名前:佃 為成
            職名:助教授
            所属:地震地殻変動観測センター
            専門:地震活動、地震テクトニクス、地震予知
 
 
 
 
 


研究内容

       我々のもっとも力を入れているのは, 大地震が発生する前の地殻活動を捉え, 地震予知を目指す研究である. 微小地震活動, 特に群発地震の発生により, 地殻内深部での地殻応力の変化を知り, 地下水変化や地電流変化, ラドンなどの地中ガス放出増加, 深部地下水上昇による地温上昇などにより, より細かく地殻活動の把握が可能となる. そのための地下水などの「点」の観測, 自動車や列車走行ガンマ線測定のような「線」の観測, 人工衛星を用いた「面」 の観測を総合的に駆使して, 現象の確認やモデリングを行っている. 地震の波形解析から得られる地殻構造や地殻応力の研究(地震テクトニクス) も地震予知研究の基礎をなす重要な研究分野である.
       最近は, 大地震に伴う異常現象の解明も手がけている. 1995年兵庫県南部地震は 人口密集地を襲い,大きな被害をもたらしたが,直下地震であるが故に,地鳴り, 地下水異常,発光現象,動物などの行動異常といった異常現象が数多く報告された ことも特質すべきことである.隠れた情報は今なお存在すると思われる. 多くの目撃証言があり,電荷の発生や地中からのイオン化ガス放出などの情報と 結びつけることが可能な発光現象や,地下の情報を直接もたらす地下水現象などの 実証的研究が可能な諸現象について,その実態を明らかにしていくことは 我々地震研究者の責務である.このような考えに基づいて, 異常現象解明のための研究を実施している.異常現象の研究手法として現象再現のための室内実験やメカニズムを説明する モデルを構築することも重要ではあるが,現象の実態究明なくしては, 本当の意味の再現実験やモデル構築は不可能である. アンケート調査や聞き込み調査などフィールドにおける実証が絶対に必要で, モデルや再現実験は,その実証された事実を説明するものでなくてはならない.
       人間の五感センサーによる報告が多いが,地下深部との連絡をもつ温泉や 地下水の井戸という”天然の観測装置”に基づく証言もある.さらに, 既存の京大地殻変動観測所の歪計,地電位計,地下水温計などの観測装置, 電気・ガス施設などの測定装置の記録も利用できる. 実際,異常な地電流が変電所で検知された例がある. 測定点からの異常なしという情報も重要で,現象の出現の範囲や空間スケール を特定するには不可欠である.
       これまでの研究によって,地震時の発光現象については, 発光源は少なくとも23カ所あり,震央から50kmまで広範囲に分布していることがわかった. 発光に4つのタイプがあり,色もだいたい3つに分類された. 発光源のいくつかについては,その大きさ,高さ,発光の輝度などが推定された. このような定量的研究は世界的に例がない.さらに発光現象については,いくつかの地点で地震の直前や数時間前, あるいは前日に発生したらしいという証言も集まってきている. 地震時と同じように数秒間の現象もあるが,例えば,神戸市の西隣の三木市では 数時間前,真っ暗なはずの空が少なくとも数分以上夜明けのような明るさだった という.目撃者がまだ存在すると思われ,調査を続行している.
       地下水の異常として,もっとも特質すべきは,地震の2日前に明石海峡の海面の 茶褐色の濁りがフェリー船長によって見つかっており,地下水噴出の可能性が高い. いくつかの温泉や井戸の水では,地震時に温度が上昇したり, 1日間程度の白濁現象が見られた.
       白濁物質の特定や原因追求のための地下水成分の 調査を新潟大や信州大と協力して進めている.地震後の地下水変化をモニターするため 4カ所にて,水温連続観測も行っている.有馬温泉では, 数時間の継続時間と2-4℃の高さをもつパルス的な温度変化を観測した. これらのダイナミックな変動と地殻活動との対応も研究対象に入りつつある. 地下水の流れる電流の観測も行っていいるが,電気化学的なプロセスも考慮しての ことである.
       樹木を用いた植物の異常についても,実験を行っている. 高圧送電線からの人工的な擾乱による刺激に反応したと思われる信号を記録しており, その確認のための近接2点による観測も開始した.大地震時に強力な電場異常が ローカルに発生し,その異常を植物や動物が検出できるのかの実験である.
       地震の震動は地表で音波に変換され空気中を伝播する.これが地鳴りである. しばしば,人々の耳に入る音波の方が体感として地面の震動より先に検知される. その理由を明らかにするための実験を音響関係の企業(日東紡音響エンジニアリング) との共同研究として新潟県北部と静岡市において実施している. いくつかの地震の記録によれば,数10Hz以下の低周波では, 地面の震動の速度と音波の圧力は比例する.しかし,高周波では, 地面の震動はノイズレベル以下であるのに,音波はエネルギーを得ているという 非線形性がある.高周波の励起については,今後,新たなデータを得て明らかにしたい. 音波と地震発光との関係の研究も視野に入れている.

主要論文・著書

後藤恵之輔・柳浩二・佃為成, 越後平野における衛星データからの地盤温度情報について , 自然災害研究西部地区部会報研究論文集, 23, 167--170, 1999.

佃為成, 平成10年度地震研究所特定共同研究(A) ---内陸直下地震の予知, 1--53, 1999.

佃為成編, 平成11年度地震研究所特定研究(A)報告 内陸直下地震の予知, 1--145, 2000.

佃為成, 最近の地震活動の推移, 平成11年度地震研究所特定研究(A)報告内陸直下地震の予知, 8--13, 2000.

佃為成, ガンマ線観測による地殻活動調査, 平成11年度地震研究所特定研究(A)報告内陸直下地震の予知, 102--112, 2000.

佃為成・新井崇史・奥澤保, 白馬倉下の湯における水温連続観測, 平成11年度地震研究所特定研究(A)報告 内陸直下地震の予知, 86--88, 2000.

 佃為成, 群発地震回数減衰の指数法則およびベキ法則, 群発地震研究会討論集会(1997年鹿児島県北西部地震と群発的地震活動場の特徴), 鹿児島市, 1998.10.7, (鹿児島大学理学部付属南西島弧地震火山観測所・九州大学理学部付属島原地震火山観測所・群発地震研究会), 137--155, 1999.