2.12.7 古い地震・津波の研究

(1) 古い地震記録に基づく地震・津波の研究

地震研や気象庁などに保存されている古い地震記録を用いて過去に発生した大地 震の研究を行っている．明治から大正にかけて南関東で発生したM7クラスの大地 震の波形記録やS-P時間から，震源位置やタイプ（フィリッピン海プレート，太平 洋プレート内部の地震）を明らかにした（図15）．1927年，1953年の房総沖 地震について，S-P時間や津波波形に基づき，震源や津波波源の再推定，メカニズ ム（地震タイプ）の推定を行った．

(2) 史料に基づく古地震・津波の研究

地震研究所では『新収日本地震史料』等の史料集を刊行してきた（2.4.5参照）が， これらは電子化されておらず検索などが困難である，明治期以降に編纂された二 次資料や同時代史料でも省略や誤記が含まれているなどの問題点があった．そこ で，史料集を電子化した上で，原本（図16）もしくは翻刻した刊本を参照して点検する校 訂作業を行っている．江戸時代に新潟・長野両県（ひずみ集中帯）で発生した7つ の大地震について地震史料データベースを構築し，うち2つの地震については震度 データベースを構築し，ひずみ集中帯歴史地震データベースとして公開した．関東地方の地震について は，1600年代から1703年元禄関東地震までの史料の電子化を終了し，校訂作業を 実施している．また，既刊の史料集に含まれていない史料の調査・収集も実施し ているほか，元禄地震による津波・地殻変動ならびに被災地域への影響を調査・ 研究している．

南海トラフ沿いの地震については，紀伊半島五ヶ所湾において1854年安政東海地 震における津波高調査を実施し，また文書史料も踏まえ被害規模の検討を行った．

この他，明治以降の地震予知研究の歴史についても科学史的な調査研究を行った． この結果は，近く書籍として刊行される予定である．

(3) 地質痕跡に基づく古地震・津波の研究

相模トラフで発生する関東地震について，三浦半島の小網代湾において行ってき た津波堆積物調査に基づき，大正関東地震・元禄関東地震の前の関東地震は1293 年永仁（正応）の鎌倉地震であることを明らかにした．三陸沿岸において津波堆 積物の調査を行い，浜堤背後の湿地で6層の津波堆積物を発見した（図17）． 放射性炭素・鉛・セシウムによる年代測定から，これらは15世紀以降の津波によ ることを明らかにし，上部4層は2011年東北地方太平洋沖地震，1960年チリ地震， 1933年昭和三陸地震，1896年明治三陸地震による津波堆積物であることを明らか にした．