2009年度から2013年度まで5ヶ年間の主たる成果は以下のとおりである.

(2) 伊豆大島 伊豆大島は東京から南西約120㎞に位置する火山等であり,1986-1987の割れ目噴火発生時には島民が全員島外へ避難した.噴火から27年がたち,次の噴火が近づいていると考えられており,観測網の整備が進められている.現在は29点の地震観測点と 14点の GPS観測点による観測を行っている.内 4点は広帯域地震観測点である.また,全磁力の連続観測に加え,能動的な比抵抗構造探査手法である ACTIVE観測を行っている.また,空振観測網の整備も始まっている.三原山山頂付近では無線 LANを通じてデータを伊豆大島観測所に集約し,その後フレッツ回線を用いて東京まで伝送されている.山麓の観測点の多くはフレッツ回線を通じて直接東京までデータ転送を行っている. 2009年度から2013年度まで5ヶ年間の主たる成果は以下のとおりである.

(3) 富士山

富士山は首都圏に近く,噴火した場合は広範囲に渡って溶岩流や降灰などによる被害の発生が予想されている.宝永の噴火から約300年がたち,マグマの蓄積が進んでいると考えられている.この富士山においては10点の常設地震観測網を主体とした地震観測が行なわれている.観測点の内訳は,5か所が地表設置型広帯域地震計, 3点がボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には 3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々なテレメータ方式が用いられている.2009年度から2013年度まで5ヶ年間の主たる成果は以下のとおりである.

(4) 霧島山

九州南部に位置する霧島連山において,2009年度から2013年度の5ヶ年での最大の出来事は霧島中部の新燃岳で2011年1月から始まった火山活動であろう.2011年1月の噴火前までは,広帯域地震計5点,短周期地震計3点からなる地震観測網に加え,5点の地磁気観測点からなる観測網を維持していた.山頂付近のデータは無線LANで公衆回線の引かれた中継点まで送り,そこからフレッツ回線やVSAT経由で東京まで伝送していた.2010年度に入り新燃岳の活動度が高まったことから,観測資源の新燃岳への集中を進めた.2011年1月の準プリニー式噴火発生とその後の火山活動を受けて,霧島周辺の観測網を大幅に改修・増強した.その主たるものを以下に挙げる.

(5) 三宅島

三宅島は東京から南へ約180㎞に位置する火山島であり,2000年の火山活動では山頂に直径1.6㎞カルデラが形成された.三宅島では多点電磁気観測を主体とする観測を行ってきた.データ伝送にはアルゴス衛星などが用いられている.三宅島は20年弱程度の間隔で火山活動を繰り返す火山である.2000年噴火から13年が経ち,次の5ヶ年の間に次の噴火が起きる可能性が高いことから,新たな観測網構築への準備を進めている.現行の多点電磁気観測網の整理を進めるとともに,新規観測として三宅島西方沖の大野原島に地震・地殻変動観測点を新設することを目指している.2000年噴火当時は多数の海底地震計が三宅島西方海域に設置されたが,今ではすべて引き揚げられており海域の震源決定精度が低い.大野原島の岩の一つに地震計とGPS連続観測点を設置する為の準備を進めている.また,噴火発生前のマグマ上昇に伴う磁気異常を検出するため,無人ヘリを用いた空中磁気モニターの準備を進めている.

(6) その他の火山

(6-1)桜島

桜島は活動が活発化しており,近い将来の大規模噴火発生の可能性もある要注意火山である.2009年度から2013年度の5ヶ年は,無人ヘリを用いて桜島の火口近傍に地震計,GPSを設置し,観測を継続している.毎年,山頂付近の地震計とGPSの回収および再設置を行っている.また,桜島南斜面の安永火口内に空振計を設置した.これらの観測は,火山噴火予知研究センターとの協力の下に実施されている.桜島では火山噴火予知研究の一環として全国の関係機関の協力による人工地震探査が毎年行なわれており,基盤センターからも毎年職員が参加し,協力を行っている.

(6-2) 樽前火山

北海道西部に位置する樽前山において,無人ヘリによる空中磁気探査を行っている.これは,繰り返し観測により,火山山体の熱構造の変化を検出することを目指すものである.複数年の観測データを比較することにより,山頂溶岩ドーム下での温度変化の検出に成功している.この観測は,北海道大学,北海道開発局,JAMSTECおよび火山噴火予知研究センターと協力して実施している.