3.0 大学及び研究所を取り巻く状況

2009年に実施された外部評価以降,大学や研究所を取り巻く状況は刻々と変化しており,地震研究所の運営及び研究活動も大きな影響を受けている.まず,それらについて概略をまとめ,研究所の運営における背景を説明する.

国立大学が,2004年4月に国の機関から文部科学省の所管する法人へ移行して10年が経過し,法人としての大学経営改革も着々と進められ,運営費交付金の学内配分は総長に一任されるなど,総長と理事・副学長などで構成される大学執行部の権限は格段に強化された.文部科学省への新規の研究計画・設備更新の予算要求も,国立大学法人としての判断が優先されるようになった.一方,地震研究所における地震・火山の研究は長期的な取り組みとして一国立大学法人の枠を越えて全国共同利用で実施されることが多いため,大学執行部の理解を得るための努力が一層強く要求されるようになった.

国立大学法人化後も,国家の財政事情は厳しい状況が続き,大学運営費は年率1%ずつの「効率化」と呼ばれる削減が続けられ,それに応じて,各部局に配分される運営費が定常的に削減されている.とくに,2011年の東日本大震災の影響による災害復興以外の予算の削減や,原発事故の影響による電力料金の高騰により,運営費がさらに圧迫される状況において,科学研究費補助金や政府系委託研究などの外部資金の獲得が研究活動を維持する上で重要度を増している.

予算の削減は人件費抑制に直結し,教職員の定員についても一定割合で削減が進んでいる.また,日本国民人口の年齢構成の変化は大学運営にも影響し,高齢化を受けて再雇用上限年齢が65歳まで引き上げられる一方,少子化の影響は18歳人口の減少として現れ,国公私立大学入学定員が削減され,教員ポスト数も全国的に削減されている.入学者数の減少は大学院進学者数の減少に繋がり,さらに理科離れや,高校理科教育に占める地学教育の比重の少なさも影響して,地震研究所における大学院学生数も減少傾向にある.そのため,国際化を促進し,海外からの留学生受入の進めており,現在,工学系では大学院生の半数以上が留学生となっている.

人員削減は,教員はもとより,事務職員や技術職員についても深刻な問題となっている.とくに,地震研究所における技術職員は,長期的に安定した観測に基づく研究を推進するために必要不可欠なスタッフであるが,後述するように退職者数に対して新規採用可能数が少なく,今後の研究所における観測業務体制について検討する必要が生じている.

これらの職員数の減少を補うためには,非常勤職員の雇用に頼らざるを得ない状況となっているが,これについても様々な問題が内在している.東京大学としても,非常勤職員について多様な採用職種を用意し,各部局のニーズに応えようとしているが,2012年に制定された労働契約法改正により,5年を越えて雇用契約を結ぼうとする際に,無期雇用への移行申請が可能となる反面,雇用形態の自由度が減少する危険性が生じてきた.この法律は研究機関に所属する非常勤研究員の実態と整合せず,研究の流動性を阻害するものとして,2013年に制定された研究開発力強化法により,10年間は無期雇用への移行が猶予されることになった.以上の点を踏まえて,非常勤職員雇用については,今後も注意深く制度設計を行なっていく必要がある.