9.1.4 大型プロジェクトに基づく研究コミュニティ発展への貢献

地震研究所は,共同利用・共同研究拠点制度を核として,予知研究等の大型プロジェクトの運営や研究者ネットワークの構築に加え,継続的・組織的に大型プロジェクトの発案を行い,関連分野全体の発展を目指している.代表的なプロジェクトを以下に示す.

(1)「予知研究」を起点とした大型プロジェクト

「予知研究」を起点として,受託研究などの国の施策による重点的研究課題に関する大型プロジェクトを数多く発案し,それぞれのプロジェクトにおいて,研究代表者を務めるなど,中核的役割を果たしている.

(2) 海底観測技術開発とその技術を応用したプロジェクト

地震研究所は,これまで海底観測技術開発において顕著な実績があり,国内外の様々な大型プロジェクトの発案と運営に深く関わっている.独立行政法人海洋研究開発機構が2006年度以降進めている南海トラフ域の「地震・津波観測監視システム(DONET)」や,独立行政法人防災科学技術研究所が2011年度から進めている「日本海溝海底地震津波観測網」のシステム構築においては,地震研究所が開発した次世代海底ケーブル式観測システムが大きく貢献している. また,海底ケーブルによる定常観測に関する受託研究や科研費特別推進研究などの大型プロジェクトにおいて,発案と運営の中核的役割を果たし,さらに,日本地球掘削科学コンソーシアム(J-DESC)や国際深海掘削計画(IODP)を通じて国際的な海底観測プロジェクトにも参画している.

(3) 革新的技術開発をベースとする大型プロジェクト

2010年度に高エネルギー素粒子地球物理学研究センター(11.4節)を設置するなど,革新的技術開発をベースとした大型プロジェクトを組織的に推進している.上記センターは,素粒子を用いた透視技術という本研究所発の革新的技術を用いて,「ニュートリノ地球物理学」プロジェクト発案や,雲仙,ストロンボリ火山(イタリア),テイデ火山(スペイン領カナリア諸島)のミュオン共同観測体制構築等,国内外の様々な大型研究プロジェクトに貢献している.

(4) 学際的大型プロジェクト

2008年度に,学内の情報学環,生産技術研究所とともに「総合防災情報研究センター(CIDIR)」を設立し,理工学・社会科学と連携して共同研究プロジェクトを発案する体制を整備した.これにより,複数の民間企業や研究機関を含む産学連携共同研究実施のための新しい組織「IT強震計コンソーシアム」を地震研が中心となって2008年4月に発足させた.現在までに参加企業により様々なIT強震計センサーが製品開発され,コンソーシアムや研究会に参加している企業人・研究者らによって,ネットワークを用いた建物強震観測や建物微動観測などに活用されている.また,2012年度に地震研に新設された巨大地震津波災害予測研究センター(2.9節)は,巨大地震・津波の発生予測からそれらが社会に与える影響までを視野にいれた新たな理工学連携の学問体系構築を目指すとともに,京コンピュータを用いた最先端計算科学を駆使した災害予測研究のプロジェクト化に組織的に取り組んでいる.

(5) 国際的大型プロジェクト

2005年度に開設した国際地震・火山研究推進室(8.1節)の仕組みを活用することによって,本拠点制度を起点とするプロジェクトを国際的大型プロジェクトに発展させる取り組みを進めている(8.4節).このような取り組みの具体例として,ニュージーランド北島地域の構造探査計画(2.5.2(10)節)があげられる.この研究で得られた知見は,沈み込み帯に関する国内の他の共同研究によって得られた知見の普遍化や深化に貢献することが期待される.